U15選手権から見えたBユースの現在地 MVP若野が強豪校でなく名古屋D・U18に進む理由は?

大島和人

若野が名古屋D入りを決めた理由は?

若野瑛太(右)は大会MVPに輝いた 【(C)B.LEAGUE】

 名古屋Dのアカデミーは、Bリーグでも最高レベルの環境を誇っている。コートが2面ある体育館をトップチームと共用。U15は1学年が約15人で、3学年を2チームに分けて2時間ずつ練習し、末広HCがそれぞれを見ている。全体練習の前には、シューティングなどの個別練習もできる。

 若野は身体の強さ、判断力、スキルと勝負強さを兼ね備えた有望株で、目指す選手にはルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス)を挙げていた。彼は名古屋DのU15に加入した経緯をこう説明する。

「小6のときに末広コーチに誘われたのと、ドルフィンズに入ったミニバスの先からも誘われました。最初に体験みたいな感じで入ったんですけど、末広コーチの教え方、ドルフィンズの雰囲気が好きになりました。『このコーチのもとで3年間やってみたいな』と思って入りました」

 愛知県はBリーグ発足前から強豪クラブが多く、県内にはB1のアカデミーだけど計4つある。若野も他のチームと迷ったそうだが、名古屋Dへの加入を決めた。

島根は10年間在籍した選手も

 U15年代については世代のトップ選手がBリーグのアカデミーに集まるようになっている。今大会は3位にとどまった横浜BCも、注目タレントだった新郷礼音がエントリーはされつつアメリカ留学に備えて欠場していた。新郷が不在でなければサイズ、得点力は明らかに上がっていただろう。

 大会4位の島根スサノオマジックU15は主力に180センチ以上の選手がいない小型チームで、練習環境も松江市、出雲市、米子市の施設を転々とするハンデを抱えている。通常の活動は週4日で、19時から22時ころまで。コーチングスタッフはスクールのクラスを2つこなしたあと、U15の練習を見ている。親の負担を減らすため、5人のスタッフが車で選手の送迎までしているという。しかし質の高さで大きなインパクトを残した。

 177センチのポイントガード金山颯は準決勝で24点、3位決定戦で33点を記録するなど島根の中でも圧巻の活躍だった。練習前の塾通いなどで文武両道を貫き、県内トップクラスの進学校に進む主力選手もいる。

 島根U15の末松勇人HCは大会後にこう語っていた。

「島根はクラブを創設した2年後にスクールを作りました。そのときの一期生が、今の3年生にいます。彼とは5歳のときから10年間、一緒にバスケをしてきました。だから思いがこれまでのチームよりさらに強くて、その中で挑んだ集大成でした。負けたことは悔しいですけど、サイズのない中、みんなが身体を張って熱いハートをコートに持って行けて、もうすごく嬉しいです」

若野は強豪校でなくU18へ

金山颯(右/島根U15)は尽誠学園に進む 【(C)B.LEAGUE】

 U15年代の注目選手もプレーしていた今大会だが、中学卒業のタイミングで彼らは強豪高校に出る選択が一般的だ。ベスト5に選ばれた佐藤は東山、金山は尽誠学園への進学を決めている。チームのレベル、実績、施設を比較すればそれは自然な選択だろう。しかし若野は県内外の強豪校でなく、U18への昇格を決めている。

「僕は中1の頃から最年少デビューをした今西(優斗)にずっと憧れていて、まだ一緒にやりたいと思いました。今はBリーグのユース育成特別枠があるから、早い段階でプロのコートに立ちたいという考えもあって、U18に進むことにしました」(若野)

 今西は高1のポイントガードで、昨年12月24日の新潟アルビレックスBB戦でトップチーム出場を果たし、「16歳7カ月8日」のB1最年少出場記録を樹立した。若野はU18への昇格と同時に、今西と同じ至学館高校に進む。名古屋U18の練習場に近い私立高校だ。

 若野は進学先を決めた理由についてこう述べる。

「練習場から近いと、バスケにしっかり時間を費やせます。高校3年間はとにかくバスケに集中したいと思って、そこにしました」

 各クラブの指導者に話を聞くと、総じて「U18をどう整備するか」「どうプロにつなげるか」という前向きな悩みを持っていた。例えばレバンガ北海道は地元の高校と提携し、寮も用意して“Jユース並み”の環境を用意できている先行事例だ。とはいえアカデミーの整備が時間のかかる取り組みなことも間違いない。

 名古屋は若野のような個の育成、大会3連覇という結果を残しただけでなく、現時点で逸材にプロへの魅力的なルートを提示できている。そこが他チームにとって、もっともお手本となる部分だろう。
■大会結果
【優勝】名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15
【準優勝】ライジングゼファー福岡U15
【3位】横浜ビー・コルセアーズU15
【4位】U15島根スサノオマジック

■個人賞
【MVP】
若野瑛太(名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15)

【ベスト5】
小野蓮太(名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15)
若野瑛太(名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15)
勝又絆(ライジングゼファー福岡U15)
佐藤凪(横浜ビー・コルセアーズU15)
金山颯(U15島根スサノオマジック)

【MIP】
山口銀之丞(ライジングゼファー福岡U15)

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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