高校卒業後にベルギーに渡る逸材・吉永夢希 最後の選手権で日本一に輝き、神村学園に恩返しを

松尾祐希

アルゼンチン戦は一生忘れられない試合

U-17W杯で強豪国と対戦し、世界のレベルを肌で感じ取った。特に守備の強度に関しては、神村学園に戻ってからも、これまで以上に意識するようになった 【Photo by Pakawich Damrongkiattisak - FIFA/FIFA via Getty Images】

──そうした悔しさを味わった一方で、23年11月にはU-17ワールドカップという大舞台も経験しました。自分の成長度合いを確認する上で、最高の場だったのでは?

 ワールドカップでは、対戦した強豪国のサイドハーフが凄まじかったんです。自分は左サイドハーフでプレーしましたが、守備の時に味方のサイドバックを助けに行かないと相手の前進を止められませんでした。ですから、(守備をしながら)自分の得意とする形を出す方法を考えさせられる大会になりましたね。

──特にグループステージ第2戦のアルゼンチン戦(1-3で敗戦)では、これまでにない圧力を感じたのでは?

 アルゼンチンの強度は、間違いなく日本では味わえないレベル。あれはワールドカップだからこそ体感できたと思います。プレッシャーの強度やギアの上げ方が凄まじかったし、相手はまさに命懸けでサッカーをやっていました。

 ただ、収穫もありました。前半は何もさせてもらえませんでしたが、0-2で迎えた後半の頭からは、森山佳郎監督(来季からベガルタ仙台の監督に就任)の声掛けもあって、全員が「行くぞ!」という前向きな姿勢になって盛り返せたんです。あの時は、すべての選手が勝ちたいという強い気持ちを持って戦っていましたし、だからこそ一時は1点差まで詰め寄ることができたんだと思います。あのアルゼンチン戦は今後の自分のベースとなる、一生忘れられない試合ですね。

──グループステージを3位で突破し、ラウンド16ではスペインと対戦しました。

 セネガルとのグループステージ最終戦に勝って(2-0)、ノックアウトステージに進めたので、メンタル的には良い状態でスペイン戦に臨めました。全員がスペインに勝てると強い気持ちを持っていましたが、ただ残念ながら、最後に決め切る力がなかった。逆に相手にはチャンスを確実に仕留める力があって、特にバルセロナのトップチームでもゴールを決めている9番のマルク・ギウ選手の決定力は素晴らしかった。そういった部分で力の差は感じましたね。

 それでも、大会を通じて成長は実感できました。神村学園に戻ってきてからも、常に代表で言われてきた守備の強度を意識してプレーできていますし、ドリブルという武器もこれまで以上に自分の強みとして使えるようになりました。実際、鹿児島城西との選手権予選決勝では、激しくプレッシャーをかけてくる相手にも冷静に対処できたんです。余裕を持ってプレーできたのも、ワールドカップでの経験があったからだと思います。

 ワールドカップでは、自分が本気でボールを奪いに行っても、簡単にいなされたり、剥がされたりしましたからね。あそこで必要だと感じた守備の強度を常に基準として持っておかないと、上のレベルでは通用しません。

──ワールドカップを控えた今年の夏には、ベルギーのヘンクの練習に参加しましたね。そこである程度、海外の選手と対戦する際の基準を得たのではありませんか?

 やっぱり、ワールドカップには独特の雰囲気や緊張感がありましたし、国を背負ってどの選手も戦っていましたからね。練習とは違います。「こんな圧力で迫ってくるのか」と、練習参加では感じられなかった強度を体感しましたね。

日々の取り組みから意識が変わった

高校卒業後は先輩の福田と同様、Jクラブを経由せずに直接海外へと渡る。プロキャリアのスタートに選んだのは、伊東純也も在籍したベルギーのヘンクだ 【写真は共同】

──高校卒業後には、Jクラブを経由せずに直接欧州へ渡り、ベルギーのヘンクでプレーします。当初は国内でのプレーも視野に入れていたと聞きましたが、どのような経緯で海外挑戦を決断したんですか?

 師王さんと話したのが、かなり大きかったですね。相談をした時に、「将来的に海外でプレーしたいなら、早く行ったほうがいい」と助言してくれたんです。ドイツに渡っていろんな経験をしている先輩の言葉は重かったですし、久々に会ったら本当に身体が大きくなっているんですよ。それで、自分ももっと成長するためには1日も早く海外に行くべきだと考えるようになったんです。

──プロ入りが決まり、顔つきがさらに精悍になった印象があります。意識も変わったのでは?

 そうですね。ワールドカップでの経験も含め、メンタル面で成長した実感があります。いろんな面において日々の取り組みから意識が変わりましたし、良好なコンディションを保つために普段の生活からサッカーのために行動するようになりました。代表でもチームでも連戦が続いたので、披露回復を早めるコンディショニングを今年は重視したんです。

 そういった取り組みは師王さんからも学んでいて、これまでもそれなりに意識はしていたんですが、今年は移動が多いプレミアリーグにも参戦していたので、より気を遣いましたね。どんな状況でも100パーセントの状態に持っていくために、試合前のウォーミングアップもやり方を変えました。全員で身体を動かす前に体幹トレーニングを入れて、チューブで下半身に刺激を加えるようにしたんです。これはU-17代表で一緒だった柴田翔太郎(川崎U-18)に教えてもらったのですが、同じスピードタイプで分かり合える部分があって、話を聞いて取り入れようと決めました。

──では、最後の選手権に向けて、あらためて意気込みを聞かせてください。

 この1年、国立に戻ることだけを考えて、個人としてもチームとして取り組んできました。自分にとって高校生活最後の大会なので、神村学園に恩返しができるように、今回こそ日本一になってベルギーに旅立ちたい。スピードだったら、絶対に他の高校生に負けないし、クロスの質にも自信があります。代表では左サイドハーフをやっていましたが、将来的には左サイドバックで勝負したいので、今大会は自分本来のポジションで、しっかり結果を残したいと思います。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1987年、福岡県生まれ。幼稚園から中学までサッカー部に所属。その後、高校サッカーの名門東福岡高校へ進学するも、高校時代は書道部に在籍する。大学時代はADとしてラジオ局のアルバイトに勤しむ。卒業後はサッカー専門誌『エルゴラッソ』のジェフ千葉担当や『サッカーダイジェスト』の編集部に籍を置き、2019年6月からフリーランスに。現在は育成年代や世代別代表を中心に取材を続けている。

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