J1首位を支える“裏キーマン”荒木駿太 森保監督も着目する町田の強み「予測の一歩」を体現

大島和人

「相手の嫌がることが分かっている」

黒田監督、昌子主将も荒木の活躍を評価 【(C)FCMZ】

 柏戦では分かりやすい結果を出した荒木だが、その本領は「よく走る」「気が利く」といった数字に出にくい部分にある。柏戦でも前線守備、プレスのキーマンになっていた。

 試合を見ていると荒木は切り替えやセカンドボールの反応が他の選手よりも一瞬速い。だから「五分五分」の状況からこぼれ球もモノにできる。攻撃でも相手が対応に困る、周りを活かす場所に動き出している。

 昌子は荒木についてこう述べる。

「特別に走りが速いわけでもなければ、ヘディングが強いわけでもないし、身体も強くない。だけど相手の嫌がることを常に分かっている気がします。今日の1点目のクイックリスタートなんて、あいつの個人プレーですよ。気の利く、相手の嫌がるプレーはあの得点シーン以外にもありました。ああいうのはあいつの良さかなと思います。キャラクターも含めてチーム内で愛されている、いい選手です」

 荒木はまず長崎総合科学大学附属高、駒澤大で「ストロングスタイル」のフットボールを経験している。プロ1年目の2022年はサガン鳥栖でなかなか試合にでられない日々を経験したが、そこで学んだことも糧にしている。

「サガン鳥栖に入ったらサッカーのスタイルが高校、大学と180度変わって(川井)健太さんからポジショニングを学びました。それで自分のサッカーのスタイルは広がりました。三角形、四角形の間は、常にそこへ立つように意識をしています」

森保監督が見る町田の強みは「予測の一歩」

3日の柏戦は森保一・日本代表監督も視察に訪れていた 【写真は共同】

 柏戦を観戦していた日本代表の森保一監督は、町田の「球際の強さ」について問われて、このような所見を口にしていた。

「強度や球際はおそらく全チームが(目標に)掲げていますけど、相手より予測の一歩が早くなれば、強度と球際で相手を上回ることになります。町田はゲームのプレーモデルが確立されていて、選手が次の一歩を思い切って相手より早く動き出せるところに強みがあります」

 「予測の一歩」はまさに荒木が強みとする部分だ。しかも彼は万能で、点が欲しい状況ならばボランチに入って攻撃をかき回せる。リードしている状況ならば、FWやサイドハーフに入れて前線守備を強化できる。

 さらに黒田監督は「断然走れる」「疲弊しないタイプ」と評していた。昨季の荒木は周りがコンディションを落としがちな夏場も、コンスタントなプレーを見せていた。

 こういう人材は監督、コーチにとって使い勝手がいい。荒木はどんな展開でも生きる切り札で、だからこそ昨シーズンは全試合に起用されている。

U-23代表とのポジション争いに向けて

 もっとも町田のアタッカー陣は人材が豊富だ。柏戦では2023年のJ2・MVPエリキが復帰し、アジアを制したU-23日本代表から平河悠、藤尾翔太も戻ってくる。だからこそ荒木も覚悟を持って柏戦に臨んでいた。

「ここで結果を残さないと、自分はこれからまたスタメンで出られないと思って、試合に臨んでいました。結果で示せて良かったです」

 平河、藤尾といった近い世代のアタッカーに対しても、24歳の九州男児は対抗意識を口にする。

「(平河)悠と(藤尾)翔太の試合を見て、すごく刺激をもらっています。でも自分たちは、あの2人がいなくても勝てると示したかった。悠と翔太には申し訳ないですけど『帰ってきてもポジションはないよ』という気持ちでやっていました。それにあいつらが帰ってきて首位じゃないのは、ちょっと嫌でした」

 攻守によく走れて、しかも気が利く「裏キーマン」がいる。どんな選手も競争に危機感を持ち、全力を尽くすマインドが根付いている。それこそが町田のJ1で躍進している理由だ。柏戦の快勝と荒木の活躍は、強さの一端をサッカーファンに示すものだった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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