「非タレント軍団」の町田がJ1首位に立つ理由 新加入選手が語る強さの背景と“危機感”

大島和人

仙頭啓矢は攻守で貢献し、ゲームキャプテンも任されている 【 (C)FCMZ】

 初のJ1に挑むFC町田ゼルビアが、第4節で優勝争いの先頭に躍り出た。開幕戦こそ退場者を出してガンバ大阪と引き分けたが、そこから名古屋グランパス(◯1-0)、鹿島アントラーズ(◯1-0)、コンサドーレ札幌(◯2-1)と3連勝。勝ち点で並んでいたサンフレッチェ広島が引き分け、柏レイソルが敗れたため暫定首位に浮上している。

 町田は昨季のJ2を圧倒的な強さで制したとはいえ、初昇格チームが一ケタ順位でシーズンを終えた例は21世紀に入って1チームしかない。J2ではアドバンテージだった資金力も、J1の中では平凡な水準だろう。さらに先発メンバーの半分以上が入れ替わりで、開幕から主力の負傷も相次いでいる。

 しかしそんな難しい立ち位置のチームが、J1の首位にいる。消化試合数が「38分の4」とはいえ、このスタートダッシュは大きなサプライズだ。

ボランチが起点になった鹿島戦と札幌戦

 町田にとって、16日の札幌戦は流れをコントロールして勝ち切る「らしさ」が出た試合だった。53分に藤尾翔太が先制点を決め、66分のセットプレーではイブラヒム・ドレシェヴィッチが追加点。その後は84分に1点差と迫られ、防戦に追われた。しかし90分に投入されたキャプテン昌子源、副キャプテン奥山政幸らが試合を落ち着かせる。5バックへの布陣変更で、8分に及ぶロスタイムを乗り切った。

 黒田剛監督は試合展開をこう振り返る。

「立ち上がりから勝ち急がず、取り急がず、彼らが0-0のプランの中でしっかりと守備から攻撃に転じてくれたと思います。前回のゲームで札幌さんが後半に疲弊する局面も見られたことから、我々の運動量、ハードワークを出せば、必ず相手を上回っていけると言い聞かせながら入った後半でした」

 今季の町田は藤尾、平河悠の「U-23日本代表コンビ」が攻撃を引っ張っている。新加入のゴールキーパー(GK)谷晃生、センターバック(CB)ドレシェヴィッチが守備で果たしている貢献も大きい。ただ試合を見ていて気づくのは仙頭啓矢、柴戸海の両ボランチが果たしている役割の大きさだ。彼らがスペースを消しつつ球際で戦い、前向きのいい奪い方を重ね、そこから攻撃の一手目もしっかり打っている。

 第3節・鹿島戦の決勝点は柴戸が起点だった。札幌戦の1点目は仙頭が右サイドへの攻撃参加から、平河との連携でチャンスを作った。

 仙頭は1点目につながった自身のプレーをこう振り返る。

「(平河)悠に預けた段階で、オーバーラップして自分がクロスを入れる選択肢もありましたけど、相手が先を読んでいました。ただ(クロスを入れるスペースは消えていたけど)悠が(仙頭に)パスした瞬間、相手はボールウォッチャーになっていました。悠が次のアクションを起こすと分かっていたし、そのスピードを生かせればチャンスになるなと思いました。悠といいコンビネーションで打開できた場面です」

 仙頭は右サイドのスペースに運び出すことでまず「2対2」の状況を作った。仙頭→平河→仙頭→平河とボールの動いた場面だが、仙頭は絶妙の浮き球で平河の外から中へのスプリントに合わせる。そこから平河のクロス、オ・セフンのポストプレー、藤尾のボレーと続いて決まったゴールだが、最初の崩しが素晴らしかった。

黒田監督も仙頭を称賛

藤尾翔太の先制点は仙頭らのお膳立てから生まれた 【(C)J.LEAGUE】

 得点にはつながらなかったが、仙頭は38分の決定機でも平河に1タッチで絶妙のスルーパスを出している。

 黒田監督は会見でこう述べていた。

「どちらかというと柴戸が守備的で、仙頭はどんどん攻撃に絡みます。パスも出せるしシュートも打てる彼のサッカーセンスを生かしながら、オ・セフンや平河、藤尾をしっかりと生かしていくプランです。チームトップクラスの運動量も評価できますし、今日の働きは本当に素晴らしかったと思います」

 仙頭は柏レイソル、柴戸は浦和レッズから移籍してきた新加入選手だ。いずれも20代後半で、J1でキャリアを積んできたMFだ。もっとも代表に絡むような、前所属クラブで完全にポジションをつかんでいたような「主役級」ではない。どちらかというと渋い職人系で、周りを生かすタイプの人材だ。

 しかし彼らは町田のスタイルに適応しつつ、チームを一つ上のレベルに引き上げる役割を果たしている。上質な脇役として、献身性を発揮しつつ、得点につながるアイディアやスキルを出している。

 今季の町田はまだボール保持率で相手を上回った試合がない。そもそもオ・セフンやデュークの高さを生かすロングボールを多用するチームで、「つなぐ」ことでリズムを掴むスタイルでもない。とはいえプレスが来ても慌てて蹴らない、カウンターの一手目でいい選択をするといった質は見せている。その中心が両ボランチ、ドレシェヴィッチらの新加入選手だ。

勝因は「日々の練習」

 仙頭にチーム好調の理由を尋ねると、このような答えが帰ってきた。

「週の初めから次の対戦相手に向けたスカウティングを踏まえた練習をチーム全体でやっていて、そこが効果的だなと感じます。本当に起こり得る『リアリティー』を意識してやるし、チーム全員が(対戦相手を想定してプレーする控え組も含めて)そういう働きをしてくれる。本当に細かく、伝わるまで追求するから、それが習慣となって試合に出るし、選手は迷いなくプレーできます」

 柴戸も強さの理由を「日々の練習」に求める。

「全員が、当たり前のことを当たり前にやれるところが町田の強みかなと思います。試合だけでなく、日々の練習にすべてが詰まっています。練習からみんなが突き詰めて、全ての練習に100%で取り組めているから、これだけの結果を残せる。日々の積み重ねがあるからこそ、選手たちは何も疑わず、自信をもってやれている」

 少なくともJ1レベルと照らし合わせたとき、町田はタレント軍団ではない。しかし日々の練習から、ハードワークや高い戦術遂行能力がチームに根付いている。そこが3連勝の背景だ。

 柴戸はこうも言う。

「いい意味でタレントがいないというか、全員に安心や緩慢な気持ちがなくて、本当に必死に戦っている。仲間を助ける犠牲心も、Jの中でもトップレベルではないかと思います」

 日々の練習の質を高めるもう一つの要素が競争と、コーチ陣による適切な評価だ。黒田監督の選手起用には特別扱いがない。昨季のJ2を見ると結果が出なかった試合の直後はガラリと選手を入れ替えていた。そして連敗が一度もなかった。

 試合や練習で「抜けたプレー」を見せたことで、一気に序列を下げた選手もいる。一方で序列の下がった選手が腐らず、「しっかり取り組めば再びチャンスはある」というマインドでその後の練習に取り組み、ピッチに戻ったときに貢献する――。それが昨季の躍進を支えた指揮官のマネジメントだった。試合を見ればハードワーク、戦術の徹底は伝わるだろうが、それを引き出しているのが日々の練習やチーム全体の取り組みだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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