課題を残しつつ大一番に勝利したバレー男子代表 スロベニア戦で感じた「52年ぶりメダル」への期待

大島和人

予選第2週を終え8戦6勝と、随所で勝負強さが光る戦いをみせている 【(C)FIVB】

 世界の強豪16チームが参加する「バレーボールネーションズリーグ2024」は、9日に男子の福岡大会を終えた。日本代表は福岡(北九州市小倉北区の西日本総合展示場)でイラン、ドイツ、ポーランド、スロベニアの4カ国と対戦し、このラウンドを3勝1敗で締めている。第1週ブラジルラウンドからの通算戦績を6勝2敗として、予選第2週終了時点で5位に位置している。
 日本は既にパリオリンピックの出場権を得ていて、ターゲットは「五輪のメダル」だ。したがってネーションズリーグはチーム作りの場でもある。ただし予選ラウンド終了時の世界ランキングは五輪の組分け抽選に影響するため、大切な前哨戦になる。

 8日のスロベニア戦は相手の世界ランキングが5位で、同4位の日本にとってパリに向けて負けられない戦いだった(世界ランキングは試合前時点)。

スロベニアとの大一番を制す

 日本は7日のポーランド戦を普段は先発に絡まない「セカンドユニット」で臨み、セットカウント0-3で完敗した。石川祐希、高橋藍、西田有志といったエースを温存して、世界ランキング1位との戦いに臨んだのだから、想定内の結果だろう。

 フィリップ・ブラン監督はこう説明していた。

「石川らをこのラウンド(福岡大会)から起用し始めて、連戦をした後に、疲労が目立ってきていました。そのまま(ポーランドとスロベニアの)2連戦を続けさせるわけにはいきません。ポーランドも強豪ですが、スロベニアとの戦いが一番です」

 日本代表はランキングへのインパクトが大きいスロベニア戦に、はっきり重きを置いていた。スロベニアは強豪だが、まだ五輪出場権をつかんでおらず、彼らにとっても日本戦は「負けられない戦い」だった。予選ラウンドもここまで無敗で、日本が敗れたポーランドも5月26日に下している。

 日本はベストメンバーを起用し、スロベニアとの大一番をセットカウント3-1(25-23、19-25、26-24、25-21)で制した。世界ランキングも4位から3位に浮上し、続くフィリピンラウンドとファイナルラウンド、そしてパリ五輪に向けて弾みをつけた。第1セット、第3セットの勝負どころで決め切った勝負強さも素晴らしかった。

本調子でない石川を西田がカバー

西田はサーブ、スパイク、ブロックとすべて好調だった 【(C)FIVB】

 スロベニア戦の立役者は、間違いなくオポジットの西田だ。チーム最多の26得点を挙げ、アタック決定率も71.4%と抜群だった。イタリア・セリエAでプレーしていて合流の遅れた石川、高橋はコンディションや連携が国内組に比べて上がっていない。その中で西田の左腕への依存度が自然と高まっていた。

「この試合が山でもありましたし、しっかりピークを持ってこれてよかったです。(石川と高橋の状態が上がらない中で西田にトスが)来るだろうなと思っていました。それを決め切るのが自分なので、仕事を全うしただけです」(西田)

 高橋はチーム2番手の16得点を挙げ、強みのレシーブでも貢献を見せていた。

「スロベニアはオリンピックの切符を取りに来ていて、自分たちよりも気持ちの入った試合だったと思います。そして日本に勝つか負けるかでランキングも変わってくる状況でした。ここでしっかり勝っておくと、オリンピックで戦うときにスロベニアのメンタルも違うと思います」(高橋)

 オポジットも含めたアウトサイド陣は、日本が強みとするポジションだ。西田が186センチ、高橋が188センチ、石川は192センチと世界レベルでは小型だが、状況判断や駆け引き、精密なスパイクで違いを出していく。

 ただ、石川は本来の持ち味を出し切れていなかった。スロベニア戦のアタック決定率も、33.3%にとどまっている。

 彼はこう口にしていた。

「3試合に出場して、個人的にはなかなか良いプレーを見せることができなかったですけど、合流して間もないですし、試合をするのも久しぶりです。そこに関しては、少しずつ上げていければいいかなとは思っています」

 ブラン監督もこう述べていた。

「石川の調子が出ていなかったときに西田であったり、(高橋)藍であったり、他のオプションを披露できたところが収穫です。石川は代表シーズン始まったとき、パフォーマンスをピークに持っていくのに時間かかる選手です。今は少しずつ上がってきている時期なので、あまり心配はしていません」

共有されている課題

セッター関田誠大(写真)と高橋、石川の細かい連携は「詰め」が必要 【(C)FIVB】

 取材をしていて強く感じたのは、選手たちの「落ち着き」だ。重要な勝利を挙げた直後でも、浮かれた様子は一切なく、喜びより課題への言及が多かった。

 例えば高橋は、セッター関田誠大とのコンビについてこう述べていた。

「8割は合っています。ただイタリアでやってきた石川選手も自分も、やっぱりセッターのフィーリングは(所属チームと)違います。少し早く入ったり、待ちすぎたり、まだ細かいズレがありました。それはまだ試合を通してやっていくことが必要です」

 石川もこう口にしていた。

「まだトスと合ってない部分がありますし、チャンスボールが返ってきているのに1点を取り切れてないところもありました。サーブはいいですけど、レセプションの関係性も改善点はたくさんあると思います。ドイツ戦のようにサービスエースがたくさん取られていたら、どんなチームでも危ない試合になってしまう。僕たちの生命線はディフェンス、レセプションなので、そこも一度、修正する必要があると思います」

 ブラン監督も選手たちと同じポイントを指摘していた。

「関田のトスであったり、レシーバーの間に来るサーブに対してのパスであったり、そういった細かいところをみんなで解決した上で、メンタル的なところの改善・強化をしようと思っています」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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