ティモンディ前田の理想のプロ野球選手名鑑 「もっと選手の人間性が滲み出るような1冊を」
幼い頃から読み続けてきたというプロ野球選手名鑑について、持論を語ってくれたティモンディの前田さん。こんな名鑑があったら──と、興味深いアイデアも 【YOJI-GEN】
※リンク先は外部サイトの場合があります
印象深い桑田さんの「アイスクリームまとめ食い」
記憶にあるのは、小学3年生くらいかな。うちはおじいちゃんと父親が毎年のように選手名鑑を買っていたので、それこそ『かいけつゾロリ』とか『エルマーのぼうけん』みたいな児童書と一緒に本棚に並んでいましたね。ちょうど野球を始めたばかりの頃で、正直それほど詳しくはありませんでしたが、「オジサンたちの顔がたくさん並んでいるな」って思いながら(笑)、雑誌を眺めていた記憶があります。
──お父さんも野球をやられていた?
そうですね。兵庫県出身で熱烈な阪神ファン。僕はアニメを観たいのに、いつも野球中継が流れているような家庭でしたね。
──前田さん自身も阪神ファンだった?
僕は特定の球団というより、選手推しでしたね。西武が強かった頃のカブレラ選手、ダイエーホークス(現ソフトバンク)時代の小久保(裕紀)さん、あとは巨人のラミレスさんとか。幼少期は特に、そういったお気に入りの選手をチェックするために選手名鑑を見ていましたね。
──名鑑は継続的に購読されていましたか?
特にこの媒体、というのはなかったんですが、ポケット版を手に試合観戦に行った記憶もあります。中学生くらいになると、『パワプロ』(実況パワフルプロ野球)とリンクさせながら使っていましたね(笑)。
──印象に残っている選手寸評などありますか?
父親がずっと買っていたので、それこそ80年代の名鑑もうちにはあったんですが、当時は選手の住所とか家族構成まで載っていましたからね。すごい時代ですよ。選手の1カ月のお小遣いなんかも出ていたし(笑)。
僕が中学生の頃だったかな、巨人の桑田(真澄)さんがメジャーに挑戦(ピッツバーグ・パイレーツ)するってなったときに、それまでどんな成績を残してきたのか、さかのぼって調べてみたことがあるんです。そうしたら、まだ高卒何年目かの桑田さんの特技の欄に「アイスクリームまとめ食い」ってあって。他に何かなかったのかなって思いましたけど(笑)、それでもメジャーに行くような選手にそんな一面があったんだって、ちょっと嬉しくなりましたね。データだけじゃなく、選手のパーソナルな部分を知れるのも、選手名鑑の魅力だろうなって思います。
プロの世界での“横のつながり”が見たい
記者たちに囲まれる現役時代の桑田真澄さん。ディープなプライベート情報を引き出した当時の記者たちの取材力に、前田さんは感服する 【写真は共同】
メジャーの影響でしょう。僕もBS放送のプロ野球中継で副音声の仕事をさせていただくときに活用させてもらっていますし、こういったデータを見るのが結構好きなんです。特に打者のゾーン別打率。今のキャッチャーは絶対に頭に入っているデータでしょうけど、その上でどんな配球をしてくるのかなって考えながら見るのが楽しいですね。このバッターはインコースが強いのに、あえて初球からそこを突いてくるのか、とか。キャッチャー目線で、一緒にシミュレーションしながら試合を観るんです。
──データ重視か、選手の寸評重視か。選手名鑑を買う際は、どちらを優先しますか?
いやー、どっちも好きなんですよね(笑)。ただ、さっきの桑田さんの話じゃないですけど、ちょっとしたプライベートの話とか、面白い特技とかが載っていると、それだけで惹かれますね。
──済美高校の野球部時代も選手名鑑は読んでいたんですか?
いえ、寮にも置いてなかったですし、そもそもひたすら練習でプロ野球を観る時間すらなかったですからね。
──ちなみに、相方の高岸宏行さんはこういった名鑑をご覧になる?
見ますね。昔の『野球小僧』、今で言うと『野球太郎』(竹書房)なんかはよく買っていますよ。高校生や大学生の有望選手を取り上げてくれていて、僕もそうなんですが、それを見ながらドラフト指名されそうな高校生や大学生をチェックするのが好きなんです。
ただ、プロ野球の選手名鑑ってどこも作りが似てしまうじゃないですか。だったらいっそのこと、出身校別の名鑑とか、12球団横断型の1冊があってもいいんじゃないかなって。例えば横浜高校出身者でまとめたり、東都大学リーグで同じ時期にプレーしていた選手がまとまっていたりすると、プロの世界での横のつながりとかバックボーンも見えてきますからね。巻末に簡易的に載せている名鑑もありますけど、そこをがっつり掘ってみても面白いんじゃないですか。あとは年齢別とか、ドラフト年ごとの名鑑とか。作る方は大変でしょうけど(笑)。
──確かに種類も多いですから、特徴がないと選ぶのが難しいですよね。
だからデータに振り切るとか、プライベートな小ネタを充実させるとか、色をはっきりと出してもらったほうが選びやすいかもしれません。両極端のものを1冊ずつ購入する人もいるでしょうし。ポケット版は持ち運びやすさが決め手なので、それだけで需要はあるんでしょうが、大きなサイズのものはもっと差別化してもいいんじゃないですかね。
──ただ、個人情報が制限される時代ですから、プライベートネタはどうしても限られてしまいます。
そうですね。でも昔の記者の人たちはすごかったと思いますよ。1カ月のお小遣いまで選手から聞き出すわけですから(笑)。僕もどうやってネタを集めていたのか気になって、一度記者の方に聞いてみたことがあるんですけど、昔は人気のなかった時代のパ・リーグの球団をまずは担当して取材力を付けて、それから巨人みたいな大きな球団に行く流れだったらしいですね。趣味も映画鑑賞とか音楽鑑賞みたいなありふれたものはダメで、もっとディープな情報を拾ってこいって言われていたそうです。確かに苦し紛れのネタもありましたけど、逆にそれが面白かったりもしましたね。
──今は球団側のチェックも厳しいんでしょうね。
最近の選手寸評は、真面目なネタが多いですよね。昔は「1日に吸うタバコの本数」とか「1カ月に飲むお酒の量」とか、普通に書いてありましたから。そういった情報から、選手の人間性みたいなものがにじみ出ていて、より身近に感じることができたので、今はちょっと寂しいかな。名鑑って、それまで注視していなかった選手が急に活躍したときに、さっとチェックできる便利なものですけど、せっかくならそこに読み物としての面白さがもっとあったらいいなって思うんです。