節目の年の「ソナエルJapan杯2023」がスタート! Jリーグとヤフーの強みを掛け合わせた共同企画で防災意識のアップデートを

宇都宮徹壱

「ソナエルJapan杯」を共同企画するJリーグの辻井隆行執行役員(左)とヤフーの西田修一執行役員(右)が、その狙いと今年の第3回大会への期待を語った 【YOJI-GEN】

 防災意識を高めるJリーグとYahoo! JAPANの共同企画「ソナエルJapan杯2023」が、本日8月8日からスタートする。3回目を迎える今回は、関東大震災から100年、そしてJリーグ30周年という節目の年での開催。近年の気候変動や激甚化する災害に対する人々の認識を深め、行動変容を促す好機とも言えるだろう。ここではJリーグの辻井隆行執行役員とヤフーの西田修一執行役員が、過去2回の成果と課題を踏まえつつ、「ソナエルJapan杯2023」への期待感を語ってくれた。

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長崎のソナエルJapan杯連覇の理由とは?

 まずはクイズから。2022年は、1位:V・ファーレン長崎、2位:清水エスパルス、3位:浦和レッズ、4位:名古屋グランパス、5位:アルビレックス新潟。2021年は、1位:V・ファーレン長崎、2位:清水エスパルス、3位:FC町田ゼルビア、4位:藤枝MYFC、5位:ガンバ大阪。さて、これは何のランキングであろうか?

 答えは、過去2回の「Jリーグシャレン! ヤフー防災模試 共同企画 ソナエルJapan杯(以下、ソナエルJapan杯)」の上位5クラブのランキングである。ソナエルJapan杯とは、防災意識を高めることを目的に、災害時に必要な知識や能力を問う「ヤフー防災模試」を、Jリーグに所属する全クラブのファン・サポーターがスマートフォンで受験。その点数をクラブ間で競い合うという企画である。

 南海トラフ地震による被災が想定されている静岡県は、伝統的に防災意識が高いことで知られているので、清水がこのポジションにいるのは理解できる。ではなぜ、長崎は2年連続で1位をキープしているのだろうか?

「今回のソナエルJapan杯に関しては、『これは絶対に頑張りたいので、みんなで盛り上げる方法を考えよう』という私の気持ちが強かったこともありましたね。こうした共感、災害に備えることの必要性が社員のみならず、ファン・サポーターの皆さんにも伝わり、広がっていくことができたのが大きかったと思います」

 21年の優勝について、このように語っていたのは、当時の長崎の社長、髙田春奈氏である。高田氏は翌年にはJリーグの常勤理事となり、その後はWEリーグのチェア(理事長)に就任して今に至っている。が、社長が代わっても「災害に備えることの必要性」は受け継がれているようだ。もっとも、長崎県全体で防災意識が高いのかというと、それはまた別の話らしい。ヤフー株式会社執行役員で、コーポレートグループSR推進統括本部長の西田修一氏は語る。

「実は長崎県って2018年に行った全国統一防災模試の結果で見ると、人口比の参加率はワースト、平均点は全国で下から2番目だったんですよ。ヤフーだけで『防災意識を高めましょう』と訴えても、なかなか参加者は増えないし得点も上がらないですよね。そこでJリーグさんと一緒にやることで、格段にリーチも得点も向上するということが、ソナエルJapan杯で明らかになったと思います」

 一方で、防災意識を高めることと順位をつけることの関連付けに、違和感を覚える向きもあるかもしれない。この疑問については、Jリーグの執行役員としてサステナビリティ領域を担当している、辻井隆行氏に答えてもらおう。

「震災とか気候変動とか、決して楽しい話ではないですよね、それを前向きに取り組むには、ゲーム性を取り入れて順位を決めたほうが、ファン・サポーターの方々も参加しやすいと思います。それとJリーグシャレン!(社会連携)アウォーズもそうですが、表彰することで、こうした取り組みをより多くの方々に知っていただけるというメリットもあります」

防災意識を高めるJリーグとヤフーの共同企画

気候変動の影響はJリーグにも及んでいる。今季もすでに2試合が中止となったが、「スポーツを行う土台そのものが危うくなっている」と辻井氏は危惧する 【Getty Images】

 それにしてもなぜ、防災に関してJリーグとヤフーが共同企画を立ち上げたのだろうか? そのことに触れる前に、ヤフーの西田氏とJリーグの辻井氏、それぞれに自然災害や気候変動に対する思いを語っていただこう。

「11年に東日本大震災が起きた時、私はヤフーのトップページを担当していました。当時はインターネットにおいて日本で最も見られる1ページでしたが、『どれだけ責任を果たせたのだろう?』という思いがどこかにありました。その2年後、Yahoo!検索に異動になった時に、私は『3.11 検索は応援になる』というキャンペーンを企画しました。毎年3月11日に『3.11』とYahoo!検索で検索すると、1回の検索につき10円ずつ、東北支援に携わる団体に寄付ができるというものです。検索することで、震災を自分ごとに捉えていただけると同時に、記憶の風化を防止することが目的です」(西田氏)

「Jリーグの理事になる前は、『パタゴニア』というアウトドア系のアパレル企業にいました。僕自身、サーフィンで25年くらい海に入っているんですが、海水の温度が年々高くなっているのを肌で実感していました。気候変動は、人類にとっての喫緊の課題です。自分に何ができるかを考えていた時、Jリーグからご縁をいただくことになりました。Jリーグではシャレン!に5年前から取り組んでいますが、シャレン!活動に限らず、すべての活動の土台となるのが気候と環境。ということで、サステナビリティ部が立ち上がって、僕が担当することになりました」(辻井氏)

 Jリーグにサステナビリティ部が新設された今年、6月3日のヴィッセル神戸対川崎フロンターレ戦と7月16日のブラウブリッツ秋田対FC町田ゼルビア戦が、相次いで中止となっている。前者は、台風2号の影響による公共交通機関の運転見合わせが理由。後者は、大雨の影響で安全の確保や安全な試合運営が困難と判断されたためだ。

 一方で、今年の夏は全国的に記録的な猛暑が続き、最高気温が40度近くになることも珍しくなくなった。いずれも気候変動の影響と見られる。それらを踏まえて、辻井氏は続ける。

「昨今の災害を考えた時、自然のサイクルの中で起こってしまうものだけでなく、人為的な経済活動の結果として激甚化してしまうものもあります。台風や集中豪雨による、今年の試合中止を見て思うのは、スポーツを行う土台そのものが危うくなっているということ。ですから災害が起こってしまった時、被害を最小限に食い止めるためにも、ほぼすべての国民が見ているヤフーさんのプラットフォームを活用しながら、防災の意識を高めていけるのではないかと考えます」

 プラットフォームを提供するヤフー側にも、Jリーグに期待するところは大きいようだ。今度は西田氏が語る。

「当社は、災害が多い日本に根ざしたインターネット企業ということで、災害時にどれだけ役立てるかが重要であると考えます。災害は、起こるまでは誰も当事者ではありません。そして災害は、インターネット空間ではなく、実際に人が住んでいる土地で起こります。さまざまな地域に根ざしながら、地域と人をつないでくれるのがJリーグさん。ですから、ご一緒できるのは、とても心強いことだと思っています」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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