春高3連覇への挑戦叶わなかった就実高 「3年間で初めての声援」を背に金蘭会と対戦

田中夕子

コロナと戦い続けた3年間と今後への課題

「このような経験をさせてもらえてありがたい」と最後は笑顔。OGからのメッセージも 【写真提供:SAGA久光スプリングス株式会社】

 今春卒業する3年生は、入学当初に緊急事態宣言が発動され、部活動はおろか、登校しての授業もままならなかった世代だ。徐々に緩和されるも、陽性者の数が増えれば大会が中止になり、春高も無観客開催。今年になってようやくインターハイや、春高の準決勝以降は観客を入れた状態での試合が行われたが、コロナ対策は厳しいまま。春高もチームに1名でも陽性者が出れば出場禁止、という規約は、感染対策の面から考えれば致し方ないこととはいえ、当事者にとっては本来、間もなく迎える試合に向けてパフォーマンスやスキルアップに努めるべき時間を、感染対策にエネルギーを注がなければならず、余分なストレスが生じていたのも事実だ。

 そして、その結果が春高だ。三連覇が潰えた就実に注目が集まる形となったが、無念の結果を受け止めざるを得なかったのは就実だけではない。女子の富士見、近江兄弟社、男子の都城工業(インフルエンザが多数出たため)が各県を勝ち上がり出場権を手にしたにも関わらず、憧れのオレンジコートに立つことなく大会を終えることとなった。

 だがそれは決して対岸の火事ではなく、自分たちも同じ立場になったかもしれない。エキシビションマッチを終え、金蘭会の池条監督はこう明かす。

「大会に入る前から規定を配られ『1名でも陽性が出たら棄権』と。どなたに聞いても『この規定だと辞退がたくさん出るんじゃないですか?』という返答で、誰も(それが)当たり前や、という方はいませんでした。実際私たちも年末にコロナが2人、インフルエンザが9人という状態で、練習できずに年を越しながらもなんとか間に合って、出られてよかった、という状態でした。試合に出場はできましたが、常にビクビクしながら生徒には『手洗い、うがいせぇよ』と言い続けた3年間。やっとこの子たちも声出し応援がOKとなれたけれど(エキシビションマッチのスタート前は)声を出していいと言っても、これまで出していないから(声が)出ないんです。これからはルールが変わって、こんな規定や処置がないことを願いたいですね」

「最高の一日、一生の宝物になる一日でした」

試合後は就実、金蘭会両校の選手たちが入り混じり、記念撮影 【田中夕子】

 スタンドには両校の応援団が大勢詰めかけ、その後行われるVリーグの試合を見るべくチケットを購入したファンも高校生の試合に拍手や声援を送る。3年前までは当たり前だった光景の中、卒業式を終えてから再び「就実」のユニフォームを着て、日本一を目指して鍛錬を重ねてきた仲間とコートに立った。

 ようやく、当たり前の喜びを手にした就実の岩本主将は言った。

「観客が入って、声のある中で試合をできたのが3年間の中で初めて。このような経験をさせてもらえたことをありがたく思いながら、いろんな方へ感謝の思いを込めてプレーができた。最高の一日、一生の宝物になる一日でした」

 負わなくてもいい悔しさと苦しい経験を経て、直後は泣き崩れ、落ち込んでいたという選手たちもエキシビションマッチを終えると皆が笑顔でスタンドに手を振り、両校の選手たちが入り混じって楽しそうな顔で集合写真に納まる姿があった。

 受け止め、乗り越える過程の中で「私たちはそんなことでダメになるような練習をしてきていないし、毎日、日本一になるために本当に強い思いを持って過ごしてきた。これから先も乗り越えていける」と選手を鼓舞してきた西畑監督が言った。

「我慢、我慢の中ずっと過ごしてきた3年生たちが、最後は本当に後悔なく終わってほしかった。今日頑張りたい、力を出し切りたいという選手の強い思いがすごく伝わってきたので、足が動いていいバレーができたらいいな、と見守っていました。お客さんが入って、いいプレーには拍手していただく、声援を聞くことが力になります。多くの方に見ていただくために練習をしてきているので、(これからは)たくさんの人に見てもらいたいです」

 コロナ禍も3年が過ぎ、街は人で溢れている。同じように高校バレーの試合会場も、大勢の人で溢れ、声や楽器の音で後押しされた選手が躍動する。そんな“当たり前”が戻ることを切に願っている。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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