なぜ、今なのか? Jリーグのシーズン移行を深掘り

Jリーグに先駆けて秋春制を導入したWEリーグの視点…髙田春奈チェアが“シーズン移行を推す”理由とは?

竹内達也

スポーツが投資に値するものだと感じてもらえるように

髙田チェアだけでなく、Jクラブの関係者も昨夏の女子W杯を訪れて現地施設を視察。環境整備の参考にしようとしているようだ 【写真:ロイター/アフロ】

——現状では、寒冷地のスタジアムにヒーターを入れたりすることは難しいのかもしれません。ただ、日本のサッカーが世界の中で成長していくためには、その視点がないと厳しいですよね。具体的に「どう進めていくか」のビジョンはありますか?

 それはクラブ単位ではなく、日本サッカー界として「プロもアマチュアもいつの季節でもサッカーを楽しむための環境を作る」という方向に踏み込んでいけたらいいのかなと思っています。今夏、FIFA女子ワールドカップがオーストラリアとニュージーランドで開催された時、現地の施設を視察しましたが、非常によく整えられていました。整えるというより、そうしないとやっていけないのだと思いますが、「サッカーやラグビーは冬に楽しむものだ」という認識になれば、単なる1クラブの成長、1団体の成長という問題から抜け出せるのではないかと思います。

——よくヨーロッパのスタジアムと比較されますが、たしかにオーストラリアやニュージーランドのように気温差が激しい地域の事例は参考になりそうですね。やはり現地では設備の違いを感じられましたか?

 実際に行ってみたら、スタジアムにちゃんと屋根があり、練習施設もしっかりしていて、そういう感覚が当たり前なんだと感じました。Jクラブの関係者が視察に行かれたという話も聞いたので、皆さんすでに海外を参考にして変えていこうとされているのかなと思います。ヨーロッパでは「寒くてもサッカーを見る」ことが文化として成り立っているので、「寒いから集客できません」という考えがないのだと思いますが、日本もそういうふうになっていったらいいなと。「お正月にサッカーやラグビーを見るのって寒いけど、なんか楽しいな」ってみんなが思えるような空気や文化を醸成していくことが大事なのだと思います。

——Jリーグ単体、日本サッカー協会単体でそうした環境を整えるのは難しいと思いますが、そのあたりの展望はいかがでしょう?

 やはり自治体との連携が必要だと思います。サッカーをどう捉えているかは地域によって異なりますが、スポーツがどれだけ投資に値するものなのかということを、地域の方々により感じていただけるような働きかけを皆でやっていかなければいけないですね。

——長崎では民間の立場からサッカーの価値を訴えつつ、自前でスタジアム建設を進めていった経験をお持ちです。自治体とも難しいやり取りがあったと思いますが、他クラブが後に続くにはどのようなことが必要ですか?

 長崎は100%民間のプロジェクトなので、ある意味異例だと思いますが、例えば、企業版ふるさと納税を使ってスポーツを応援されている企業もあって、いろんな形でスポーツに投資する価値を感じてくださる企業は少なからずあると思うんです。だから、地域を盛り上げることが日本経済にプラスになると考えている企業、地元地域に貢献したいという企業、スポーツと地域に貢献したい企業の存在がすごく重要だと思います。

 私たちもWEリーグを支援してくださる企業をもっと増やしていきたいと思っています。なぜWEリーグが社会において価値があるのか、なぜその企業に応援してほしいのかをストーリーとして伝えていくことを今、コツコツとやっています。

WEリーグを実験台にしてくれたほうがいい

WEリーグの発展が女子サッカー発展につながり、それが日本のサッカー界全体の発展につながると髙田チェアは考えている 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

——Jリーグがシーズン移行をする場合に、乗り越えないといけない壁はどこにあると感じていますか?

 本当に私はそこまで大きな壁を感じていないんですよね。夏に試合をやることの危険性のほうを感じていますし、どこかで切り替えるべきだなと。かつサッカーで言えば、シーズン移行をすることで世界と一緒に戦いやすくなるわけですから、今がやるべき時なのではないかと思います。

 WEリーグの立場としては、「最初から秋春制でスタートしたんだから、自分たちで頑張って」と言われているように勝手に孤独を感じてしまうことも正直あるのですが(苦笑)。Jリーグもシーズン移行することになって、JリーグとWEリーグが一緒に「サッカー界全体で冬にどうやってサッカーが楽しめる環境を作っていくか」という議論を進めていけたら、とても嬉しいです。

——先行したWEリーグから、Jリーグに対して助言はありますか?

 移行期を1.5シーズンにするか、0.5シーズンにするかの判断はすごく大変だなと思っていますが、移行してしまえば、そんなに大変ではないという気がするので、アドバイスというアドバイスはありません(笑)。あと、スポーツ全般で言いますと、バスケットボールやバレーボールなどが秋開幕のシーズンでやっています。バスケとサッカーのシーズンが重なるようになった時、お客様、消費者の面では競争になるとも思うので、サッカーをどう盛り上げていくのかという問題が出てきます。そこでもJリーグとWEリーグが一緒にアイデアを出し合っていけたらいいなと思います。

——WEリーグは、実験的な形でシーズン移行をしたと捉えられていますが、そのあたりはどう感じていらっしゃいますか?

 これはシーズン移行に限らず、全般的な話ですが、私はWEリーグを実験台にしてくれたほうがいいと思っています。サッカー界の発展のためにも女子にプロリーグを作ったわけなので、参考にする部分は参考にしてもらえたらと。WEリーグの発展が女子サッカーの発展につながり、ひいては日本のサッカー界全体の発展にもつながると思っています。

 男女のサッカーが横並びにあって、そのうえで「女子のほうが世界を目指せる部分もあるよね」とか、女子のいいところもフラットに見られる空気があればいいんですけど、現状はそうではありません。事業規模では男子のほうが大きいこともあって、「男子か、それ以外か」みたいな感じになっているなと。シーズン制の問題も、WEリーグが先にやっているにもかかわらず、あまり参考にされてなくて、あくまで一つの事例にすぎない感覚なのかなという印象があります。

――それは非常にもったいないですね。スポーツの価値を上げるところか、サッカー界の中ですら交流ができていないというのは?

 私自身、サッカー界の外から来て、Jリーグを経て、今の位置づけにあるのですが、今の状況はいまだに不思議だなと思います。

——Jリーグのシーズン制移行は、決議を年内に予定しています。ここから少しでもWEリーグの経験を共有しながら進めていけるといいですね。

 大事なのは、方針が決まった時に、どうするかだと思います。みんなが納得するような正解はないですから、決まった以上は、「変えていくチャンスだよね」とポジティブに考えて団結していかないといけないと思います。12月に方針が決まったら、そういう捉え方で、みんなで議論していけたらいいなと思っています。

(企画・編集/YOJI-GEN)

髙田春奈(たかた・はるな)

1977年5月17日生まれ、長崎県佐世保市出身。国際基督教大学、東京大学を卒業。ソニー勤務、ジャパネットメディアクリエーション代表取締役社長、ジャパネットホールディングス取締役、V・ファーレン長崎代表取締役社長、Jリーグ業務執行理事などを歴任し、22年9月からWEリーグチェアを務める。日本プロサッカーリーグ特任理事、日本サッカー協会副会長、日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)理事長でもある。

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著者プロフィール

1989年生まれ。大分県豊後高田市出身。大学院卒業後、地方紙記者を経て、2017年夏から「ゲキサカ」でサッカー取材をスタートさせた。日々のJリーグ、育成年代取材のほか、18年9月の森保ジャパン発足後から日本代表を担当し、19年のUAEアジアカップ、22年のカタールW杯で現地取材。21年からシャレン!アウォーズ選考委員。VARなど競技規則関連の発信も続けている。

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