【多摩川クラシコ名勝負・川崎編】過去40試合から選出したのは、ゼロトップ、法則を裏切った試合、あの選手の特別なゲーム!

いしかわごう
セレクト2
2019年7月14日/J1リーグ第19節
FC東京0-3川崎(味スタ)

貴重な先制ゴールを決めた小林悠。これが記念すべきJ1での100ゴール目となった 【(C)J.LEAGUE】

●得点者
FC東京:なし
川崎:20'小林、54'齋藤、69'阿部

●FC東京メンバー
GK:林彰洋
DF:室屋成、渡辺剛、森重真人、小川諒也
MF:東慶悟、髙萩洋次郎(53'大森晃太郎)、橋本拳人、ナ・サンホ(70'矢島輝一)
FW:ディエゴ・オリヴェイラ、永井謙佑(85'内田宅哉)
監督:長谷川健太

●川崎メンバー
GK:チョン・ソンリョン
DF:登里享平(90'+1山村和也)、ジェジエウ、谷口彰悟、車屋紳太郎
MF:田中碧、下田北斗、中村憲剛、阿部浩之、齋藤学(78'長谷川竜也)
FW:小林悠(85'知念慶)
監督:鬼木達

 実はこの年までの多摩川クラシコを振り返ると、FC東京がJ1に復帰した2012年以降、不思議な対戦データが存在していた。

 それは味スタにおける川崎の勝敗である。12年は川崎が勝利をおさめているが、翌年の13年は敗戦。そこから14年は白星、15年は黒星、16年は白星、17年は黒星……と、まるでオセロのように味スタでの勝敗で白星と黒星が交互に続いていたのである。

 そして18年は白星。このデータによる法則から言えば、この19年は黒星になることになる。しかも当時のFC東京は首位だった。その法則は揺るぎないもののように思えた。

 結論から言うと、この年はそうはならなかった。川崎が3-0で勝利して、このデータによる法則を裏切ったのである。内容も完璧に近い勝ち方で、試合後の田中碧はこう胸を張った。

「これだけ攻守に圧倒できた試合は、今シーズンはなかったのではないかと思います。最後、相手がボールを取りに来るのが嫌なぐらい回せた。本当にやりたいことがやれたと思います」

 アグレッシブかつ強度の高いプレッシングでボールを追い続け、一度奪えば、果敢な突破と巧みなパスワークを織り交ぜてゴールを目指し続けた。圧巻だったのが、2点目の崩しである。縦パスで攻撃のスイッチが入り、バイタルエリアで中村憲剛が時間を作ると、小林悠からのパスを三人目の動き出しで詰めていた齋藤学が流し込む。イメージを共有して崩した、フロンターレらしい美しいフィニュシュワークによる追加点だった。

 なおこの試合の先制点を決めた主将の小林は、これがJ1通算100ゴール。彼が師匠と呼んでいたジュニーニョは2010年に100ゴールを達成しているが、それを記録したのも味スタである。試合後、通算116得点のジュニーニョの背中が見えてきたのではないかと小林に尋ねたら、「ジュニーニョは点を取りすぎているから、まだ先は長いです(笑)」と笑っていたのを覚えている。小林はその2年後に116点を超え、現在は135点で歴代8位になっている。

 データによる法則を打ち破り、完璧な試合内容で首位撃破。そして当時の主将・小林が記念すべきJ1通算100ゴールを記録。記憶にも記録にも残る多摩川クラシコになった。
セレクト3
2020年10月31日/J1リーグ第25
川崎2-1FC東京(等々力)

決勝ゴールを叩き込んだバンディエラの中村憲剛。翌日、現役引退を電撃表明した 【(C)J.LEAGUE】

●得点者
川崎:24'家長、74'中村
FC東京:57'ディエゴ・オリヴェイラ

●川崎メンバー
GK:チョン・ソンリョン
DF:山根視来、ジェジエウ、谷口彰悟、登里享平(90'+5車屋紳太郎)
MF:守田英正、田中碧、中村憲剛(77'脇坂泰斗)
FW:家長昭博(90'+5齋藤学)、三笘薫、レアンドロ・ダミアン(90'+5山村和也)
監督:鬼木達

●FC東京メンバー
GK:波多野豪
DF:中村帆高(89'内田宅哉)、渡辺剛、森重真人、小川諒也
MF:三田啓貴(46'中村拓海)、アルトゥール・シルバ、安部柊斗
FW:永井謙佑(76'田川亨介)、ディエゴ・オリヴェイラ(76'アダイウトン)、レアンドロ(90'+2原大智)
監督:長谷川健太

 10月31日に行われたこの年の多摩川クラシコは、中村憲剛にとって40歳の誕生日でもあった。試合に向けたオンライン会見でこちらがそのことを尋ねると、バンディエラはこう話していた。

「誕生日に試合をするのは初めてかな。あんまり記憶にないです。どういう流れかはわかりませんが、ここで巡ってきたので不思議だなと思いますね」

 戦前の予想通り、攻める川崎と守るFC東京の構図で試合は進んだが、ピッチには果敢にゴールを狙っていく40歳のバンディエラの姿があった。12分には、思い切ったミドルシュートがゴールバーを直撃する惜しい場面も見せている。バースデーゴールを自ら祝うべく、いつになく得点にも貪欲なのだと観客の誰もが思っていた。

 攻め続けた川崎は、レアンドロ・ダミアンが倒されて得たPKを家長昭博が成功して先制に成功。だがFC東京も反撃。57分、ディエゴ・オリヴェイラが、GKのニアサイドを打ち抜く一撃で同点に追いついたのである。ここから試合は一進一退の攻防になっていく。

 そんな試合に終止符を打ったのは、やはりこの男だった。

 73分、スーパールーキー・三笘薫が左サイドで1対1の間合いを作って駆け引きしている間、ゴールの匂いを嗅ぎ取った40歳がエリア内に猛然とスプリント。すると三笘からの折り返しを鋭く振り切ると、その弾道はGKの肩口を抜いてゴールネットに突き刺さった。「来い!」と念じながら侵入したと、試合後の中村は笑っていた。

「カオルの侵入が深くなるにつれて、点が取れるかもしれないと思いました。カオルに目がいっている間にマークを外せばくると思ったので、『来い!来い!』と念じながら入った。特にコースは関係なく、思い切り打てば入ると思って……打ったら入りました(笑)」

 これが決勝弾となり、チームはリーグ12連勝を記録。そして、自らの誕生日をゴールで祝った試合の翌日、中村憲剛は現役引退を電撃発表した。この年限りでユニフォームを脱ぐ決意を明かし、サッカー界に衝撃を与えることとなる。前日の多摩川クラシコで、あれだけゴールにこだわるプレーをしていた理由は、そこにあったのである。

 あれはクラブの歴史とともに歩んできたバンディエラが、等々力で刻んだ現役ラストゴールとなった。それがこの年の多摩川クラシコだった。

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