J1首位を支える“裏キーマン”荒木駿太 森保監督も着目する町田の強み「予測の一歩」を体現

大島和人

荒木駿太は5月3日で1得点1アシストを記録し、勝利の立役者になった 【(C)FCMZ】

 FC町田ゼルビアが混戦J1の首位に食らいついている。昨季はJ2にいたチームながら3月を4連勝、首位で終えた。4月は2勝3敗と負け越し、27日のジュビロ磐田戦も0-2で落としている。しかし5月3日の柏レイソル戦は2-0で勝利し、2位・セレッソ大阪が引き分けたことで首位に返り咲いた。

 5月3日の柏戦で先発に抜擢され、1得点1アシストと大活躍を見せたのが荒木駿太だ。荒木は24歳のプロ3年目で、169センチのアタッカー。FW登録ながらサイドハーフ、ウイングバック、トップ下、ボランチでも起用されるマルチロール(万能プレーヤー)だ。

 年代別、大学も含めて「代表」とは今まで縁のない人材だが、町田躍進の密かな立役者になっている。

2023年のJ2は全試合に出場

 町田の黒田剛監督は状態がいい選手を逃さず起用する指揮官で、それは緩みを見せたら外す厳しさと引き換えだ。キャプテン昌子源はこう述べる。

「躊躇(ちゅうちょ)なくなのか、躊躇しているのか、僕らには分からないくらいダメだとスパーンと行きます。仮に試合が抜群でも、前の週はどんなに良くても、その後の1週間がダメだったらスパーンと行く。だから『(練習から)やらないと出られない』という危機感が選手にはあります」

 荒木はそんな町田のコーチ陣がただ一人、2023年のリーグ戦全試合に起用した選手だ。今季のJ1は負傷で初登場こそ第5節になったが、そこから第10節まで6試合はすべて途中交代で起用されている。昨季も合計出場時間はチームの8位にとどまっていて、42試合中26試合がベンチスタートだ。つまり町田のスーパーサブ的な存在になっていた。

 柏戦はそんな荒木の「スゴさ」が分かりやすく出た。黒田監督はこう称賛する。

「初先発で出た荒木駿太はかなり躍動をしていたし、セカンドボールにも絡んでいました。オ・セフンの近くでセカンドボールを拾って、間間(あいだあいだ)でボールを受けて、相手の嫌がるスペースでしっかりプレーしてくれました。1点目も2点目も相手の急所にきちっと飛び込んでいく素晴らしい感覚を見せてくれました」

 町田はこれまでオ・セフンと2トップを組んでいたナ・サンホを右サイドに移し、荒木をセカンドトップ(トップ下に近い位置でプレーするFW)に置いた。監督はその理由をこう説明する。

「(守備の)スイッチの入れ方、前線のチェイシングは荒木の方が少し上手いこと、また(ナ・)サンホは右サイドハーフの方が本職であるということが理由です」

「町田のサッカー」に立ち戻った柏戦

大柄な相手でも、ひるまず「戦える」ところは荒木の強み 【(C)FCMZ】

 町田が上位を快走すれば、当然ながら強みも研究される。町田にボールを持たせる、プレスを掛けにくいように左右のスペースへ長いボールを入れるといった対応もされていた。本来の「攻守で先手を取る」強みがやや薄れていた。

 柏戦の町田は原点に戻った。事前の練習で切り替え、球際といったベースの部分の確認や、忠実なスライド、ラインの上下といった戦術面の徹底が行われていた。

 町田は監督が不変とは言え、J1で起用されているレギュラーは新加入選手が過半を占める。徹底の度合いはJ2時代からどうしても落ちていた。4月終了時点の10試合10失点という数値は「失点にアレルギーを持つ」ことを標榜(ひょうぼう)するチームにとって危険水域。黒田監督は結果にこだわるコーチだが、柏戦は「内容」にフォーカスしていた。

 指揮官はこう強調する。

「連敗する怖さよりも『町田のサッカーをできないことに対する怖さを感じろ』とミーティングでも強く話をしながら今日は送り出しました。まさしく我々の『勝つためのサッカー』をしっかりと志向してくれたと思っています」

 ボランチの仙頭啓矢は言う。

「相手に『やりたいことをやらせない』のが町田のサッカーなので、そこを徹底しました。ポジションの修正と、それが一つ一つのプレーの与える影響にこだわって、全員が本当に細かいところを徹底できたと思います。この1週間の練習は雰囲気、インテンシティ(強度)、『戦う』といった町田のベースにこだわってやってきました」

 無失点、被シュート4本という数字を見れば分かるように、町田は柏に「やりたいこと」をやらせずに試合を終えた。インテンシティが上がっても、ポジションを正しく取れさえいれば荒くはならない。その証拠に町田戦はこの柏戦をイエローカード無しで終えている。

荒木の「嗅覚」「反応」が生きた2ゴール

柏戦の69分にはヘッドで「J1初ゴール」を記録 【(C)FCMZ】

 荒木はそんなゲームプランの先頭に立った。彼は切り替える、ボールを追う、寄せる、スペースに動き出すといったオフボールのプレーが抜群にいい。長身FWのオ・セフンが競ったこぼれ球を活かす部分でも適任だった。

 9分の先制点は荒木の「嗅覚」から生まれた。相手のクリアが右サイドのラインを割り、右SB鈴木準弥はスローインの体制に入る。スタンドの誰もがロングスローを予想した場面だ。しかし荒木は鈴木にアイコンタクトを送り、ゴールライン沿いにペナルティエリアへ動き出していた。そこにスローインが合い、荒木はラストパスを送ってオ・セフンの先制点をお膳立てした。

 荒木はこう説明する。

「練習のときから『狙えたらすぐリスタートして、相手の隙を突いていこう』と言われていました。(鈴木)準弥くんと目が合ったので『絶対来る』と思いました」

 町田はエリア内に人数を集めた状態から放つロングスローを武器にしている。ただ相手の意識がそこに強く向けば、クイックリスタートへの対策が疎か(おろそか)になりやすい。

 黒田監督はこう振り返る。

「みんなの意識が、おそらくロングスローに向いていたその隙に荒木が走って、そこにボールが出たところが大きかった。これはなかなかトレーニングでできることではなくて、投げる方と走る方の感覚・感性が左右する場面でもありました。荒木の『してやったり』というような、したたかさが功を奏した印象です」

 69分の2点目は「反応」が際立った。エリア右からナ・サンホが放ったシュートが、相手をかすめてわずかに軌道を変えた。こぼれを予測していたファーサイドに詰めていた荒木が、それをヘッドで押し込んでいる。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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