次世代型プロリーグ構想が頓挫した日本ハンドボールリーグ 中村新代表理事が拾う「火中の栗」

大島和人

JHLの新代表理事となる中村和哉氏 【大塚淳史】

 日本ハンドボールリーグ(JHL)の新代表理事となる中村和哉氏(63歳)の就任会見が、6月30日に都内で行われた。

 JHLは2023-24シーズン開幕時点で男子13チーム、女子11チームが加盟しているハンドボールのトップリーグ。2021年4月にリーグが法人として独立し、改革に踏み出した。初代代表理事に迎えられたのはプロ野球界を経て、2015年からバスケットボールBリーグの創設に携わった葦原一正氏。彼はリーグにビジネス機能を集約させる「シングルエンティティ」や選手の契約を社業と競技に分ける「デュアルキャリア」の制度化といった特色を打ち出し、新リーグを主導していた。

 しかし22年8月末に締め切られた新リーグへの申し込みでは、ジークスター東京や湧永製薬、大崎電気といった男子の有力チームが応募を回避。ジークスターの大賀智也社長が記者会見を開いて新リーグの意思決定プロセスや当時の理事会を批判し、日本ハンドボール協会は葦原代表と松井隆事務局長に処分を下すなど、対決構図が浮き彫りになっていた。葦原代表は今年3月末に退任を表明し、6月14日に中村氏の新代表理事就任が内定している。

チーム関係者の就任に反対票、棄権も

 ただし14日の臨時社員総会でも、中村氏の就任に対して賛成票が「14」、反対票が「4」、棄権が「7」と割れていた。仮にあと2票賛成が少なければ信任されず、再投票になる瀬戸際だった。

 女子チームの強豪・北國銀行ハニービーのゼネラルマネージャー(GM)、北國銀行の代表取締役会長である中村氏がリーグのトップに就任することは典型的な利益相反になる。それが意図的か結果的にそうなったかは別にして、自チームに有利な制度設計や運営が起こり得るからだ。少なからぬチームが反対、棄権に回った大きな理由はそこだった。

 中村新代表はこう応える。

「14日の社員総会では、私が北國銀行ハニービーのGMを務めていることによる、チームとのコンフリクト(利益相反)が大いに懸念をされたと承知はしております。そのような中でも、何とかハンドボール界を一本化していきたい。全チーム揃った形で新しいリーグに臨んでいきたい という思いから、引き受けさせていただきました」

 リーグの立場で発言、行動をしていく自信も口にしていた。

「銀行員として銀行法、金商法(金融商品取引法)、個人情報保護法など非常に厳しい法律の縛りの中で仕事をしてきています。今までリーグの実行委員会を含めて、自チームを利するための発言は一度もしてこなかった自負もあります」

「火中の栗を拾う覚悟」

 現実問題として「中村氏が引き受けなければどうなったのか」という緊急事態のジレンマはあったに違いない。

「今のハンドボール界の状態は、決して平時ではないと思っています。協会とリーグ、チームとリーグは、普通であれば一体になってハンドボール界をどう盛り上げるかを一緒に考える立場です。けれど今は決してそういう状況ではないと私は認識をしています。そこを正常化しないと新リーグ構想、選手の強化におそらく結びついていけません。この表現が妥当かどうかは別にして、火中の栗を拾う覚悟で、理事長(代表理事)を引き受けさせていただきました」

 北國銀行は『葦原構想』に乗ったチームだが、結果的に中村氏は軌道修正を図りブレーキを引く側に回った。これについて彼はこう説明する。

「実は内側から制度改革について、ものを申していきたいという思いから、(新リーグに)手を上げました。ただ、そこで分裂が明らかになりました。元々葦原さんに申し上げていたのは、ハンドボール界の足元を考えると分裂は得策ではないということ。(ジークスター東京のオーナーである)金丸(恭文)さんにお話させていただいて、修正案を取りまとめた経緯です」

理事3名、監事1名の暫定的な体制

 代表の内定がギリギリにもつれた経緯もあり、新体制は暫定色が濃い。30日に発表された新体制は、まず前体制の全理事が退任している。その上で中村氏も含めて理事3名、監事1名という理事会として最低限の構成となった。

 理事は中村代表、岡正規氏、松中信彦氏という顔ぶれ。岡氏は男子の強豪・豊田合成ブルーファルコンのオーナーで、豊田合成の役員を務めている。松中氏はダイエー(現ソフトバンク)ホークスでプレーしていた2004年に『平成唯一の三冠王』となったプロ野球の名選手。息子がハンドボールを始めたことからこの競技に魅せられ、現在は小中学生のハンドボールチーム「KINGS」を運営している。リーグのアンバサダーや解説者を務めたこともある。

 新代表はこう述べる。

「十分な理事会という形にはなっておりません。早急に選考委員会を立ち上げて、十分な機能を果たせる理事会を構成できる選定をしていきたい。あまり大きすぎるとしっかりした議論ができないので、(理事は)10人か11人程度を想定しています。できるだけガバナンスコード(※スポーツ庁が提示している競技団体に対する指針)を満たせるような形で構成していきたいと考えています」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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