【多摩川クラシコ名勝負・FC東京編】過去40試合から選出したのは、大逆転劇、リベンジマッチ、あの選手が輝いたゲーム!
FC東京は多摩川クラシコで7連敗中。18年以来となる川崎戦白星のカギを握るのは、松木玖生をはじめとする若い力だ 【Photo by J.LEAGUE/J.LEAGUE via Getty Images】
2006年11月11日/J1リーグ第30節
FC東京5-4川崎(味スタ)
後半だけで4ゴールを叩き込み、3点差をひっくり返したFC東京。味スタの熱気が川崎の選手たちを飲み込んだ 【Photo by J.LEAGUE/J.LEAGUE via Getty Images】
FC東京:14'ルーカス、51'戸田、83'平山、89'宮沢、89'今野
川崎:07'谷口、17'我那覇、42'ジュニーニョ、49'マギヌン
●FC東京メンバー
GK:土肥洋一
DF:徳永悠平、伊野波雅彦、増嶋竜也、藤山竜仁
MF:今野泰幸、梶山陽平(62'宮沢正史)、石川直宏(54'鈴木規郎)、戸田光洋(68'平山相太)、馬場憂太
FW:ルーカス
監督:倉又寿雄
●川崎メンバー
GK:吉原慎也
DF:箕輪義信、寺田周平、伊藤宏樹
MF:森勇介、中村憲剛、谷口博之(89'井川祐輔)、マルコン、マギヌン(67'佐原秀樹)
FW:我那覇和樹(75'鄭大世)、ジュニーニョ
監督:関塚隆
当時ベンチで指揮を執っていた倉又寿雄は、あの日の夜に起きた事件を述懐する。
「私のサッカー人生の中で、あれほどまでに興奮して、感動した試合はない。もう一度やれと言われても、きっとできないと思う。それほどのゲームを選手たちはやってのけた」
試合は1-3で後半へと折り返し、後半開始早々に4点目まで奪われてしまった。指揮官も「サッカーの常識では、そこからの逆転は考えられない。その時点では、正直厳しいと思った」という。だが、そこから痛快な逆転劇が始まる。戸田光洋が2点目を取り返した直後、川崎に退場者が出ると「もしかしたら」という気持ちが芽生え始めた。
川崎が守りに入ったことでセカンドボールを拾って一気に畳み掛け、押せ押せムードに拍車が掛かる。83分に平山相太が3点目を奪い、川崎にはふたり目の退場者が出る。倉又は「そこで追いつけると確信した」と言い、ここからの信じられないドラマをちょっと興奮気味に語った。
「90分を過ぎたあたりでミヤ(宮沢正史)のゴールで同点に追いつき、私としては十分満足できる内容だった。だけど、あとで聞いたら得点を奪ったミヤが看板を乗り越え、サポーターの元に駆け寄ると、ピッチではコンちゃん(今野泰幸)ひとりが『早くしろ』と怒鳴っていたらしい。あいつだけは信じていたんだろうね、逆転を」
そして、試合終了間際の今野にボールが渡る。ベンチで倉又は「打て」と叫んでいた。今野は「スタジアム全体が打てと思っていたんだと思う。今の僕ならあの位置から打とうなんて思わない。あの雰囲気に乗せられたんだと思う」 無心で放った、抑えの効いたシュートが誰にも当たらずにネットを揺らした。
その瞬間、スタジアム全体の空気がボンッと爆ぜた。倉又も「その後の詳しい記憶はない」と言い、ゴールを決めた今野も「頭が真っ白になった」という。無我夢中で、みんなが抱き合った。今も倉又の自宅には、その当時の写真パネルが飾ってある。
「コンちゃんと抱き合っている隣で、ナオ(石川直宏)も、2mぐらい飛び上がって喜んでるんだよ。あのときのスタジアムの雰囲気は、本当に忘れられないよ」
実は後日談もある。倉又は苦笑いで言葉にする。
「そうそう、川崎の関塚(隆)が、その年のJリーグアウェーズで再会した時に『クラさん、あれはないですよ』と、まだ怒っていたぐらいだったからね。お互いにとって、それだけ特別な試合になった」
その遺恨によって翌年は2試合で12失点を喫し、完膚なきまでにたたきのめされてしまう。倉又は言う。
「あの最高の雰囲気なら、どこが相手だって負けないよ。味スタは、いつだってそういう空気が弾ける場所であってほしい」
当事者たちの脳裏には「味スタの魔力」として刻まれた、あの夜から東京をやめられなくなった人は多いはずだ。僕も、そのひとりなのかもしれない。