大谷のトレードに“動けなかった”エンゼルス 補強はその場しのぎ、将来への不安浮き彫りに

丹羽政善

トレードデッドラインはまさにエンタメだが

23年終了まではエンゼルスでプレーすることが確定、おなじみの兜パフォーマンスも見られそうだが… 【Getty Images】

 レンジャーズとドジャースが、ダルビッシュ有(当時レンジャーズ、現パドレス)のトレードで合意に達したのは、2017年7月31日、午後3時59分(米東部時間)。トレードデッドラインの1分前だった。

 期限を過ぎてもすぐには発表がなかったが、レンジャーズの広報は、多くの問い合わせに対し“何もない”と否定もしなかった。すると午後4時10分過ぎ、トレードが判明。両チームの合意後、リーグの承認作業がある。10分少々の時間を要したことから、タイムラグが生まれた。

 今回、エンゼルスの大谷翔平を巡っては、後半戦が始まると、様々なメディアがそれぞれの球団のプロスペクトリストを紹介しつつ、エンゼルスが断れないとしたら? という視点から様々なシナリオを検討したが、具体的な進展はなく、ドラマ性は皆無だった。

 ダルビッシュがトレードされた日を振り返ると、やはりトレード候補だったジャスティン・バーランダー(当時タイガース、1日にアストロズへ復帰)が、トレード期限の17分前に「速報だ。俺はまだ、タイガースのロッカーにいる」とツイートすると、ダルビッシュも、クラブハウスでの自撮りに「10 min!!(あと10分)」というメッセージを添えて投稿。

 地元記者らの分刻みのアップデートに選手らも乗っかり、まさにエンターテイメント。映画やテレビドラマを見ているような緊迫感があったが、大谷のトレードに関しては、期限5日前に、エンゼルスが舞台を降りた。

ヤンキース大谷説に番記者は冷ややか

 そもそも彼らが大谷をトレードする可能性は低かった。それでも、そういう空気になったのは7月半ばのこと。ESPNのバスター・オルニー記者が、「ヤンキース、ヤンキース、ヤンキース」とテレビ番組で連呼して、ヤンキースが大谷獲得に本気だと伝えた。また、MLBネットワークのジョン・モロシ記者も、「エンゼルスは大谷のトレードに関して、テーブルにつく用意がある」と報じている。

 普段からスクープを連発する記者の情報だっただけに“ひょっとしたら”ということで、日米のネットニュースが食いついたが、16日にはESPN「サンデーナイトベースボール」でエンゼルスの試合が放送され、19日にはMLBネットワークでやはりエンゼルス戦が中継された。それは果たして偶然だったのか。

 ちょうどその頃、アナハイムにいたヤンキースの番記者らは、オルニー記者の報道に首を傾げ、「大谷一人でいまのヤンキースの状況を変えられるわけではない」と冷ややかだった。

 エンゼルスが大谷を使って再建を試みるなら、1年前に動かなければならなかった。その年のオフにFA(フリーエージェント)になる選手のバリューは、トレード期限が近づけば近づくほど、下がるからだ。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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