高校卒業後にベルギーに渡る逸材・吉永夢希 最後の選手権で日本一に輝き、神村学園に恩返しを
今回の選手権で、とりわけ大きな注目を集める吉永。神村学園に初の全国制覇をもたらして、ベルギーへと気持ち良く旅立てるだろうか 【写真:松尾祐希】
※インタビューは2023年12月20日に実施
とにかく、速い。加速力を生かした突破は高校年代屈指のレベルだ。左足のキックも正確で、低弾道の高速クロスをGKとDFの間に蹴り込んでゴールを演出する。
その攻撃力は2列目でも生きるが、主戦場は左サイドバック。河原創(サガン鳥栖)、満田誠(サンフレッチェ広島)、松岡大起(グレミオ・ノヴォリゾンチーノ)らを輩出したソレッソ熊本の出身で、小学生の頃からナショナルトレセンのメンバーに度々選ばれてきた。
しかしながら日の丸には縁がなく、神村学園に入学後も苦戦を強いられる。1年生の頃はトップチームで出場機会を得られず、冬の高校サッカー選手権もメンバー外だった。それでも、2年生になった2022年シーズンはチームで出番を増やし、飛躍の可能性を漂わせていた。
すると同年7月、翌年のU-17ワールドカップ(W杯)を目指すU-16日本代表のトレーニングキャンプに参加。早生まれの恩恵を受けて自身初の世代別代表を経験して以降は、継続して招集を受けるようになった。
そこから、吉永夢希のサクセスストーリーが始まった──。
攻撃力に磨きをかけ、アジアの戦いで存在感を発揮。22年10月のAFC U17アジアカップ予選でブレイクすると、3年生になった今季は複数のJ1クラブから興味を示されるだけでなく、海外クラブからも熱視線を注がれるまでの存在となる。
23年11月のU-17W杯では左サイドハーフとして全4試合に先発出場。ラウンド16進出の立役者となった吉永は、高校卒業後、ベルギー1部のKRCヘンクでプレーする。かつて伊東純也(スタッド・ランス)も在籍したクラブで研鑽を積むこととなった逸材は、高校生活最後の選手権にどんな想いを持って臨むのか。今大会最注目のレフティに、“最後の冬”に懸ける意気込みを聞いた。
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アシストや得点にこれまで以上にこだわる
1年前の選手権は、優勝した岡山学芸館に準決勝でPK戦の末に敗れた。「国立に戻って勝つ。今年はそれだけを考えてやってきた」と吉永は言う 【写真は共同】
1年間、選手権の舞台で勝つために取り組んできました。決勝で鹿児島城西に1-0で勝利した瞬間は、やはり込み上げるものがありましたね。
──それは、1年前の選手権準決勝で岡山学芸館に敗れた(3-3からPK戦の末に敗退)苦い記憶もあったからでしょうか?
その通りです。今年は国立(競技場)に戻って勝つ。それだけを考えてやってきたので、まずは県予選を突破しなくてはいけません。だからこそ、(第一関門を突破した)嬉しさが今まで以上にありました。ただ、満足はしていません。全国大会に向けてもっとやらないといけない。自分自身、今はそう感じています。
──前回の選手権は準決勝で敗れただけではなく、吉永選手自身も良いパフォーマンスを見せられずに悔しい想いをしましたよね。相手に警戒され、持ち前の攻撃力を生かし切れませんでした。
そうですね。大会を通じて結果を残せなくて、それが本当に悔しかった。昨年は(1学年上の)福田師王さん(現ボルシアMG)と大迫塁さん(来季はセレッソ大阪からの期限付き移籍でJ2のいわきFCでプレー)がチームを牽引していましたが、今年は自分がチームを勝たせる立場にいます。なので、今大会は数字を残さないといけない。アシストや得点に、これまで以上にこだわってやっていきたいです。
──前回大会で上手くいかなかったのは、メンタル面の要素が大きかったのでしょうか?
苦戦するかもしれないという想いと、もっとできるという想いの両方を抱えて大会に臨んだのですが、実際に始まってみると想像した以上に上手くいきませんでした。ある程度の自信を持っていたのに上手くいかなかったのは、やはりメンタル面に問題があったのかもしれません。
師王さんのようなチームを勝たせられる選手に
「何もできなかった」という前回の選手権、そして1回戦で敗れた今夏のインターハイを経て、心身ともに大きく成長。「スピードなら同年代には絶対負けない」 【写真:松尾祐希】
それはあります。あとは、22年12月の高円宮杯U-18プレミアリーグ参入プレーオフで活躍できたことも追い風になりました。(勝てば昇格が決まる2回戦の)セレッソ大阪U-18戦で同点ゴールを決めてチームも勝利し(2-1)、そのままの勢いで選手権を迎えられたので自信があった。でも、大会では何もできなくて……。本当に悔しかった。技術面でもクロスがなかなか合わなくて、大舞台で自分の力を発揮できなかったんです。
──福田選手や大迫選手の存在が際立っていたからこそ、余計に不甲斐なさを感じたのでは?
それはありますね。特に師王さんは(どんなにマークをされても)大事な試合でゴールを決めるだけでなく、前線で確実にボールを収めて起点にもなっていました。本当にチームを勝たせられる選手が師王さんで、いつも助けられてばかりでした。だからこそ、尊敬しているんです。
──福田選手から多くのことを学んだと思いますが、最終学年を迎えた今年、それをどんな形で生かしていますか?
前回の選手権が終わった後に、師王さんから「来年は任せたぞ」と言われたんです。ただ、それを体現できているかというそうではない。今年はチームとして初めて参戦したプレミアリーグでも苦しい試合が続き、インターハイも1回戦で東邦に1-2で敗れました。まだまだ学んだものを生かし切れていません。チームを勝たせられる選手にはなれていないので、最後の選手権こそは自分がチームを勝利に導きたいですね。
──あらためて、福田選手や大迫選手が今まで背負ってきたものの大きさを感じたり、理解できた部分もあるのでは?
そうですね。鹿児島城西との県予選決勝に師王さんたちが応援に来てくれたのですが、そこで「去年を超えろよ、最後は(お前が)チームを勝たせろ」と言われました。そうした言葉を受けてあらためて、これまでは塁さんや師王さんにめちゃくちゃ助けられていたんだなと感じました。
──昨年以上に注目され、今年はプレッシャーも大きかったと思います。それも思い描いた自分になりきれていない理由ではありませんか?
確かに重圧はありますし、今まで以上に責任を感じていました。特に夏のインターハイはプレッシャーがありましたし、相手にめちゃくちゃ研究をされていたので、(得意の)クロスまで持っていけなかった。突破力も発揮できず、チームを勝たせられなくて申し訳ない気持ちでいっぱいでした。自分はまだまだ力不足だなと。2人がかりで(マークに)来られると、突破ができない。もっと周りの選手を使えるようにならないと自分の武器も生かせないので、そこは改善すべきだと感じましたね。