世界ランク2位に浮上し、金メダルを目指す男子バレー 「ブラン監督のプラン」はなぜ成功しているのか?

大島和人

ブラン監督はコーチ、監督代行時代も含めて7年にわたって力を尽くした 【Photo by Buda Mendes/Getty Images】

 過去の栄光で知られた伝統国が、気づくと日の出の勢いで上昇する「新興国」になっている。それがバレーボールの男子日本代表だ。

 日本の男子は1972年のミュンヘンオリンピック(五輪)で金メダルを獲得しているが、その後はメダルから遠ざかっている。96年のアトランタ大会からは3大会連続で五輪出場を逃し、2008年の北京大会は4大会ぶりの出場を果たしたものの11位。12年のロンドン大会、16年のリオデジャネイロ大会も出場権を逃した。自国開催の東京大会(21年)は上昇基調にあったが、それでもベスト8止まりだった。

 しかしチームは23年秋のワールドカップ(W杯)でパリ五輪の出場権を獲得すると、24年のネーションズリーグでは銀メダルの快進撃を見せた。国際バレーボール連盟(FIVB)が発表したパリ五輪直前の世界ランキングはポーランドに次ぐ2位まで浮上している。

 ネーションズリーグの時点で既に「メダル」とパリの目標として口にしていた選手たちだが、目標は「金メダル」に繰り上がった。決して高望みでなく、彼らは間違いなくそれを目指す過程を踏んでいる。

 なぜ日本バレーは強くなったのかーー。7月10日に東京都内で開催された合同取材のコメントをもとに、理由を探ってみたい。

必要だった「長い時間とプラン」

 躍進の立役者を挙げるなら、フィリップ・ブラン監督は外せないだろう。

 ブラン監督はフランス出身の64歳。2017年に全日本男子のコーチへ就任し、東京五輪後は監督に昇格した。フランス人指導者というとサッカー日本代表元監督のフィリップ・トルシエ、ヴァイッド・ハリルホジッチのような「激情型」の印象も強い。しかしブランは穏やかで、周囲をリスペクトしながら、地道に仕事を進めるタイプに見える。

 指揮官に「日本バレー躍進の理由」を尋ねると、微笑を浮かべてまずこう返してきた。

「Because,I made a good job.」(私がいい仕事をしたからね)

 冗談めかした口調だったが、おそらく本音だし、明らかな事実でもある。彼はさらにはこう続けた。

「現代バレーボールはすぐに結果が求められがちですが、成功には長い時間とプランが必要です。それぞれのゴールを決め、一つ一つ積み上げて、自信をつけながら成長することが必要です。1年1年の目標を決めて、それぞれその目標をクリアしていくことが重要でした。東京五輪は、まだメダル獲得には早すぎるタイミングでした。しかしそこでグループリーグを突破して、その後さらに成績を積んで、今はメダルが現実味を帯びてきたと考えています」

 もちろん障害が一つもなかったわけではない。西田有志は数少ない例外だが、日本のトップ選手は高校から大学へ進む。ブラン監督にとって、強化の制約になる部分だった。

「ただ一つ今まで(改革が)できなかった、限界を感じたところがありました。それは若いタレント(の時間)を大学の大会、活動に割かれてしまって、成長する時間を奪われてしまったことです」

 一方で東京五輪前後のコロナ禍が、ブラン監督のプランを利した部分もある。

「今考え直すと、コロナの期間に大学へ行かなくても良かった髙橋藍と大塚達宣は非常に成長しました。今後は大学生のタレントを見つけたら、大学バレー(のカテゴリー)に囚われず成長させる計画作りが必要だと思います」

「個の国際化」が選手の可能性を拓く

髙橋藍はイタリアの経験を成長の足掛かりにした 【Photo by Roberto Tommasini/NurPhoto via Getty Images】

 ブラン監督は日本人選手が「世界」に打って出るための後押しをしてきた。髙橋藍は22歳で石川祐希、西田有志とともに日本代表の得点源となっているアウトサイドヒッターだが、彼はブラン監督との出会いをこう振り返る。

「イタリア挑戦はブラン監督が『海外挑戦をしてみないか』と言ってくださったことも(理由に)あります。自分が代表に初選出されたときから、サーブレシーブなどを徹底して細かく言われてきました。当初はすごくしんどかったというか、ストレスにはなっていました。でもああやってしつこく言われたことが、皆同じだと思いますけど、今のディフェンス力や精度の高さにつながっています」

 パリ五輪に臨むメンバーを見ると、主力の多くは海外経験を済ませている。石川、西田、髙橋に加えて宮浦健人、関田誠大、甲斐優斗と12選手中6名が欧州のクラブでプレーした経験を持っている。もちろん大学、企業など所属チームの協力があってこそ実現した挑戦だが、代表が世界と戦うために「個の国際化」に日本バレーは取り組んできた。

 日本は石川祐希が192センチ、髙橋藍が188センチ、西田有志が186センチで、セッターの関田誠大は175センチ。世界の中でもとびきり「小さい」チームだ。一方で石川は世界でも有数のアタッカーだし、チームを見ればいい意味で個が際立っている。身長こそ(バレーボール選手としては)低くても、相手の配置や対応を見て攻略できる賢い選手たちが揃っている。

 一方でそのような創造的プレーを世界レベルで実現するためには、経験値の裏付けが必要だ。そんな彼らのポテンシャルを引き出したポイントが海外挑戦だった。ブラン監督はこう説明する。

「海外はチームメイトとどうコミュニケーションを取るか、新しいバレーボールにどう適応するか、自ら模索していかなければならない環境になります。身長の低い西田や(髙橋)藍は特に海外でプレーするのが重要で、背の高い選手に対してどうプレーするかを学ばなければなりませんでした」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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