データ野球の未来を担う充実の施設に元阪神・林威助も熱視線。台湾野球の大躍進を支える最新トレーニングに迫る
株式会社ネクストベースが、2022年に民間初のアスリート向けスポーツ科学R&Dセンターとして設立した同施設は、アマチュア選手からNPB選手まで、すでに1500人以上が利用し、データを活用したパフォーマンスの向上を図っている。
昨年11月の「ラグザス presents 第3回WBSCプレミア12」開催前に台湾代表選手が同施設を訪れたことで、台湾選手のなかで「NEXTBASE」の名が瞬く間に広がり、最近では台湾、韓国の選手も足を運んでいるそう。取材にうかがった日も、台湾プロ野球・富邦ガーディアンズの野手5名がトレーニングに励んでいた。
今回は、データと野球の最前線に迫るべく、ネクストベース代表取締役の中尾信一さんと、かつて阪神で活躍し、現在は富邦ガーディアンズ副GMを務める林威助さんにお話をうかがった。
高いスキルを持ったプロフェッショナルたちが客観的にデータを解析
「健康診断などで異常が見つかると、その後に大病院でさまざまな角度から精密検査をすると思います。その検査結果を基に『この数値に問題があるので、対策をしていきましょう』と問診後、薬が処方される。それと同じことが我々のラボではできるのです。フィジカルとスキルの精密検査と問診によって課題を見つけ、お薬の代わりとして、選手ごとにフィジカルや動作スキルのトレーニングプランを出す、という感じです」
そして、“お薬”を出すにあたって、ハイレベルな機器ももちろんネクストベース・アスリートラボの大きな強みだが、なにより優れていると感じたのは“人”だ。ネクストベース・アスリートラボには、バイオメカニストやアナリスト、パフォーマンスコーチ、理学療法士など、各分野で特に秀でたスキルを持った精鋭たちが在籍し、選手がより高いパフォーマンスを発揮するための提案を行っている。
「今日対応しているヒッティングのバイオメカニストもドクター(博士)の学位をもっています。さらにパフォーマンスを向上させるためにはどうしたら良いのか、スポーツ科学に基づいてアドバイスしています」
最先端の機器でデータを測るだけでは、パフォーマンスの向上にはつながらない。しかし、ネクストベース・アスリートラボでは、研究を通して学び、そして現場で経験を積んだプロフェッショナルたちがデータを客観的に解析し、解決まで導いてくれるのだ。
ミーティングで、中尾さんがプログラムの内容を説明したところ、「その場でGMから『本格的に考えたい』と前向きな発言をいただいた。『しばらく優勝できていないので、ぜひ優勝したい』というお話もあったので、その目標達成のためにお役に立ちたい」と、今回のトレーニングが決まった経緯を明かした。
ネクストベース・アスリートラボの環境は“チャンス” 富邦ガーディアンズ・林威助副GMに聞く、データ野球の可能性
世界的にデータ分析が著しい進歩を続けるなかで、台湾にも同様の施設があることが予測されるが、そのなかでも異国の地を選んだ理由はどこにあったのだろうか。
「台湾にも、こういう施設はあるのですが、(データの)説明や分析をする人間がちゃんといないと、測定しても(的確なアドバイスを)くれないじゃないですか。(ネクストベース・アスリートラボには)いろんな方がいて、議論してから言ってくれるので、それが一番心強いと思いますね。こういう人材は、台湾にはなかなかいないんじゃないかなと思います」
一番の決め手は、“人”だった。林さんが言うように、ネクストベース・アスリートラボでは選手の指導にあたって、本人に提案を行う前に、前述したバイオメカニストやアナリスト、パフォーマンスコーチ、理学療法士らがデータをもとに意見交換を行い、それから選手にアドバイスが送られる。多角的な視点を含んだ指導を受けられるため、選手は体に負担をかけることなく、効率よくパフォーマンスの向上を図ることができるのだ。
さらに、「球団も、これからNEXTBASEといろんな提携ができれば、という考えでやっている。(今回連れてきた)選手たちが成長してくれたら、もっともっと選手を連れてきたいし、球団はそういう投資をしたいと言っている」と、データを活用した技術の向上に、球団として取り組んでいく意向を示した。
中尾さんが考える、プロ野球界の未来とネクストベースの展望
「監督、コーチもデータ分析や動作分析を重要視する方がさらに増えてくると思います。また、AIの進化のスピードも凄いので、それぞれの選手に対して瞬時に的確な指導ができるアンドロイドが出現するかもしれません。“人間がそれらをどのように活用するのか?”は本当に興味深いです」
昨年9月にはシカゴ・カブスと契約するなど、海外にも活躍の幅を着実に広げているネクストベース。最後に、今後の展望を中尾さんにうかがうと、「社内では『世界一を狙おう!』という意見も出ていますが、海外向け事業展開と日本での既存事業とのバランスをどう取っていくかがすごく難しい。最近はそればかり考えていますね」と、頭を悩ませながらも、海外進出をシミュレーションしていることを明かし、「先行投資は必要だけど、やる意義は絶対にある!」と力強い言葉で締めくくった。
取材・文 後藤万結子
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ