バスケW杯の沖縄開催を成功させた“コート外”の事情 日本代表の躍進を支えた観客と演出
沖縄アリーナの20試合は想像以上の盛り上がりとなった 【写真は共同】
フィリピン、インドネシアと日本の共催は2017年12月に決まった。沖縄が全32カ国中8カ国を受け入れ、合計20試合を行う日本の開催地となった。しかしW杯の現地が盛り上がるのか、不安を感じていた関係者も少なからずいた。地元・沖縄で活動するバスケメディア『OUTNUMBER』の編集長・湧川太陽は明かす。
「本当に盛り上がるのかなっていう……。直前まで不安しかなかったです」
沖縄はバスケが深く根付いた土地で、琉球ゴールデンキングスは1試合平均で7千名近い観客を集めている。ただし過去に同地で開催されたW杯予選や東京五輪直前の強化試合は、空席も目立つ客入りだった。
湧川はこう続ける。
「W杯をどういう取っ掛かりで伝えるかは、どこも苦心していたと思います。沖縄のメディアで半年近く、協力しながらやってきたんです。ただ『キングスの選手出るのか?』みたいな話をされます。沖縄にいる肌感覚として『日本代表』は取っ掛かりになりません」
「あの応援がなければ結果は違っていた」
そもそも日本全体で見ても、「バスケの男子日本代表」はファンへ完全に浸透していなかった。2019年のW杯中国大会予選から認知度は上がってきているものの、サッカーや野球、ラグビーのように世界大会で名勝負を繰り広げてきた歴史を持っているわけではない。
しかし結果として沖縄アリーナでは、最高の盛り上がりのもとで歴史的な名勝負が実現した。日本代表もフィンランド、ベネズエラ、カーボベルデから計3勝を挙げ、「アジア最高成績」「パリ五輪出場権獲得」の目標を達成している。試合内容、アリーナの機能、ファンの熱気が全て揃ったスペクタクルが次々に生まれた。日本が絡まないカードも含めて、観客数が5千人を下回った試合はなかった。
大会後に渡邊雄太はX(旧ツイッター)でこう発信している。
「改めてみなさんにお礼を。本当に応援がすごく力になりました。あの応援がなければ結果は違っていたと思います」
これが何の誇張でもないことは、現場にいたメディアとして保証できる。特にフィンランド戦とベネズエラ戦の逆転勝利、第4クォーターはファンと選手が一体になった『渦』のようなものが相手を飲み込んだ展開だった。
「空席問題」で県民がその気に
初戦の「空席問題」がファンの使命感を引き出した 【写真は共同】
ドイツ戦後の記者会見でトム・ホーバスヘッドコーチはこう不満を語っている。
「ホームアドバンテージは作ってくれたが、最高とは言えない。満席じゃない。うちのベンチの前に誰もいない。なんで?」
法人向けのチケットが「売れているのに使われていない」状況から生まれた空席だった。関係者が速やかに動き、続くフィンランド戦から問題は解消されることになる。ただ、結果的にはドイツ戦の空席問題がファンのハートに火をつけた。
沖縄在住のあるファンはこのような見方をする。
「『沖縄アリーナに恥をかかせるわけにはいかない』という使命感もありました」
確かに首都圏で試合をやれば、大企業のエグゼクティブは会場に足を運びやすかっただろう。このまま良席の空席が続けば「沖縄開催だったから」という批判があったに違いない。しかしフィンランド戦以後はチケットが完売し、実際に席も埋まり、会場のボルテージが何段か上がった。
結果的に空席問題が県民の反骨心にスイッチを入れた。湧川は述べる。
「沖縄の人は沖縄のことが好きなんです。空席問題も『ナニクソ』って感じだと思うんですよ。だからそこが『盛り上げてやる』となって、今回はうまく行きました」