元サラリーマンたちが引っ張った越谷のB1昇格 「特殊なチーム」が積み上げたユニークな歴史と文化
5月12日にB1昇格を決めた越谷アルファーズ。長谷川キャプテンの目には光るものがあった 【(C)B.LEAGUE】
宇都宮ブレックス(発足当時は栃木ブレックス)は2007年に発足したプロバスケットボールチームだが、JBL(当時)の会員資格は大塚商会から譲渡されたものだった。核となる選手、コーチも大塚商会から栃木に移った経緯がある。
大塚商会は関東実業団6部から再スタートをして、2016年秋にBリーグが発足する直前は「NBDL(全国リーグの2部)」まで上がっていた。bjリーグも合流した新リーグのスタートはB3からだったが、2019-20シーズンにはB2へ昇格。さらに5月11日、12日のB2プレーオフセミファイナル(準決勝)でアルティーリ千葉に連勝し、来季のB1昇格を決めた。
大塚商会はB2昇格直前にオーナーから外れて資本関係はないが、人のつながりが今も強く残っている。今回の昇格も「元サラリーマン」たちの奮闘を抜きにして語れない。
「背中で引っ張ってきた」男が大一番で存在感
しかし越谷は11日の初戦を延長の末に97-93で制すると、12日も75-72と勝利し、大一番での強さを見せた。
安齋竜三ヘッドコーチ(HC)は、宇都宮の指揮官として2021-22シーズンのB1チャンピオンシップを制している。このときも東地区4位のワイルドカード(各地区の上位「以外」から勝率上位が入る追加出場枠)から勝ち上がった。2シーズン前と同様の下剋上を見せた安齋HCだが、彼は至って謙虚だ。
「僕自身は、僕の仕事を全うしているだけです。(宇都宮時代に)ワイルドカードで優勝して、今回もそうですけど、僕は勝率1位のとき(2020-21シーズン)に決勝で負けています。1シーズンかけてチームで培ったものが、最後にまとまって、そこで思い切りぶつかろうと選手たちがやってくれたところ(が勝因)だと思います。前のチームのときも言いましたけど、自己犠牲をしっかり払いながら、それを周りが評価できるチームにだんだんなってきたところが、この結果だと感じています」
11日の第1戦は、ガードの松山駿が3ポイントシュート5本を含む33得点で勝利の立役者になった。12日の第2戦はLJ・ピークが24得点を挙げ、インサイドへのドライブから高確率でシュートを決めていた。
A千葉に対するアドバンテージとなっていたポイントはインサイドディフェンス、ゴール下の強さだろう。アイザック・バッツは34歳、小寺ハミルトンゲイリーは39歳で、どちらも日本で長くプレーしているベテラン。二人は「縁の下の力持ち」として、ディフェンスやリバウンドの争いで存在感を発揮していた。
キャプテンの長谷川智也は第1戦こそプレータイムがなかったものの、第2戦は6分12秒のプレータイムを得て、3Pシュートを2本とも成功。第4クォーター残り7分58秒に決めた3Pシュートは、リードを5点から8点に広げてチームを勢いづけるものだった。
安齋HCは長谷川の活躍についてこう述べる。
「背中でずっと引っ張ってきたヤツがこういう舞台に立つのは、アルファメイト(※越谷アルファーズのファンの通称)の皆さんも期待していたところだと思います。その期待に応える智也は『持っているな』と感じます」
HC、キャプテンは大塚商会育ち
長谷川はB1の3クラブでプレーしたのち、越谷に「復帰」した 【(C)B.LEAGUE】
長谷川は現在35歳で、2012年に大塚商会へ入社。シーホース三河、サンロッカーズ渋谷、大阪エヴェッサでプレーした後、2020−21シーズンから越谷に「帰って」きた。
長谷川はこう振り返る。
「B1に要は修行みたいな形で行かせてもらって、会長から『帰ってこい』『一緒にB1へ上げようよ』という話をもらいました。過去にチャンスを台無しにしてきた部分(2度のプレーオフ敗退)もあるけれど、こうして前・大塚商会アルファーズが、越谷アルファーズになり、B1昇格という最高のストーリーを実現できました」
安齋HCは述べる。
「僕自身の話でいくと、元々(大塚商会に)いましたし、ずっとお世話になっていた今の会長から、夢を達成したいということで呼んでもらいました。今日一つ(目標)達成できて、恩返しが少しできました」
閤師敏晃氏はクラブの会長で、大塚商会時代からチームを支えてきたキーマンだ。彼が長谷川、安齋HCに声をかけたことがB1昇格につながった。安齋氏はまず「アドバイザー」としてチームに1シーズン関わった後、今季からHCになっていた。
大塚商会出身のくくりで言うと、ブレックスの前社長で現在はGMを務める鎌田眞吾氏も同社のOB。茨城ロボッツの立ち上げを支え、現在は越谷の代表取締役社長を務める上原和人氏も東京日産を経て大塚商会でプレーしていた。
大塚商会は選手が主に営業マンとして、一般社員と同じように働く「文武両道」の企業チームだった。ビジネスマンとしても鍛えられている同社OBは、オフコートの即戦力となっている。
根付かせた「プロ」のカルチャー
安齋HCはBリーグを代表する指揮官の1人 【(C)B.LEAGUE】
「僕が去年入ったとき、アルファーズは『勝っていけるカルチャー』がないなと正直思っていました。楽しくはやっていても、チームとしてまとまっているとか、何かを全員がやり切ろうとする組織ではありませんでした」
安齋HCより1年早く越谷に加わっていた上原社長は、こう説明する。
「この1年、2年でプロクラブとしての厳しさ、試合に対する気持ちはすごく変わりましたが、それはクラブとして取り組んでいたことです。私は3年前に(茨城から)アルファーズに戻ってきました。プロクラブでしたけど、まだ企業チームの状況が抜けていなかった。安齋HCは『ただ自分たちがバスケットをやっているだけではダメだ』という内容を、ずっと言い続けていたと思います。我々はバスケットを『やらせて』もらっている。皆さんに応援してもらって、スポンサーさんもいる。そういう方々のために、覚悟を持ってやらなければいけないと伝え続けていました」
社業のある選手に合わせて夜に組まれていたトレーニングは、2021-22シーズンから日中に移されている。春日部には練習場、クラブハウスも用意され、体制は「完全なプロ」になった。
今季の開幕前にLJ・ピークや井上宗一郎、笹倉怜寿、菊地祥平、喜多川修平といった新戦力も加わっていた。長谷川もその波及効果に触れる。
「竜三さんと一緒にやりたいって言ってB1の選手、有望な選手が集まってきてくれました。それで既存メンバーとかの意識も変わったと思います」
一方で企業チーム、大塚商会の良きカルチャーもある。上原社長は述べる。
「『明るさ』はすごく残っています。あとはこの一体感で、そこもすごく大事にしています。プロ選手もいれば、サラリーマン選手もいるということで……」