J1王者・神戸は町田をどう封じたのか? 「相手の強み」を出させて“際”を制した老練な戦い

大島和人

武藤嘉紀は2点に絡む活躍で神戸勝利の立役者となった 【(C)J.LEAGUE】

 スポーツには、大きく分けると2つの戦い方がある。一つは「自分たちの強みを出す戦い」で、もう一つは「相手の強みを消す戦い」だ。自分たちの強みを出す中で、自然と相手の強みが消えれば最高だが、勝負がそれほど簡単に進むことは稀だろう。

 強者は自分たちの強みを押し立て、弱者は相手の強みを消そうとする――。そんな構図はスポーツ、そしてサッカーの常と言っていい。しかし4月13日の国立競技場で我々が見たものは、良くも悪くも「強者不在」のバトルだった。

町田の「土俵」に乗った神戸

 FC町田ゼルビアはJ1初昇格ながら、第7節を終えて勝ち点16の首位に立っていた。ヴィッセル神戸は2023シーズンのJ1王者で、勝ち点11の4位でこの戦いを迎えていた。神戸が2-1でこの大一番を制し、町田は首位から陥落している。

 町田はチャレンジャーの戦いを貫き、分かりやすく言えば「相手の嫌がるプレー」を徹底してくる。ボール保持よりも敵陣に押し込むこと……、つまり「ポゼッションよりポジション」を優先してくるチームだ。サイドからの仕掛けでロングスローやコーナーキックを増やし、そこから自分の流れを取るスタイルだ。

 神戸のスタイルにも、町田と重なる部分はある。彼らは外国籍のスター選手を放出した一方で、ハードワークや球際、切り替えといったベースを整備して昨季のJ1を制した。とはいえ町田に比べればボールを「持てる」チームだ。

 しかし神戸はあえて町田の土俵に乗り、力勝負で勝利した。武藤嘉紀は試合をこう振り返る。

「町田は僕らとやっていることがかなり似ていて、本当に(狙いが)明白なチームでした。そういった相手に対して力勝負で打ち勝てて、非常に嬉しく思います」

「角を取りに来る」町田に神戸は?

オ・セフンがハイボールを競った「その次」が焦点だった 【(C)J.LEAGUE】

 町田は神戸戦でも、センターバック(CB)の脇、サイドバック(SB)後方のスペースを盛んに突いていた。守備陣にとって突破されて中に切れ込まれるのは最悪だが、外に蹴り出してもロングスローが待っている。ロングスローはFWも含めた全員が帰陣せねばならず、ゴール前から弾いてもなかなか自陣を脱出しにくい難物。典型的な「相手にとって嫌なプレー」だ。

 武藤はこう説明する。

「町田は前に競り合いに強い選手がいて、かつスピードのある選手もサイドにいて、とにかくやってくることは明白です。ロングスローで押し込んでくるのは分かっていますから、我慢比べでした。僕らはとにかく焦らず、より(陣形を)コンパクトにしようとしました。いつもはハイプレスをかけますけど、今回は相手の戦術に合わせて、相手の良さを消しつつ(プレスをかけずに)、僕らが取った後はカウンターに出ていく狙いでした」

 ピッチの「角」を取りに来る町田に対して、神戸はSBを前に出さず、DFラインも総じて下げていた。オ・セフンに当てるハイボールから押し込む町田の狙いに対して、神戸は「その次」のスペースを消しつつ、コンパクトな形を保つことで、セカンドボールからの二次攻撃を防いでいた。

ボール保持は町田が上回る

 とはいえプレスの位置やプレーエリアを下げればデメリットも生まれる。手前のスペースは空くし、町田にボールを持たれるからだ。

 「枠内シュートの本数」「決定機」といった要素を見ると、展開は完全に互角だった。Jリーグが公表しているスタッツを見れば、町田のボール保持率は53%で、神戸を上回っている。町田が開幕から8試合目にして、初めてボール保持で相手を上回った試合だった。

 ただし神戸は集中力を保ち、試合の際を制した。前半45分に山内翔が決めた先制点は宮代大聖が自陣から運び出して作ったチャンスから生まれている。宮代はイブラヒム・ドレシェヴィッチ、チャン・ミンギュと相手CBからのアプローチを上手くいなしてラストパスを送った。武藤の放ったシュートはDFに弾かれたが、武藤はこぼれ球を左に落とし、山内のプロ初ゴールをお膳立てした。

 町田の鈴木準弥は振り返る。

「ターゲットの(オ・)セフンに入れた後のセカンドボールを、少し相手に拾われ出したところから(試合を)支配され始めました。広島戦もそうですけど、セカンドボールを拾えなくなると、相手のリズムになってしまいます。今日の試合はセカンドボールの争奪、浮いたボールの処理から相手と入れ替わるシーンがあって、前半の途中から終わりの方にかけて少し相手ベースになっていました」

 神戸の1点目はまさに「浮いたボールの処理から相手と入れ替わるシーン」だった。鈴木はこう続ける。

「大きな差はなかったのかなとは思いますが、細かいところでの差の連続が失点につながりました。球際で何個か負けてしまいましたけれど、ああいうところで勝敗は決まります。逆に自分たちはそこで試合を決めてきましたし、神戸や(4月3日に町田が敗れた)広島の強さはそこだなと感じました」(鈴木)

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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