バスケ男子代表はスター軍団・フランスをどう追い込んだのか? ホーバスHC、河村勇輝らが語る2つのポイント

大島和人

河村に手を焼いたフランス

第1クォーター、攻め込む河村 【写真は共同】

 善戦の理由をもう一つ挙げると、それはオフェンスにおける「ピック&ロール」だ。河村がビッグマンのスクリーンを活かして仕掛けるプレーが効いていた。

 河村は小さなギャップからシュートを決め切る能力がある。フランスは「ズレ」が生まれることを嫌い、途中からスイッチDF(河村のマークをビッグマンに受け渡す対応)やフェイスガード(ボールが入らないように、1対1で徹底的に張り付く対応)に切り替えていた。

 河村は「スクリーンを使った後に、相手のエラーが出ていました」と振り返る。フランスはゴベールが、途中からベンチに下る時間帯が増えていた。決して無駄に休ませていたのではなく、DF戦術の穴となっていたからだ。

 彼はこう続ける。

「途中まではピック&ロールから効果的に点数が取れていて、相手もすごく嫌がっていましたし。相手がスイッチ(DF)をするためにゴベール選手を出さず、ディフェンスの機動力を上げてきていました」

 第4クォーターにはウェンバンヤマをアウトサイドで河村につける場面もあった。「身長差52センチ」のマッチアップはなかなか見ない状況だが、河村はそれを予想していたという。

「ブラジル戦も(203センチの)バトゥム選手がPGのヤゴ(・サントス)選手についていましたし、スイッチもしていたので、そういった時間帯は必ず来ると思っていました。クラッチタイムの第4クォーターの残り8分、7分から、そういった状況でしたけど、驚きはまったくなかったです。ただ、そこからの1対1の選択だったりで、自分はもっとやるべきことがあったかなと思います」

 彼は相手にフェイスガードされた時間帯、スイッチDFで「ズレ」を消された時間帯のプレーについて強い反省を口にしていた。だとしても河村が八村とともに「善戦」の立役者であることは間違いない。

フランス戦を次につなげられるか?

フランスに敗れ、引き揚げる日本代表 【写真は共同】

 ホーバスHC、河村は「悔しさ」を口にしていた。オリンピックは世界のトップ12が出場する大会で、日本は現状を考えると1勝がまず大きな快挙だ。フルメンバー、本気のフランスに勝利ができていれば、日本バスケ史上最高の勝利になっていた。それを逃したのだから、悔しさが「善戦の喜び」を上回るのは当然だろう。

 そもそも選手は本気で勝ちにいき、勝てると思っていた。それは河村のコメントからも伝わってきた。

「勝つために来ていて、良い勝負をしに来たわけではない。自分たちはやれると思って準備してきました。勝てなかったからといって、やってきたことがすべて台無しになるわけではないですけど、フランス戦に限ってはチャンスが今日1回しかなかった。そのチャンスをつかみ取れなかった、そして僕のコントロール不足で取りきれなかったところが、本当にチームメイトに申し訳なく思います」

 もっともチームメイトの反応は違った。渡邉飛勇は本気で驚いた様子を見せつつ、こう口にしていた。

「塁が本当にすごく良いゲームをしていたけど、(退場で)僕に代わって、僕にオフェンススキルはないからちょっと心配だった。でもユウキ・カワムラはエグい。マジでエグい……」

 フランス戦が日本バスケと河村の実力、成長を証明した試合だったことは間違いない。

 日本が目標のベスト8入りを達成するためには、ブラジル戦の勝利とグループBの3位以内に入ることが絶対条件だ。3グループの3位チームから2カ国が勝ち上がるレギュレーションで、そう考えると「フランス戦を4点差で乗り切った」ことに意味が出る可能性もある。

 ホーバスHCは悔しさを口にしつつ、選手への称賛も忘れなかった。

「このゲームはいろいろな場面があって(八村)塁の退場、4ポイントプレーは痛かった。ただあれがあっても選手は頑張った、すごいアウェーで、2万7000人を前に、ウチのバスケットを見せられました。(ドイツ戦からも)ステップアップしたと思いますよ。勝つチャンスだったし、勝てると思っていたけど……。目標はまだ終わっていないです」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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