春高3連覇への挑戦叶わなかった就実高 「3年間で初めての声援」を背に金蘭会と対戦

田中夕子

就実OGが在籍する久光の申し出でエキシビジョンマッチが実現。「この試合を全力で楽しもう」とコートに立った 【写真提供:SAGA久光スプリングス株式会社】

 “当たり前”の光景が、最後にやっと実現した。

 3月12日、Vリーグ女子、久光スプリングスのホームゲーム神戸大会でのエキシビションマッチ。対戦したのは、今年1月の春高バレーで3位の金蘭会高と、昨年、一昨年と連覇を達成してきた就実高だ。

 春高の初戦を迎えるはずだった1月5日、就実高校は試合前の抗原検査で1名が陽性判定を受けた。だが症状はなかったため再度同校が抗原検査を行い、PCR検査も実施したところ全員が陰性と判定された。しかし大会規定は覆らず、最初の検査で陽性者が出たという理由から、出場は認められなかった。

 3年間、その場所を目指して鍛錬を重ねてきながら、立つことすらできずに終わる。その無念を晴らせないか、と動いたのが久光だった。同校OGの石井優希、万代真奈美、深澤めぐみが在籍する縁もあり、就実の西畑美希監督に「前を向いていくために、私たちができることは何でもしたい」とエキシビションマッチの開催を申し出たことから実現に至った。

 会場となるグリーンアリーナ神戸で、朝9時から両校がウォームアップを開始。就実高の岡田愛菜(3年)が「試合前の練習から楽しんで終わろう、と(選手同士で)話していた」と言う通り、練習中から選手たちは「この試合を全力で楽しむ」とばかりに、明るい表情でボールを追いかける。とはいえ、真剣勝負であり就実高、金蘭会高は全国大会でも日本一をかけてしのぎを削ってきたライバル同士でもある。試合開始直後から両チームともに練習の成果をいかんなく発揮した質の高いプレーだけでなく、点が入ればハイタッチで称え合って喜び、どんなボールも落とすまい、と全力で追いかける清々しい姿を見せた。

基本を重視した質の高い就実バレーを披露

硬さもあって2セットを連取された就実高だったが、特別ルールの第3セットでは意地を見せた 【写真提供:SAGA久光スプリングス株式会社】

 3セットマッチで行われた試合で、まず先行したのは金蘭会高。卒業後はVリーグの日立リヴァーレに進む、主将でリベロの徳本歩未香(3年)はすでに内定選手としてチームに合流しており、前日の同会場での埼玉上尾戦にも出場している。いわばぶっつけ本番ではあったが、金蘭会高の池条義則監督が「ライバルであるからこそ、この日に向けて結構練習してきた」と言うように、スパイク、ブロックと高い得点能力を見せ、第1セットを25対19で先取した。

 春高の無念を果たさせてあげたい、と企画された大会であり「支えて下さった皆さんに、感謝の気持ちを示したい。だからこそいいバレーを見せたい、という気持ちが強すぎて力が入った」と西畑監督が言うように、序盤は硬さが目立った就実だが、第2セットは5対0と先行する。セッターで主将の岩本沙希が供給する高さと伸びのあるトスを、攻撃陣が高い打点で打ち切る、基本を重視した質の高い就実バレーを展開。しかし金蘭会も高校屈指のブロック力とパワーあふれるスパイクで逆転、第2セットも25対18で連取した。

 春高の準々決勝までと同じ3セットマッチならば、これで試合終了となるのだが、エキシビションマッチの特別ルールに基づき、15点先取の第3セットへ突入。2セットを連取した金蘭会高は1、2セットとは異なるメンバーが入り、伸び伸びとしたプレーで僅差の攻防を展開。15点では決着がつかずデュースにもつれるも、最後は就実のエース福村心優美(1年)が決め17対15、エキシビジョンマッチを締めくくった。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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