「超人間級」の冷静さで日本を引っ張る河村勇輝 ベネズエラ戦で見せた密かなファインプレーとは?

大島和人

【(C)FIBA】

 現在開催中のFIBAバスケットボール・ワールドカップ(W杯)は、河村勇輝が日本ローカルの好プレーヤーから、「世界が知るポイントガード(PG)」に脱皮するきっかけとなっている。

大舞台でも試合を決めるビッグプレー

 8月27日の1次ラウンド・フィンランド戦で、河村は最大18点差をひっくり返す逆転勝利に大きく貢献した。この日の彼は25分11秒のプレータイムで25得点・9アシストを記録する大活躍。試合の終盤にはスーパーショット、スーパーアシストを連発してチームを勢いづかせた。特に213センチのNBAオールスター選手ラウリ・マルッカネンの「上」を高いアーチで破った残り2分40秒の3ポイントシュートはあの試合最大のビッグプレーだった。

 その直後、アメリカから河村に賛辞が飛んできた。175センチの小兵ながらNBAで活躍したアイザイア・トーマスはX(旧ツイッター)でこう呟いた。「彼は最高だった!俺らスモールガードは団結していこう!」

 河村は2022-23シーズンに1試合平均19.5点、8.5アシストを記録し、B1のMVPを獲得。シーズン中から試合終盤の「クラッチタイム」では圧倒的な勝負強さを見せていた。例えば22年12月4日の宇都宮ブレックス戦では残り0.5秒から逆転3ポイントシュートを決め、チームを念願の「対ブレックス初勝利」に導いている。そして横浜ビー・コルセアーズを初のチャンピオンシップ出場、ベスト4に引っ張り上げた。

 それに近いレベルの活躍を、河村は国際試合でも見せている。トム・ホーバスヘッドコーチが試合後に漏らした「あれはBリーグの河村ですよね」というコメントは、もちろん称賛の意味だ。この若者は世界の大舞台でも、第4クォーターの勝負どころで試合を決めるビッグプレーをしている。

W杯でも「学習能力」を見せる

 初戦のドイツ戦に日本が63-81で敗れたあと、河村は相手のPGデニス・シュルーダーの凄みをこう表現していた。

「クレバーな選手、スマートな選手かなと思いました。スピードだけではなくて、ミドルジャンパーであったり、しっかりと自分たちのビッグマンを引き寄せてロングパスでアリウープを演出したり、流れを持っていくようなプレーができる。自分たちの流れが来たタイミングでしっかりと(相手を)シャットアウトして、その流れを持っていかれないようにするタイミングのシュートを決めたりして、そこは本当にスマートだなと思いました」

 2日後のフィンランド戦を見たら、河村は早速「日本に流れを引き寄せる」「自分たちの流れが来たタイミングで相手をシャットアウトする」ようなプレーを実現していた。そのような学習能力、キャッチアップの早さは典型的な河村らしさだ。

守備、ハードワークも強み

 17-32位決定戦の初戦となったベネズエラ戦も、河村は19得点・11アシストの大活躍だった。ただ渡邊雄太は試合後に河村の守備を評価していた。

「今日の流れを作ったのは、間違いなくまず河村勇輝。PGにめちゃくちゃプレッシャーをかけてくれて、相手はやりたいバスケットが途中からできなくなっていた。彼がフルコートで相手のPGにプレッシャーをかけて、持ちたいところでボールを持てなかったりした。それを彼がまず先頭に立ってやってくれたのが大きい」

 W杯は中1日で試合が進む強行日程で、PGは消耗が大きいポジション。河村は1試合平均で22.7分のプレータイムを得ていて、負荷の大きいクロージングを任される試合も出ている。そんな第4クォーターになっても、彼はプレッシャーディフェンスや攻撃の質が落ちない。172センチ、山口県生まれの22歳は単純にハードワークと、それを実現するフィジカルがすごい。

結果として「自分が輝くスタイル」に

 バスケ選手を評価するとき、我々は「能力系」という用語をよく使う。個人で打開できる、得点力の高いタイプを評価する意味だ。PGは基本的に自分が点を取るスタイルから徐々に「バランス/コントロール型」に変容していく。

 河村は6月の段階でこのようなコメントをしている。

「Bリーグでやっているときと、代表でやっているときは役割が違います。元々、自分は他の選手を活かすのに特化したPGだと思うので、代表に来て、それをやるべきだと思っています」

 自分は本来「バランス/コントロール型」で、代表ではそのようなスタイルを意識するという意味だ。ただ、これについては公約違反かもしれない。何も知らずに試合のハイライトを見たら、河村は典型的な能力系に見えるだろう。実際ここまでの4試合は平均13.5得点を挙げていて、十分に自分が輝いている。

 アシストも1試合平均7.5と高レベルで、ベネズエラ戦の最終盤は比江島慎にパスを集めて爆発を引き出した。単純にチームを勝たせる最善策が自らのシュートだと感じたとき、それを打っているだけの話だろう。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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