天才司令塔・米須玲音は1年ぶり復帰ながらアシスト力は健在 ライバル河村勇輝の活躍に「悔しさ」あり?

大島和人

米須玲音が1年ぶりにコートへ戻ってきた 【(C)Jbasket】

 米須玲音(よねす・れおと)が長いリハビリから復帰して関東大学バスケットボールリーグ戦のコートに立ち、元気な姿を見せている。長崎県出身で日本大3年の米須は、176センチのポイントガード(PG)だ。東山高時代にウインターカップで見せたプレーをご記憶のファンも多いだろう。

 第72回大会は福岡第一に敗れてベスト4、第73回大会は仙台大明成に敗れて準優勝にとどまったものの、驚異的なアシスト力と華のあるプレーを見せていた。高3時の第73回大会は大会のベスト5にも選出されている。

 高3のウインターカップ終了後、大学1年のシーズン終了後には川崎ブレイブサンダースの「特別指定選手」としてプロのコートも経験した。

 しかし2022年は試練の1年だった。1月30日のレバンガ北海道戦で右肩関節脱臼を負い、まず大学2年春のトーナメントに出場できなかった。6月の新人戦は時間を抑えながらプレーしたが、夏に入って今度は右膝を傷め、1年以上も実戦から離れていた。

復帰直後ながら持ち味を発揮

 今年のリーグ戦は8月26日の開幕から復帰している。先発でなくベンチからの登場で、出場も20分前後と抑えられているが、それでも1試合平均5.8アシストは関東1部のランキング1位。日大も8勝1敗と好調だが、米須はしっかり貢献している。

 9月20日の早稲田大戦は、米須の『らしさ』を強烈に感じた試合だった。第1クォーターの半ばからコートに入ると、チームのいい流れを維持させつつ、ボールムーブメントのテンポを明らかに上げていた。バックコートからフロントコート、サイドからサイドと長く強く正確なパスを刺すのが彼の持ち味だ。日大は相手の守備が整う前にボールを動かし、攻撃を先手先手で進めていた。

 米須はこう振り返る。

「セカンドチームとしてはディフェンス(DF)からのブレイクを狙いにしていたんですけど、そこをなかなか出せずに前半を終えてしまいました。でも後半しっかり立て直して、何回かファストブレイクも出せて、いい形で20点差近く離せました」

 後半は前半と違う米須の強みが出ていて、それはゴール下へのドライブだ。密集に潜り込んで相手を引き付け、ハンドオフ(手渡し)でフリーの味方を活かすような場面を何度も作っていた。

「(ヘッドコーチの)城間さんからも言われたんですけど、前半は中に切っていく選手がいませんでした。外で回しているからスリーだけを打たされて、なかなか点数に反映されていなかった。相手のカバーがそこまで来ていなかったし、後半はそういうところ(中に切れ込むプレー)をやっていました」

まだ「やりすぎ」は禁物

 しかし第4クォーター開始直後、米須がそんなスーパープレーを決めた直後に、チームメイトから制止が入った。ベンチの仲間が両手を小さく広げて、「抑えろ」というアクションをしていた。

「自分のアシストも行けて、プラスみんなでDFするいい流れでした。やりすぎる部分……アシストを狙いすぎる、行きすぎる部分が出ました。今は少し抑えながら、ケガも予防しながらやっています。みんなが『落ち着け』『無理するところではない』と声をかけてくれました」

 後半の米須はアシスト、ドライブと『イケイケ』の状態で、楽しそうにプレーしていた。ただ「やりすぎる」ことは再受傷のリスクを上げてしまう。幸いもう点差はかなり開いていた。彼の身を案じたチームメイトのアドバイスで、米須は再び『抑えた』プレーに戻った。

「最初の方はやはり(プレーに)怖さがあったんですけど、慣れ始めたらそんなに怖くなくて、今も普通にやっています。でも(思い切って動けるようになった)ここくらいからケガのリスクが高まってくると思うので、しっかり予防もしながらやっていきます」

 日大は終盤こそ追い上げられたが91-78で早大に快勝。米須は20分50秒のプレータイムで4得点11アシストを記録した。大学はBリーグと違い「フリースローにつながったパス」にアシストがつかない。それも含めればアシストはあと3つか4つプラスされていたはずだ。

アシスト力の理由は?

 試合から長く離れると、ゲーム感が衰えるケースもある。しかし米須の視野や状況判断は復帰直後からベストの状態に見えた。彼もこう言い切る。

「周りを見る部分は落ちていません。パスの出しどころ、パスの距離も全く問題ないです」

 しかも米須のパスは予想できないタイミングで、予想できないコースに出てくる。

「高校の頃は最初チェストパスが多かったんですけど、それを止めろと言われました。DFが手を広げた中で、相手に当たってしまうからです。高校の先生から『肩の動きでDFはどっちにパスが出るかを見分けるので、その逆に出せばいい』と言われました」

 米須はワンハンド(片手)のパスを多用するのだが、「肩、上半身は左に出す構えなのに、実際のパスは右に通す」ような場面が多い。目線の動きにも「味方を絶対に見ない。DFを見ながらやると、(相手が)どちらにパスするか分からなくなる」というこだわりがある。

 彼の胸郭のしなやかな動きや、「眼力(めぢから)」がそんなフェイクを実現させている。ただでさえパスの質が高いのに、相手に「読ませない」ための工夫が詰まっている。それが判断力と並ぶ、驚異的なアシスト力の理由だ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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