【多摩川クラシコ名勝負・川崎編】過去40試合から選出したのは、ゼロトップ、法則を裏切った試合、あの選手の特別なゲーム!
負傷者が続出し、苦しむ川崎。14番を引き継いだ脇坂泰斗を中心にFC東京を下し、浮上のきっかけとしたい 【(C)J.LEAGUE】
2012年9月22日/J1リーグ第26節
FC東京1-2川崎(味スタ)
ゼロトップを担った楠神順平。メッシでもボージャンでもなかったが、決定的な仕事をこなした 【(C)J.LEAGUE】
FC東京:86'エジミウソン
川崎:46'楠神、54'ジェシ
●FC東京メンバー
GK:権田修一
DF:徳永悠平、森重真人、高橋秀人、丸山祐市(68'田邉草民)
MF:米本拓司(63'ネマニャ・ヴチチェヴィッチ)、長谷川アーリアジャスール、石川直宏、梶山陽平、羽生直剛(75'エジミウソン)
FW:ルーカス
監督:ランコ・ポポヴィッチ
●川崎メンバー
GK:杉山力裕
DF:伊藤宏樹、ジェシ、實藤友紀、山越享太郎
MF:風間宏希、中村憲剛、風間宏矢(71'小松塁)(90'+3レネ・サントス)
FW:大島僚太、山瀬功治、楠神順平(77'登里享平)
監督:風間八宏
このシーズンの多摩川クラシコは、川崎にとってはどちらもターニングポイントになるゲームだった。
4月、等々力での多摩川クラシコ敗戦後、クラブは相馬直樹監督を解任している。クラシコの負けで監督交代という決断が下されたのである。その後、川崎は風間八宏監督が就任。ただ夏場以降に失速し、気づけば6試合未勝利となっていた。この試合の勝敗次第では残留争いに巻き込まれる可能性が出てくる。そんな味スタでの多摩川クラシコだった。
ゲームは劣勢が続き、前半に川崎の放ったシュートはわずか1本。一方のFC東京は、前半だけで9本。スコアは0-0だったが、前半を見る限り、川崎に勝ち目はないような苦しい展開だった。
ただこの試合に向けた練習後、中村憲剛がこんな"予言"をしていた。
「キーマンは楠神だね。クスがメッシになれば勝てるよ」
この多摩川クラシコで風間監督は1トップに楠神順平の起用を決断していた。ただ小柄なドリブラーの楠神は、前線で身体を張って起点を作るタイプではない。最前線では、いわゆる「ゼロトップ」の仕事を任されていた。その楠神の役割を中村が、当時バルセロナにいたメッシになぞらえたのである。なおその言葉を聞いた楠神は、こうおどけていた。
「いやいや、僕はメッシじゃない。ボージャンです」
前半の楠神は、ボールを触ってリズムを掴みたいがあまり、我慢しきれず中盤に降りてきてしまっていた。ハーフタイム、そんな彼に風間監督から指示が飛ぶ。
「中盤に下りてくるな! 前線でセンターバックに貼り付け!」
すると後半開始48秒、味方とのワンタッチパスで抜け出した楠神順平の一撃で川崎が先制に成功するのである。巧みな切り返しから相手DFを2人かわして決めた、技巧派ドリブラーらしい鮮やかな電光石火弾だった。
さらに54分にはFK からジェシが頭で競り勝ち、追加点。終盤は必死に守り切り、7試合ぶりの白星を掴んだのだ。膝の手術による長期離脱から復帰して勝利に貢献したジェシは、試合後に涙を流して歓喜を噛み締めていた。
試合後、楠神に「ナイスゴール。メッシ、ボージャン、どっちのイメージでやれた?」と声をかけると、彼は「今日はどっちでもなかったですね」とはにかんでいた。この時代のクラシコの主役であり続けたメッシのようにはいかないが、楠神順平にしかできない仕事でチームを勝利に導いた多摩川クラシコだった。
等々力では敗戦し監督も解任。しかし、敵地では見事にリベンジを果たす。
“やられたら、やり返す”
それが多摩川クラシコの流儀であることを示したシーズンだった。