MLB専門誌『スラッガー』の“データ革命” 編集長が語るプロ野球選手名鑑の制作舞台裏
MLB専門誌『スラッガー』で使用していたセイバーメトリクス指標を、プロ野球選手名鑑にも導入。日本スポーツ企画出版社の『プロ野球オール写真選手名鑑』はデータ充実度で群を抜く©️2024日本スポーツ企画出版社 【YOJI-GEN】
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創刊3年目の大規模なモデルチェンジ
まず、われわれがプロ野球の選手名鑑を初めて手掛けたのは2010年と、それこそ私が小学生の頃から買っていたような他社の名鑑と比べると、かなりの後発でした。ですから、当初は他社との差別化に苦労しました。
──売り上げが伸びるきっかけがあったんですか?
プロ野球の名鑑って、サイズの小さいポケット版のイメージが強いと思うんです。球場に持っていくのにはこっちのほうが便利だし、私自身も一読者として、値段的にも高いワイド版をわざわざ買う必要はないかなって、そう思っていました。ただそうした背景があったからこそ、結果的にわれわれの名鑑が間隙を縫う形になったんです。
──というと?
創刊から3年目に、大規模なモデルチェンジをしたんです。簡単に言うと、データ量を一気に増やしました。それまでは過去3年分の成績くらいしか載せていなかったんですが、当時からすでにメジャーリーグで普及していたセイバーメトリクス(データを統計学的見地から客観的に分析し、選手を評価する手法)系のデータを、日本のプロ野球名鑑にも盛り込んだんです。
それができたのも、長年『スラッガー』をつくってきて、詳細なデータを扱うノウハウの蓄積があったからです。例えば「OPS」(出塁率+長打率で算出する、総合的な打力を示す指標)なんかは、今でこそ一般のファンにも浸透してきましたが、『スラッガー』ではもう2000年代の前半くらいから取り入れていましたからね。日本のプロ野球でもメジャーと同じデータを取れるなら、それを分かりやすく、面白く伝えることができるんじゃないかと思ったんです。
──データ量で他誌と差別化を?
伝統のある新聞社などと違って、後発組には強力な取材のコネクションもありませんでしたし、独自性を出すのであれば、やはり客観的なデータだろうと。打率、ホームラン、打点といった簡単な数字だけでなく、例えば「このバッターは初球をどれくらいの割合で振っているのか」とか、ピッチャーだったら「全投球の何パーセントがストレートなのか」といった、その選手の根本的なスキルを正確に反映するようなデータを選別して載せるようにしたんです。
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大切なのは「データを出しっぱなしにしない」
「こういう名鑑があったらいいな」という子どもの頃の願望を、実際のモノづくりに反映させる久保田編集長。大規模なモデルチェンジで後発のハンデをはね返した 【YOJI-GEN】
はい。われわれがセイバーメトリクス指標を導入した頃は、名鑑に取り入れているところはなかったと思います。そこで一気に違いを出すことができました。
──間隙を突いた、とはそういう意味なんですね。
加えて、データ重視のモノづくりが、ワイド版という判型にも合致したと思います。多少値段が高くて持ち運びにくさがあっても、これだけデータが充実していれば購入する価値があると、読者に認知していただけた。ポケット版が主流のマーケットに一石を投じることができたと思います。
──選手名監市場に「データ革命」を起こしたわけですね?
そうかもしれませんね(笑)。他社もうちに追随してデータを拡充してきましたから。ただ、ポケット版に関しては、やはり「伝統の力」と言いますか、先行他社がまだ根強い人気を誇っています。当社のポケット版は基本的にワイド版を縮小したもので、少し細かすぎるという部分もあるのかもしれません。その点は、今後の改善ポイントですね。
──データ解析が当たり前になった時代にもマッチしたと思いますが、データを扱ううえで気を付けていること、意識していることはありますか?
単に目新しいとか、メジャーで流行っているからといった理由でセイバーメトリクス指標を取り入れているわけではありません。よりその選手の特徴やチームへの貢献度、さらには将来性までが見えてくる信頼性の高いデータだからこそ、使っているんです。
ただ、野球好きのファンすべてがデータ好きというわけではないし、むしろ「OPSとか英語3文字で言われてもよく分からない」と、抵抗感を抱く方も多いかもしれません。ですから、常に心掛けているのは“データを出しっぱなしにしない”こと。例えばワイド版では、そのデータから何が読み取れるのかを解説した寸評を掲載するなど、痒い所に手が届くようなフォローをしています。そうやってやり続けていけば、今はまだ馴染みが薄い指標も、「OPS」のように徐々に浸透していくと思っています。
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