もう一つの大記録を打ち立てたハミルトン 来季のフェラーリでもはたして勝てるのか?

柴田久仁夫

アロンソがあとに続く?

2017年開幕戦。メルセデスで頂点を極めていたハミルトン(右)と、マクラーレン・ホンダでどん底にあったアロンソ(左) 【©️柴田久仁夫】

 実は比較的最近まで、300戦を超えて最初に勝つのは、むしろアロンソだと僕は思っていた。ハミルトンより7シーズン早い、2001年にF1デビュー。先週末のイギリスGPがなんと390戦目だったが、今もバリバリの現役だ。

 マクラーレン・ホンダ以降は優勝から遠ざかっていたが、アストンマーティンに移籍した去年は開幕戦からコンスタントに表彰台に上がり、レッドブルの二人に次ぐ選手権3位をキープ。一時は2位セルジオ・ペレスを追い落とすのも、時間の問題と見られるほどだった。しかしシーズン中盤以降は車体の進化スピードが鈍り、最後はハミルトンにも抜かれて4位に終わった。

 もしこの年のレッドブルとマックス・フェルスタッペンがあそこまで強くなかったら、シーズン前半のサウジやマイアミで勝てていたかもしれない。去年のアロンソはそう言ってしまえるほど、予選一発の速さもレースでの安定性も群を抜いていた。純粋なドライバー力で評価するなら、当時41歳のアロンソは間違いなくフェルスタッペンに次ぐ2番手の実力の持ち主だった。

 それが今年は、別人のように元気がない。アストンマーティンの戦闘力自体がライバルチームに大きく劣っているだけでなく、アロンソ自身もチームメイトのランス・ストロールに負けるレースが増えてきたのも気がかりなところだ。

 アロンソの最後の勝利は、2013年スペインGPまで遡る。11年以上のブランクを経てアロンソが再び勝ったら、今回のハミルトン以上の大事件になるだろう。

ハミルトンはフェラーリでも勝てる?

少年時代にアイドルだったアイルトン・セナのポール記録を抜き、遺族から贈られたセナのヘルメットを前に涙を拭うハミルトン 【©️柴田久仁夫】

 そしてハミルトンは、来季からフェラーリに移籍する。今のメルセデスの復調ぶりを目の当たりにしたイギリスを中心とするF1メディアは、「移籍の決断は失敗だったのではないか」と言い出している。しかし2012年にメルセデスへの移籍を決めたときも、彼らは「なぜわざわざマクラーレンから出る?」と疑問を呈していた(ちなみに当時の僕も、彼らの意見に同調した)。

 その後のハミルトンは僕たちの不明を嘲笑うかのようにメルセデスで勝ちまくり、このチームだけで6回のタイトルを得た。アロンソほどの逸材が何度も移籍でしくじり、タイトル獲得はキャリア初期のルノーでの2回のみだったのと、まさに対照的だ。

 その法則からいけば、アロンソは結局アストンマーティンで勝てず、ハミルトンは強くなったフェラーリで第2の全盛期を迎えることになる。水面下で着々とチーム力を上げているように見えるアストンマーティンと、逆に主要エンジニアたちが次々に抜けていくフェラーリの現状を見る限りは、とてもそうなるとは思えない。

 しかし来年はまだしも、車体もパワーユニットも激変する2026年の勢力図がどうなるかは、誰も(おそらくハミルトンもアロンソも)的確には予想できていないはずだ。

(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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