履正社・森沢は素直で優しいキャプテン 仲間と手を取り合い、仙台育英との決戦へ
履正社のキャプテンを務める森沢。守備と走塁が持ち味の遊撃手だ 【写真は共同】
大阪桐蔭に負け続けるも、最後の夏で府大会V
過去4度、夏の大阪府大会決勝で対戦するも勝てなかった大阪桐蔭を3-0で破り、優勝旗を手にした主将の森沢拓海はそう思った。
「自分は(1年秋にレギュラーになってから)大阪桐蔭と対戦してきて、先発はずっと前田(悠伍)投手。で、その度にすごいピッチングをされて、(今夏も)また前田かって(苦笑))。練習試合で連勝しても、(府大会で)大阪桐蔭に勝たないと甲子園に行けない。ずっとそう思ってきたので……」
最初に前田と対戦したのは1年秋の大阪大会準決勝。その試合は3-5で敗れた。次は2年の春の府大会決勝戦。3回に2点を先制するも、直後に1点を返された。その後、中軸打者の松尾汐恩(現DeNA)のホームランなどが飛び出し、2-3で逆転負け。そして夏は府大会決勝、新チームとなった秋の府大会決勝でいずれも0-7と完敗だった。
「いつも完璧なピッチングをされました。どの球種も本当に良くて……。どの試合が1番良かったかと言われても、どの試合も完璧に抑えられたんで……」
前田とはオリックスジュニアでチームメイトだったこともあり、交流はあった。顔見知りだったため、打席に立つと前田はいつもニヤリと笑ってきた。それでも投じてくるのはキレのある球ばかり。下級生時から世代最強左腕と呼ばれる投球術に、脱帽するしかなかった。
今春のセンバツで、履正社は初戦で高知に2-3で惜敗した。8安打を放つも攻めきれず、残塁は11を数えた。その後、春の大阪大会は初戦で和泉総合に33-0、次戦で大産大付に10-3と立て続けに快勝。ところが、4回戦で大商大高にミスが絡むなどして3-4で敗れ、夏のシード権を失った。
「大阪大会は何とか勝てるやろうという緩みはありました」と森沢。痛感したのは、センバツの高知戦で3投手の継投も含め、多彩なタイプのピッチャーと対戦しても打ち崩せなかった対応力のなさ。そして守備のもろさだった。
転機となった、監督とのLINE
「光弘さんはいつも周りに声を掛けて、練習でも一番声を出していました。それを毎日当たり前にやっていて、すごいなと思いました」
新チームでは本職の遊撃手となった。キャプテンにもなり、光弘の心がけを肝に銘じるようになった。
多田晃監督は森沢についてこう明かす。
「森沢は前チームで光弘がショートにいて、光弘をずっと目標にしていたようですが、昨年の時点ではなかなか及ばない点はありました。昨夏に桐蔭に負けたのも自分のミスのせいと言っていて……。でも、新チームでは守備に関しては頑張ってくれていました」
ただ、センバツといい春季大会といい、足の運び方など守備での動きに課題があると自負していたようだった。多田監督は続ける。
「とても素直な子で、こちらが言ったこともちゃんと聞いてくれます。ただ、5、6月くらいに悩んだ時期があって、その頃“キャプテンとして僕に足りないところはどこですか”と僕にLINEしてきたことがあったんです。そこに対して長文で返事をしたら、“守備でダメなところがあったら僕にどんどん注意してください”って返事が来て。“分かった、じゃあ厳しくいくで。絶対に甲子園に行こうな”って返しました」
チームとして始めた朝練でのゴロ捕球の練習にも取り組んだ。朝練は授業が始まるまでの短い時間だったが、小さな積み重ねが自信につながる。本来なら、そこで“俺について来い”と言わんばかりにキャプテンシーを発揮できればいいが、そうはいかない。
「森沢は優しい性格なので、周囲にはあまりガンガン言えないタイプなんです。4年前の(全国制覇した)キャプテンの野口(海音=現大阪ガス)は厳しいことを言えるタイプで、その辺りの違いはありました。野口はグイグイ引っ張るタイプだけれど、森沢は周囲を見て一緒になって引っ張るタイプ。それぞれの良さがあるので、どっちが良いとかはないですけどね」(多田監督)
何より正捕手で副キャプテンの坂根葉矢斗や、プレーイングマネジャーを務める控えの捕手の野上隼人が後ろにいることが森沢にとっては心強い。
「他の選手も注意するところは注意してくれるので、大変なことは少ないです」
リーダーは森沢だが、みんなで一緒になってチームを作っていく。その一体感が、今年の履正社の強みでもある。