ハンドボール代表オルテガ監督は“スペインの野村克也” 長時間ミーティングと「ノート」で進むチーム強化

大島和人

オルテガ監督は2週間の準備でフェロー諸島戦に臨んだ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 男子ハンドボール日本代表「彗星ジャパン」が、7月1日と3日に東京の国立代々木競技場第一体育館でフェロー諸島とパリ五輪に向けた壮行試合を行った。

 日本は2023年10月のパリ五輪予選で韓国や中東勢を下してアジアの「1 枠」をつかみ、36年ぶりの自力出場を決めている。一方で24年2月にダグル・シグルドソン監督(当時)が辞任を表明。4月上旬にカルロス・オルテガ氏の就任が決まり、急ピッチでチーム作りを進めざるを得ない状況だ。

 オルテガ監督はスペイン出身の52歳で、選手としては強豪・FCバルセロナで長くプレーした経歴の持ち主。過去にも2016年から17年に日本代表の指揮を執っており、その後はドイツのクラブを経て現在はFCバルセロナの監督を務めている。

 フェロー諸島はパリ五輪の出場権を得ておらず、ヨーロッパの中でも新興国に相当するチームだが、初戦は日本が29-30で敗れた。中1日の2試合目は日本が修正に成功し、31-25と快勝している。

中1日でチームに違い

 オルテガ監督は3日の試合をこう総括している。

「2日前の試合との違いとしては、まずキーパーが非常にいいプレーをしたところです。ディフェンス面も改善されましたし、安平選手が入って、攻撃もかなり良くなりました。改善しなければいけない点は多くありますけど、今日の試合に関しては非常に満足しています」

 安平光佑は24歳のCB(センターバック)で、チームの司令塔だ。サッカーのCBとは全く役割が違い、攻撃の起点としてバスケットボールでいう「ポイントガード」と似たプレーをする。彼は2020年に渡欧し、現在は北マケドニアのRKヴァルダルに所属。同クラブでEHFチャンピオンズリーグにも出場している。

 オルテガ監督は安平を高く評価し、代表の副キャプテンも任せている。左足首捻挫からの回復途上で、1日の試合はほとんどコートに立たなかったが、3日は彼が攻撃の核となっていた。

 キャプテンの渡部仁も、10歳下の安平についてこう評価する。

「試合中はどうしても短い時間でコミュニケーションを取らないといけないですけど、そういった中でもコミュニケーションをする能力が非常に高い選手だと思います。ベンチにいてもいろいろ観察していて、観察眼と会話の能力はすごく頼もしいです」

 また3日の試合は攻守の分業が成功していた。オルテガ監督は入れ替え自由のルールを活かして「攻撃時は安平」「守備時は部井久アダム勇樹」というこまめな入れ替えを行い、成功させていた。

 172センチと小柄な安平に対して、部井久は195センチと大柄で、運動能力も高い。中央で構える相手の大型PIVO(ピヴォ)を警戒し、部井久、PIVOの吉田守一らの複数で対応していた。

 部井久はこう振り返る。

「チームが始動して2週間ちょっとで、1日は初めての試合でした。試合を経験して、失敗した部分は修正すればいいということで、何をやればいいかハッキリしました。第1戦の失敗が今日の試合には生きたと思います」

 安平も「日本の強みである速攻を、もっともっと試合で出していきたい」と述べつつ、「ディフェンスの部分は、本当に100パーセントに近いものを出せたと思っています」と手応えを口にしていた。

「なぜノートを持っていないんだ?」

安平光佑は若くして海外経験豊富な司令塔 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 サッカーやバスケットボールでもスペイン人指導者は総じて戦術的に緻密だが、オルテガ監督も同様だ。

 渡部はオルテガ監督の特徴を、こう説明する。

「本当に『せいの』で連動する感じです。誰か1人でも自分の役割ができていないと、システムが崩れるので、タイミングが大変です。(守備で)出て行くならパスを出させないようにするのではなくて、相手の腕に当たる。映像を切り抜かれて『お前は触ってない。そこに触るんだ』と指摘されます。覚えることはいっぱいあるので大変ですが、それを徹底できると結果が出ますね」

 ハンドボールは「2分間退場」が頻繁にあり、数的有利な状況、数的不利な状況についてもそれぞれ攻守のシステムを用意する必要がある。始動からパリ五輪初戦・7月27日のクロアチア戦に向けて合計5週間でそれをチームに浸透させるとなれば、厳しいミッションであることは否めない。

 かくして彗星ジャパンはちょっと早めの「夏期講習」に取り組んでいる。

「最初のミーティングで、(他の選手は)ダグル(・シグルドソン前監督)のときみたいに手ぶらで行ってしまっていました。僕は7年前を知っているのでノートを持っていったんですけど、『なぜノートを持っていないんだ? 次までに買ってこい』と言われていました。7年前は1カ月くらいの間に、A5のノートが2冊行きました。今回は少し小さいやつを2冊買って、もう半分くらい埋まっています。1日2ページ以上は書きます」(渡部)

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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