吉井裕鷹が語る日本代表とA東京 W杯で活躍しても忘れない「這い上がる精神」

大島和人

吉井裕鷹はW杯でどんな手応えと課題をつかんでアルバルク東京に戻ってきたのか 【©ALVARK TOKYO】

 吉井裕鷹は今夏のFIBAバスケットボール・ワールドカップ2023(W杯)で、「数字以上の貢献」を見せていたスモールフォワード(SF)だ。196センチ・94キロの恵まれた体格とアスリート性、スキルを併せ持つ彼は、W杯の5試合で平均20.6分の出場を果たしている。これはチームの中でも5番目となるプレータイムだ。

 5試合ともベンチスタートで、平均得点も「2.2」にとどまった。しかし仲間を助ける献身的なプレーや、相手のエース級を抑える守備力はチームにとって不可欠なものだった。

 そんな吉井の「らしさ」は当然ながらアルバルク東京でも発揮されるはずだ。彼がどんな手応えと課題を得てチームに帰ってきたのか? そしてどんな思いでシーズンに臨もうとしているのか? 今回のインタビューでは日本代表とアルバルクを支える25歳の仕事人が、存分に語っている。

「課題が見つかるのは幸せ」

――吉井選手は日本代表としてW杯の5試合を戦い抜き、パリオリンピックの出場権獲得に大きく貢献しました。まず大会を振り返って収穫と課題はいかがでしたか?

 ワールドカップは自分の持ち味である「フィジカルにバスケットをやる」ところで、かなりチームに貢献できたのかなと思います。課題は、まずノーマークにしてもらったシュートをしっかり決め切ることです。ディフェンスもリバウンドでもっと絡める部分がありましたし、チームで決められたことを遂行し切れなかった部分もありました。そこをミスなく、できるようにしていきたいです。

――特に1対1の守備、フィジカルはやれていたと思います。

 Bリーグも結構タフなので、そこを活かせられました。ただ場面場面で活かし切れなかったところもありますし、そこはこれからも意識し続けたいです。

――ラウリ・マルカネン(フィンランド)や、フランツ・バグナー(ドイツ)、ジョシュ・ギディー(オーストラリア)といったNBAのスターとも対峙(たいじ)しましたが、どんな感覚でしたか?

 (大会前の強化試合で対戦した)ルカ・ドンチッチは異次元で、もう本当にすごかったです。なんか全て「後出し」でやってくる感じでした。後出しでやっているのに、先出しのようなパスの速さで、全員が間に合わないイメージでした。ある程度やれたとか、そんなのは別になくて、まだ出し切れていない部分が分かった感じです。

――課題が明確になることで、今シーズンの取り組みもより濃いものになりますね。

 毎年のことですけど、自分の課題が見つかるのは幸せだと思っています。そこをほったらかしにするのでなく、少しずつ良くしていきながら、良かった部分もしっかり伸ばしていきたいです。

――課題はどちらかというとオフェンスですか。

 いや、ディフェンス(DF)も……です。オフェンスはみんながボールに寄っていっていたら、誰かはボールに寄らず、ステイすることも大事です。自分がボールを持った際にはしっかりリングを見て、状況を把握して、パスをするならパスを出して、決め切るところは決め切る……。そういうシンプルな部分を、もっとしていかなければいけないと思います。

A東京加入後は試合に出られない時期も

プロ入りして大学時代とはプレースタイルを変えた経緯を語った吉井 【©ALVARK TOKYO】

――大阪学院大時代にインカレで吉井選手のプレーを見たことがありますけど、完全にオフェンスのプレーヤーで、ボール運びもやっていた記憶があります。今の吉井選手はいい意味で真逆の、献身的で守備を強みとするロールプレーヤーです。アルバルク加入後のご自身の変化についてはいかがですか?

 大学のときは自由にやらせてもらっていました。ただ大学から入ったばかりの選手が自由にやって、チームを振り回すなどということは、アルバルクの(レベルが高い)選手を見たらできないです。元NBAの選手がこのチームにも相手のチームにもいて、そういう選手がメインなわけですから、オフェンスではやることを絞った方がいいなと思いました。逆にDFはもっと貢献できるところがあると感じて、チームでもそこをかなり学びました。

――プロで生き残るために切り替えた感じですね。

 はい。僕の経歴を見てもらったらわかるように、試合に出られない期間もかなりあって、そこが慣れるための時間になりました。

――その「移行期間」は苦しさも合ったと思いますが、いかがですか?

 まだ自分の実力が足りないので、上手くなるには少し時間かかるなと思って……。「辛い」なんてことはプロでバスケをやっている身として表立って言うべきではないですし、自分が成長する時間だと感じながらバスケットをしていました。
 アルバルクで揉まれたことも、日本代表に選ばれた一つの要因かなと思います。普通は代表に入ると気が引けたりするところもあるはずですけど、自分は既にアルバルクの厳しい環境でやっていましたから、誰が来ても怖くなかったです。

――アルバルクでレギュラーになり切ってない状態で、トム・ホーバスHCからは代表チームの招集を受けていました。

 アルバルクで培ったものを出せば、全く怖くないとは思っていました。

――W杯の成果も含めて、2023-24シーズンは自信を持ってアルバルクの試合に臨めそうですね。

 僕自身、またプレータイムを取りに行かないといけない立場です。そこはこれまでと変わらず、這い上がる精神で頑張っていきたいです。

――新加入のレオナルド・メインデル選手はスモールフォワード(SF)なので、強力なライバルですね。

 はい、そうですね。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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