世界ランク2位に浮上し、金メダルを目指す男子バレー 「ブラン監督のプラン」はなぜ成功しているのか?

大島和人

「海外のトレンド」「割り切り」を植え付ける

日本はリザーブメンバー(富田将馬)も含めた13名でパリ五輪に臨む 【提供:日本バレーボール協会】

 小さいチームが勝とうとすれば、大きいチーム以上の努力をしなければいけない。戦術、スキルで上回らなければいけない。それは真理だが、バレーに限らず競技ごとの原則、基本は決定的に大切だ。戦術やスキルの独自性を追求しすぎることは危険でもある。

 ミドルブロッカーの山内晶大はこう述べる。

「ブラン監督、コーチは海外のトレンドを持ってきてくれました。あとはかなり『割り切った考え方』を個人、ポジションごとに指導してくれます。今までになかった考え方を教えてくれました」

 日本バレーは「割り切る」「捨てる」といった取捨選択が不得意だった。山内はこう続ける。

「ブロックに関して言うと、自分もそうでしたけど『全部に行こう』としていました。クイック、パイプ(バックアタック)、レフト、ライトの4つすべて行かないといけないと思っていましたが、今はそこを絞る割り切りを持っています。あと個人的にブロックが上手くいかないと、クイックが上手くいっても、引っ張られて下がってきてしまうときがありました。(ブラン監督は)そこは分断化して考えるように言います。メンタリティ的な部分でも助けてくれて、非常に助かりました」

 ブラン監督は完璧主義の行き過ぎを是正した。必要な努力を整理し、そして日本が欠いていた「世界のトレンド」も時間をかけて選手たちに浸透させた。

 チームは東京五輪、ネーションズリーグと一つ一つ経験を積み上げてきた。2016年から代表で戦ってきた関田誠大はこう述べる。

「8年前とはもうまるっきり違うんじゃないですか。前だったら『ちょっとヤバいな』といったイメージでいたが、今は『どうすれば打開できるか』という(前向きな)考えになって、どうゲームを進めたらいいか試合中に考えられるようになっています」

世界のファイナルを経験して

日本はネーションズリーグを2位の好成績で終えた 【(C)FIVB】

 ネーションズリーグの準優勝は、パリに向けて大切なステップになった。キャプテンの石川祐希は言う。

「オリンピックで金メダルを目指すために、ネーションズリーグで決勝に行こうと話していました。今まで僕たちは国際大会の決勝に行ったことがありませんでした。オリンピックのメダルをイメージはできていましたけど、金メダルを目指そうとなったときに、決勝を経験していない中でそのイメージはできません」

 もちろん3年前はベスト8止まりだったチームが金メダルを目指すとなれば、相当なチャレンジだ。石川も浮かれている様子はない。

「注目していただいているのは非常にありがたくて、会う方に『メダルのチャンスがあるね』とも言っていただくのですが、皆が思っているほど簡単なものではないし、勝てる保証もありません。たくさんの人の期待、応援を力に変えることはできますが、それはプラスアルファであって、僕たちはまず自分たちのバレーボールをやらなければいけない。あくまで僕たちは挑戦者で、最近力をつけてきたチームです。経験値は他のチームの方があると思っています。そこはしっかりと現実を見て、取り組んでいきたい」

 しかしこのチームには金メダルを目指すだけの「資格」「勢い」が間違いなくある。そもそもどんな色だろうと、メダルを獲得できればそれは52年ぶりの快挙だ。パリでの戦いが、今から楽しみでならない。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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