連載:高校野球2023夏の地方大会「エリア別大展望」

12年ぶりの甲子園を目指す春の東京王者・帝京 帝王学を学んだ金田監督の下、常勝軍団が復活を期す

上原伸一

今春の東京大会を制した帝京。第1シードとして臨む東東京大会で頂点に立ち、2011年夏以来遠ざかっている甲子園の切符を勝ち取れるか 【YOJI-GEN】

 帝京高校が甲子園の舞台から姿を消して久しい。最後に全国大会に出場したのは2011年の夏だから、もう12年が経つ。しかし、春夏合わせて日本一に3度輝いた実績を持つかつての常勝軍団は、この夏に復活の雄叫びを上げるかもしれない。名将・前田三夫監督の後を継ぎ、21年秋からチームを率いる金田優哉監督の下、今春の東京大会で優勝。夏の東東京大会には王者として臨む。長く苦しい時を経て、復活を期す名門に迫った。

現在もNPBで中村晃、山﨑康晃らOBが躍動

名将・前田監督の後を継ぎ、2021年秋からチームを率いるのがOBでもある金田監督だ。恩師の下で約10年コーチを務め、帝王学を学んだ 【上原伸一】

 東京の高校野球をけん引する大きな存在。それが帝京高校だ。

 創部は1949年。なかなか頂点には立てなかったが、72年に就任した前田三夫監督(現・名誉監督)の下、75年春に初めて都で優勝を遂げる。これを機にユニホームが、現在の「タテジマ」となった。デザインは当時の阪神タイガースのユニホームを模したという。

 甲子園初出場は78年春のセンバツ。以来、甲子園には春14回、夏は12回出場しており、全国制覇を3度(92春/89、95夏)達成している。春、夏合わせた勝利数は51(東京では早稲田実、日大三に次ぐ3位)で、.689の高い勝率を誇る。

 帝京は数々のプロ選手を輩出していることでも知られる。現在もNPBでは中村晃(ソフトバンク)、山﨑康晃(DeNA)、松本剛(日本ハム)、清水昇(ヤクルト)といった選手が躍動している。

 そんな栄光の歴史に彩られてきた帝京も、2011年夏以来、甲子園から遠ざかっている。だが今春、帝京の名がスポーツメディアで躍った。春季都大会で10年ぶり14度目の優勝を飾ったのだ。続く関東大会では、2回戦でセンバツ優勝校の山梨学院を撃破。今夏、「常勝軍団」が復活の雄叫びを上げようとしている。

高橋蒼人が“真の帝京のエース”になれたら甲子園に行ける

下級生時から主戦投手を担ってきた高橋は現チームの柱だ。「貴重な経験になりました」と本人が話すように、春の大会でリリーフに回ったことで投手としての幅が広がった 【上原伸一】

「ターニングポイントになったのは(都大会)3回戦の明大中野八王子戦だったと思います」

 21年秋に恩師の前田前監督からバトンを引き継いだ金田優哉監督はこう話す。自身も帝京出身で、2年夏(02年)に背番号15の控えで甲子園に出場した(チームはベスト4)。

「入場行進した時に足裏に伝わってきた、サクッサクとした土の感触はいまも足裏に残っています。甲子園に行けたことで、自分の人生は間違いなく変わりました。もし行ってなかったら、指導者にはなっていないと思います」

 2年秋からは主将になり、筑波大でも投手として活躍。卒業後は会社員を経て、駒澤大高のコーチを務めていたが、前田監督から「母校の指導をしてほしい」と要請を受ける。11年4月に保健体育の教諭として赴任し、コーチになった。

 金田監督は続ける。

「最終的には(6-2で)勝ちましたが、5回までは(1-2と)押されていて、危ない展開でした。試合後の空気も重かったのですが、帰りのバスで選手たちに意見を交わさせたところ、メンバー外の3年生から、かなり厳しい声が飛びまして。『日本一を目指しているのに情けない』『レギュラーとして恥ずかしくないのか』などと……。メンバーの選手は真摯に受け止めたようです。それからですね。チームが1つになり始めたのは」

 エースの高橋蒼人(3年)も、「あのミーティングがあったから優勝できたんだと思います」と言う。

「それで○番(背番号)つけてるのかよー」などと、シートノックでもメンバー外の選手から容赦ないゲキが飛ぶ。「今年はいい意味でメンバー外の遠慮がないチームになっていますし、それによってレギュラーは全部員の代表である自覚が強くなりました」(金田監督)。

 金田監督は「彼らの協力なくしてチームは成り立たない」と、メンバー外の選手を大事にしている。定期的に面談も行い、モチベーションの維持を促しているという。

 そこには自らの経験もある。高校時代は1年夏からベンチ入りし、2年春は背番号1をもらった。エリート街道まっしぐらだったが、肩の故障で、続く関東大会は初めてベンチを外れる。分析班に加わり、裏方の仕事をした。

「その時に初めて、ベンチを外れる気持ちが分かりました。支えてくれている仲間がいるから試合に出られると、気付くこともできました」

 チームの一体感とともに春の優勝につながったのが、大黒柱である高橋の好投だ。安藤翔(3年)、坂下楓真(3年)、小野寛人(2年)ら他の投手の成長もあり、高橋は先発から救援に回った。マウンドに上がる時はピンチの局面ばかりだったが、ロングリリーフもこなすなど、しっかりと役割を果たし、試合の流れを引き寄せた。

 金田監督は「試合を作るのが役目の先発とは違い、リリーフは1人目から打ち取らなければなりません。よく投げてくれたと思います」とねぎらう。

 高橋も「先発よりも1つギアを上げることが求められたり、出番がいつ来るかわからないなかで準備したのは貴重な経験になりました」と、救援を務めて得た収穫は多かったと口にする。1年時から夏の開幕投手を担い、最速147キロのストレートを武器とするエースは、投手としての幅が広がったようだ。

 そんな高橋に、金田監督はさらなる成長を期待している。

「本人にもよく伝えているんですが、まだ“帝京の1番”としては物足りない。ふさわしい投手になってほしいですし、蒼人(高橋)が“真の帝京のエース”になれたなら、夏の甲子園に出場できると思っています」

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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。外資系スポーツメーカーなどを経て、2001年からフリーランスのライターになる。野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在はベースボール・マガジン社の『週刊ベースボール』、『大学野球』、『高校野球マガジン』などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞『4years.』、『NumberWeb』、『ヤフーニュース個人』などに寄稿している。

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