3度の手術、過酷なリハビリを経て笑顔を取り戻した渡邉飛勇 卓越した跳躍力を武器にW杯メンバー入りへ名乗り

永塚和志

渡邉飛勇は一時、選手生命を終わらせようとも考えていた 【永塚和志】

 南国のハワイ育ちならではの明るさがあり、笑顔と冗談が絶えない。しかし、故障からの復帰までの長い道のりのなかで、一度はバスケットボール選手としてのキャリアをあきらめかけたと、当人は言う。

 2月23日。日本男子代表がFIBAワールドカップ・アジア地区予選の最終ウインドウ6のイランとの初戦に臨み96-61と快勝を収め、そのなかで今月上旬に所属の琉球ゴールデンキングスで右ひじの故障から約1年半ぶりの復帰を果たしたばかりの渡邉飛勇が出場。リバウンドやダンクでのハッスルプレーで見る者を沸かせた。

 とりわけ、渡邉の長身と跳躍力を生かしたオフェンスリバウンドは、序盤にファールが多くなるなどでやや停滞した日本の雰囲気を変えた。この試合で6得点、8リバウンドを挙げた渡邉だが、この8リバウンドのうちオフェンスリバウンドは4つ。しかもそのすべてを前半だけで挙げ、チームがペースを握るのに大きく貢献した。

「いやもう、自分はただただ楽しんでプレーしたいだけ。走りまわって相手選手と体をぶつけ合って。それだけなんだ」

 24歳の渡邉は試合後、そう話した。

 日本のトム・ホーバスヘッドコーチはスタッフ間での話し合いで、合宿からいいプレーぶりをしていた川真田紘也(滋賀レイクス)をこのイラン戦で登録することを考えていたというが、「熱量とオフェンスリバウンドに期待して」(同HC)渡邉を選択するにいたったと述べている。

 快勝のなかで自身も活躍したという心地よさも当然、あっただろうが、取材陣に応対する渡邉の顔には終始、満面の笑みがあった。だが、その笑顔を取り戻すまでには不安と対峙(たいじ)しながら懸命に復帰へ向けてのトレーニングを経なければならなかったはずだ。

イラン戦でもオフェンスリバウンドを取りにいくなど随所に真価を発揮した渡邉飛勇 【永塚和志】

 右ひじの故障は存外、重症で、3度もの手術を受けねばならなかったが、地元ハワイで、元UFCフェザー級王者のマックス・ホロウェイなども通うというジムで懸命に肉体の強化に務めてきた。子どもの頃からバスケットボールと平行してバレーボールなどもプレーし跳躍力には定評はあったが、このリハビリ期間を経て「バスケットボールに必要のない動きを削ぎ落とし、よりアスレティックになった」(渡邉)という。

 跳躍に関しては、腕の反動を使わない状態での垂直跳びが55cm(跳躍力を正確に測定する「フォースプレート」という器具でのこの数値はかなり高いほうだそうだ)だという。琉球のチームメートでBリーグオールスターのダンクコンテストで優勝経験のあるコー・フリッピンと「同じくらい高く跳べるようになった」(渡邉)そうだ。

「100%さ」

 イラン戦でもリング近辺で相手選手たちにかこまれながらオフェンスリバウンドを取りにいく渡邉の抜きんでた跳躍は異質のものだったが、以前よりもよく跳べるようになっているかという問いに対して、207cmのセンターは即座にそう返している。

「5対5の競技でコンタクトも多いバスケットボールをするうえで、まだ万全かといえばそうではないけど、今はもうアスレティックな面ではかなりよくなっているんだ」

 卓越したリバウンダーは単に高く跳べるだけでなく、なんども連続で跳ぶことができる。自身も元NBA選手であるホーバスHCは7度のリバウンド王、デニス・ロドマン(元シカゴ・ブルズ等)を引き合いに出し、渡邉にもそういった資質があると賛辞を送った。

「彼が今日、われわれにもたらしてくれたものはすばらしかったです」(ホーバスHC)

 渡邉は2021年のアジアカップ予選で1試合に出場し日本代表デビューを果たし、同年の東京オリンピックはメンバーには選出されるも12名のなかで唯一、出場がなかった。

「(当時の日本を指揮したフリオ・)ラマスHCの判断だったのだからしかたがないし、判断を下すために僕らは給料をもらっているわけじゃない。プレーするために給料を得ているのだから」

 渡邉は当時をそう振り返った。そして、その悔しさが自分を後押しする源泉になっているかと聞くと、こう述べている。

「オリンピックの直後にはまちがいなくそういう気持ちがあった。だけど3度の手術を経てからはそう考えることはなくなったよ。だってネガティブな感情を持ってプレーしてもよくないし、やっぱり選手がすべきはコートに出ていって楽しみながらやったほうがいいのだから。自分としてもそういう気持ちの持ちようのほうがずっといいプレーができると感じている」

 日本は26日に、イラン戦と同様、群馬県高崎アリーナでバーレーン代表戦に臨む。登録選手の入れ替えが予想され渡邉がメンバー入りするかどうかは不明だ。

 しかし、故障による長いブランクで存在が薄くなっていた渡邉は、イラン戦で強い印象を残した。ワールドカップ本戦まで半年。この類まれなリバウンダーも本戦でのポジション争いに加わってきそうである。
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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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