J1王者・神戸は町田をどう封じたのか? 「相手の強み」を出させて“際”を制した老練な戦い
武藤嘉紀は2点に絡む活躍で神戸勝利の立役者となった 【(C)J.LEAGUE】
強者は自分たちの強みを押し立て、弱者は相手の強みを消そうとする――。そんな構図はスポーツ、そしてサッカーの常と言っていい。しかし4月13日の国立競技場で我々が見たものは、良くも悪くも「強者不在」のバトルだった。
町田の「土俵」に乗った神戸
町田はチャレンジャーの戦いを貫き、分かりやすく言えば「相手の嫌がるプレー」を徹底してくる。ボール保持よりも敵陣に押し込むこと……、つまり「ポゼッションよりポジション」を優先してくるチームだ。サイドからの仕掛けでロングスローやコーナーキックを増やし、そこから自分の流れを取るスタイルだ。
神戸のスタイルにも、町田と重なる部分はある。彼らは外国籍のスター選手を放出した一方で、ハードワークや球際、切り替えといったベースを整備して昨季のJ1を制した。とはいえ町田に比べればボールを「持てる」チームだ。
しかし神戸はあえて町田の土俵に乗り、力勝負で勝利した。武藤嘉紀は試合をこう振り返る。
「町田は僕らとやっていることがかなり似ていて、本当に(狙いが)明白なチームでした。そういった相手に対して力勝負で打ち勝てて、非常に嬉しく思います」
「角を取りに来る」町田に神戸は?
オ・セフンがハイボールを競った「その次」が焦点だった 【(C)J.LEAGUE】
武藤はこう説明する。
「町田は前に競り合いに強い選手がいて、かつスピードのある選手もサイドにいて、とにかくやってくることは明白です。ロングスローで押し込んでくるのは分かっていますから、我慢比べでした。僕らはとにかく焦らず、より(陣形を)コンパクトにしようとしました。いつもはハイプレスをかけますけど、今回は相手の戦術に合わせて、相手の良さを消しつつ(プレスをかけずに)、僕らが取った後はカウンターに出ていく狙いでした」
ピッチの「角」を取りに来る町田に対して、神戸はSBを前に出さず、DFラインも総じて下げていた。オ・セフンに当てるハイボールから押し込む町田の狙いに対して、神戸は「その次」のスペースを消しつつ、コンパクトな形を保つことで、セカンドボールからの二次攻撃を防いでいた。
ボール保持は町田が上回る
「枠内シュートの本数」「決定機」といった要素を見ると、展開は完全に互角だった。Jリーグが公表しているスタッツを見れば、町田のボール保持率は53%で、神戸を上回っている。町田が開幕から8試合目にして、初めてボール保持で相手を上回った試合だった。
ただし神戸は集中力を保ち、試合の際を制した。前半45分に山内翔が決めた先制点は宮代大聖が自陣から運び出して作ったチャンスから生まれている。宮代はイブラヒム・ドレシェヴィッチ、チャン・ミンギュと相手CBからのアプローチを上手くいなしてラストパスを送った。武藤の放ったシュートはDFに弾かれたが、武藤はこぼれ球を左に落とし、山内のプロ初ゴールをお膳立てした。
町田の鈴木準弥は振り返る。
「ターゲットの(オ・)セフンに入れた後のセカンドボールを、少し相手に拾われ出したところから(試合を)支配され始めました。広島戦もそうですけど、セカンドボールを拾えなくなると、相手のリズムになってしまいます。今日の試合はセカンドボールの争奪、浮いたボールの処理から相手と入れ替わるシーンがあって、前半の途中から終わりの方にかけて少し相手ベースになっていました」
神戸の1点目はまさに「浮いたボールの処理から相手と入れ替わるシーン」だった。鈴木はこう続ける。
「大きな差はなかったのかなとは思いますが、細かいところでの差の連続が失点につながりました。球際で何個か負けてしまいましたけれど、ああいうところで勝敗は決まります。逆に自分たちはそこで試合を決めてきましたし、神戸や(4月3日に町田が敗れた)広島の強さはそこだなと感じました」(鈴木)