U15選手権から見えたBユースの現在地 MVP若野が強豪校でなく名古屋D・U18に進む理由は?

大島和人

BリーグU15選手権は名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15の優勝で幕を閉じた 【(C)B.LEAGUE】

 第6回目となるB.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP 2023(U15選手権)は3月30日に決勝戦を行い、名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15が3連覇を達成している。46チームが参加して競われた「Bリーグの育成組織」「中学生年代」の全国大会で、高校入学を間近に控えた中3世代も参加していた。

 バスケットボール界の混乱が収まり、2つに割れていた男子のトップリーグがBリーグとして再出発したのは2016年秋。Bリーグは2018年4月から、各クラブにU15年代のアカデミー設置を義務づけている。2021年4月以降は部活とクラブの二重登録が禁止され、部活を補完する立ち位置から、プロ育成を志向した強化チームへと脱皮を果たしつつある。

横浜BCとの準決勝は激闘に

 今年1月に開催されたジュニアウインターカップ(Jr.ウインターカップ2022-23 2022年度 第3回全国U15バスケットボール選手権大会)は中学校の部活、街クラブも参加する大会だった。こちらはライジングゼファー福岡U15と横浜ビー・コルセアーズU15によるBユース同士の決勝戦となり、福岡が初優勝を飾っている。バスケはサッカーほど“プロの育成組織”への人材集中が起こっていないし、街クラブや私立中もレベル的には横一線だ。とはいえBユースがレベルを上げつつある、根付き始めていることも間違いない。

 名古屋Dは1月のジュニアウインターでも優勝候補の一角に数えられていたが、準々決勝で福岡に67-69で敗れた。しかし今回のU15選手権は決勝でその福岡に55-46と快勝している。

 名古屋Dにとって決勝以上に難しい試合となったのが準決勝の横浜BC・U15戦だ。第4クォーター残り56秒3から横浜BCの佐藤凪が3ポイントシュートを決め、試合は64-64と振り出しに。名古屋Dのエース若野瑛太はタイムアウト明けのプレーで、ゴール下からフローターショットを沈める。チームはその後66-67と逆転されてしまうが、若野は残り7秒5の勝負どころでやはりポストの位置から逆転の2ポイントシュートを決めた。名古屋Dは68-67で難敵を振り切って、決勝進出を決めた。

若野に託すと決めていた

末広朋也HCの指示に耳を傾ける選手たち 【(C)B.LEAGUE】

 名古屋Dの末広朋也ヘッドコーチ(HC)は言う。

「このゲームで本当に良かったのは、若野瑛太が最後に2回オフェンスを決めたことです。ジュニアウインターカップは福岡に1点差で負けましたが、残り5秒ぐらいで、若野が外しています。この3カ月、終盤に競った場面があったら、また彼に託すと決めていました」

 若野は186センチのフォワードで、中2から“飛び級”でU18の大会に出ていた逸材だ。そのような有望株に挫折を乗り越えさせる、成功体験を積ませるため、指揮官は若野に託すプレーをコールした。名古屋Dは中学年代には珍しくプレータイム、ボールをシェアするスタイルだが、この場面は個を前面に出した。

「あの場面は練習試合とか練習では作れません。緊迫した雰囲気で“絶対に外せない”という場面は作れない。この大会はそこを経験しに来ました」(末広HC)

 つまり「試合は最高の練習」の金言を具現化した場面だった。若野は振り返る。

「(末広HCが)ジュニアウインター終わった後から、『チャンピオンシップの大事な時間帯はお前で行くよ』って僕にずっと言ってくれていました。だから期待に応えられるように、ずっと練習してきました。横浜戦は勝負どころでしっかりとシュートを決めることができて、コーチの期待に応えられて、とても嬉しいです」

決勝は福岡にリベンジ

 そしてチームは決勝で福岡にリベンジを果たした。若野はこう口にする。

「ジュニアウインターのとき、僕がシュートを外して負けて、チーム全員がとても悔しい思いをしました。大会が終わった後に全員で気持ち切り替えて、たくさん練習をして、ミーティングで福岡さんの対策もしていました。福岡さんが決勝の相手で正直良かったです。最高の形でリベンジを果たすことができました」

 若野は準決勝、決勝ともチーム最多の得点を挙げて大会MVPに輝いた。彼は自身の強みについてこう述べる。

「僕は1年生からずっと試合に出ていますが、1年生のときは決勝で3ポイント2本決めています。去年の決勝も3ポイントを1本決めました。自分の持ち味は3ポイントだと思っています」

「駆け引きを学んでほしい」

 名古屋Dがチームとして1月の大会から大きな進歩を見せていたのはディフェンスだ。構築に時間がかかるオフェンスからチームを作ってきた事情もあるが、短期間で練度が上がっていた。特に選手の駆け引き、柔軟な判断が光った。例えば彼らは相手のハンドラーに対してダブルチームで対応しつつ、空けたスペースを使われる前にビッグマンがゴール下に戻るプレーを多用する。踏み込む距離、戻るタイミングがワンパターンでなく、オフェンスを“迷わせる”動きをしていた。

 末広HCは説明する。

「最後の読みは選手次第です。あまりルールで縛って『ルール通りにやりました。監督どうなっていますか?』となるのでなく、1ステップ出るのか2ステップ出るのかは相手の心理を読みなさいと伝えています。チームの型を得ただけだと、何も残らないけれど、駆け引きを学んでほしい」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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