パリ五輪、OAなし“ベストの18名”決定に至る特殊事情 海外組多数の副作用も「日本サッカーの明るさ」

川端暁彦

選外なのはオーバーエイジだけではない

「移籍の可能性がある」松木玖生の選出も見送られた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 最も大きな注目を集めるオーバーエイジ枠についても、当初は活用することが想定されていた。必要なのは「本人の意思とクラブの了承」(山本ダイレクター)ということで、予選突破以前の段階から、A代表選手たちに広く五輪出場意思の有無を確認。その上で大岩監督の希望も受けてクラブとの交渉を行う形となったが、これは当初から難航が予想されていた。

 五輪の開催時期である7月下旬から8月初めはシーズンとシーズンの間であり、新たなリーグ戦が開幕するタイミング。選手には移籍の可能性が付きまとい、「現所属クラブの了解を得ても、次のクラブの了解を得られるとは限らない」(山本ダイレクター)上に、そもそもシーズン前の準備段階で選手が負傷のリスクも大きい大会のために抜けることを良しとするかといえば、これはかなり難しい。

 またJリーグについてもシーズンの真っ最中であり、当初から選手の招集は予選に関しては1クラブ最大3名、本大会は1クラブ最大2名という制限を課せられていた。その条件を呑んでもらいつつ、さらにシーズン中のJリーグからオーバーエイジ選手を選ぶのは難しく、最終的に「オーバーエイジなし」という判断に行き着いたようだ。中途半端な選手を選ぶくらいなら、若い選手の可能性に賭けたいという考えがあったのも想像に難くない。

 また、欧州でプレーするU-23年代の選手たちもその多くが「呼べない」結論に至ることとなった。A代表でプレーしているMF久保建英、鈴木唯人、GK鈴木彩艶の3人だけでなく、他の選手との交渉も難しいものだったようだ。また、山本ダイレクターがメンバー発表会見で明かしたように、Jリーグ組の中でもMF松木玖生(FC東京)のように欧州移籍の可能性があるため選べないという選手までいる。

 こうした決断の背景として、大会登録の18名の差し替えは負傷や病気などに限られ、「移籍した結果として参加できなくなった」といった理由による入れ替えは認められないことも大きかった。現実問題として、ただでさえ18名という少ない登録枠が17名や16名に減ってしまうリスクは冒せないわけで、「招集の確約が取れない選手は呼ばない」(山本ダイレクター)という結論に至ったわけだ。

「そういう時代」の五輪へ挑む

「選べなかった選手のことではなく、選んだ選手を」。大岩監督はそう強調し続けた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 呼びたくても呼べない選手が多数出たのは、若くして欧州に旅立つ選手が増えたことの副作用のようなもので、「そういう時代になった日本サッカーの明るさとして捉えている」という山本ダイレクターの言葉も、実のところ本音だろう。

 また、その過程に本意ではない部分があったのは確かだろうが、大岩監督はいつもと同じように選んだ選手たちを「ベストメンバー」と断じ、あらためて「経験を積むために出るわけではありません」とも強調した。

 指揮官が言うように、この18人で五輪のタイトルを真剣に狙うのは大前提。そもそも、監督のオーダー通りのメンバーが揃わないのは(程度の差はあれど)日本に限って起こる話でもない。現代五輪における男子サッカー競技は本質的に「そういうもの」なのだ。

 結果的に予選を勝ち抜いた経験を共有する選手たちでメンバーが固まったことのメリットもあるだろう。あとは本番で「呼びたいと思った選手を呼べたことがない」2年半の中で試行錯誤とともに積み上げてきた成果を出すのみ。

 パリ五輪男子サッカー競技、日本の初戦は現地時間7月24日。パラグアイとの戦いからその幕を開けることとなる。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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