バスケ男子代表はスター軍団・フランスをどう追い込んだのか? ホーバスHC、河村勇輝らが語る2つのポイント

大島和人

延長でゴールを狙う河村 【写真は共同】

 歴史的な大勝利に、手がかかっていた。パリ五輪バスケ男子1次リーグ、日本は第4クォーター半ばから8ポイントのラン(連続得点)でフランスを逆転していた。残り50秒でエバン・フールニエの3ポイント(3P)シュートにより80-80の同点とされたが、そこから河村勇輝が2度のフリースロー2ショットを完璧に決めて4点差を奪う。

 バスケットボールの24秒ルールを考えれば安全圏と言ってもいい点差だった。フランスが3Pシュートを決めても日本のリードは変わらず、フランスは「日本にフリースローを与えても試合を止める」ことを強いられる状況だったからだ。

 しかしフランスは残り10秒の土壇場で、控えポイントガード(PG)のマシュー・ストラゼルが左ウイングから3Pシュートを決めて、なおかつ河村勇輝のファウルを誘ってエンドワンのフリースローを得た。ストラゼルがそれを沈め、試合は84-84の同点となる。直後のオフェンスで日本は河村がシュートを決め切れず、試合はオーバータイム(延長)へもつれることになった。

残り10秒の「4点プレー」が響く

 シュートファウルは明らかに不要で、極端にいえば「何もせず相手に決めさせていい状況」だった。河村は真上に腕を差し上げて相手のシュートコースを消す対応をして、相手との接触が発生した。

 ファウルかどうかは「微妙」で、動画を見るとむしろ相手のトラベリングを取るべきにも見える。しかし判定は判定、結果は結果で、それを受け入れるしかない。

 この試合の河村は29得点、6アシスト、7リバウンドを記録している。日本が勝利すれば間違いなく最大のヒーローは彼だった。一方で厳しい言葉を使えば、日本の「敗因」も作ってしまった。

 渡米を先日発表した23歳のPGは、残り10秒で犯したファウルについてこう説明する。

「僕も絶対にファウルはしないところは意識していたので、上には飛んでいました。だけど相手のうまくファールをもらうような技術にやられてしまった」

 トム・ホーバスHCはこう振り返る。

「あのプレーは相手のオプションを(日本のDFが)止めて止めて、(フランスの)かなり長いポゼッションでした。ストラゼルがシュートをするときに、勇輝は良いクローズアウトをしたけど、ちょっと近かったかな……。僕の角度からはタッチしてないと思ったし、いいクローズアウトかなと思った」

 日本は第4クォーター残り8分31秒に八村塁が2度目の「アンスポーツマンライクファウル」を宣告され、退場となっていた。最大の攻め手となっていた彼がコートから去ったことで、気が萎えたファンも少なくないだろう。

 しかし代役で起用された渡邉飛勇はディフェンスで大きな貢献を見せ、NBAのリバウンド王やブロック王の経験を持つリュディ・ゴベールからシュートブロックを決める場面もあった。

 オフェンスでは河村がジョシュ・ホーキンソンとの連携からシュートを次々に決め、フランスを瀬戸際に追い込んだ。ジャイアント・キリングの実現は、すぐそこまで来ていた。

ツインタワーを「フィジカル」で封じる

フランスには「ホームの利」もあった 【写真は共同】

 フランスは自国開催で、ゴベールに加えて2023年のNBAドラフト1位指名を受けたビクトル・ウェンバンヤマがいる。216センチのゴベールがセンター、224センチのウェンバンヤマがパワーフォワードに並び、2人はいずれもNBAのスター選手だ。

 日本は第4クォーターの勝負どころで、エースの八村を欠きつつ、フランスを翻弄する時間帯を作った。それは大きな驚きで、日本バスケの真価を証明するものだ。

 善戦の理由は大きく2つあった。ホーバスHCは振り返る。

「(27日にフランスと対戦した)ブラジルはけっこうフィジカルなプレーをしていた。このオリンピックは押しているのを、ローポストでも吹かないんですよ。だから(日本もフィジカルにプレーをして)ウチのビッグは良い仕事をやったと思います」

 小さいチームが大きいチームに勝つなら、フィジカルにプレーをするしかない。ホーバスHCは「ヒットファースト」をしばしば強調するが、それは接触プレーをいとわず、自分たちから仕掛けていく発想だ。

 フランス戦では主にスモールフォワードとしてプレーしていた渡邊雄太はこう分析する。

「特にウェンバンヤマとゴベールのところはフィジカルにしなければいけないので、(八村)塁とジョシュ(・ホーキンソン)が特に前半はしっかりと体を張っていました。塁が退場してからも(渡邉)飛勇が出てきて、とにかく体を張り続けていた。僕ら外の人間はとにかく運動量を増やして、人数で仕掛けに行きましたが、それを40分間やりきる体力は本当になかなか作れるようなものでもないです。終盤にジョシュの足がつったし、全員体はもう限界が来ていました。だけどそれでも足を止めなかったところが、(20点差で敗れた27日の)ドイツ戦との大きな違いかなと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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