ド派手な演出、人気YouTuberとのコラボ… Vリーグ・東京GB「8142人」最多入場者数更新の裏側
3月5日に行われたVリーグ「東京グレートベアーズ vs. ジェイテクトSTINGS」で、有明コロシアムには8,142人もの観客が詰めかけた 【©V.LEAGUE】
8,142名。
2018/19シーズンからのV.LEAGUE男子大会において、これまでの最高入場者数は20年1月12日の広島大会。パナソニックパンサーズ対ジェイテクトSTINGS、JTサンダーズ広島対ウルフドッグス名古屋の2試合が行われた際の6820名だった。東京体育館など規模の大きな会場でのファイナルになれば、所属チームの母体企業から多くの応援団が詰めかけ、数字で上回ることはあったが、今回更新された記録はレギュラーラウンドで1試合のみの開催であり、加えるならば東京グレートベアーズは今季発足したチームだ。
スタンド上段まで観客が埋め尽くす中、試合も僅差での熱戦が繰り広げられ2日続けてのフルセット。前日は2対3で敗れた東京グレートベアーズが最終セットを15対13、セットカウント3対2で勝利すると、コートやベンチの選手だけでなく、会場から歓喜の声が沸き起こった。
多くの選手が「いつか経験したい」と願う、熱狂の舞台に立ち、見えた景色――。
東京グレートベアーズの主将、古賀太一郎が言った。
「自分が現役のうちに、こんな素晴らしい景色を見ることができるとは考えもしませんでした」
まさに夢舞台。大観衆と共に味わう勝利の喜びは、格別だった。
最も注力した有明コロシアムでの「1万人プロジェクト」
「1万人プロジェクト」と銘打った有明コロシアムでの試合は僅差での熱戦になった 【©V.LEAGUE】
その背景を、昨シーズンFC東京で現役生活を終え、今季からは東京グレートベアーズのクラブスタッフとして運営を担う宮原和輝氏はこう明かす。
「毎試合常に満員を目指していますが、どこかに大きな波をつくらないとお客さんは集まりにくい。今シーズンの会場、日程、対戦相手が決まった時点で有明コロシアムという大きな会場で、相手が集客力のあるジェイテクトというチームになった。そこで1万人プロジェクトをやろう、とスタートしました。僕たちは『バレーボールドリーム』というスローガンを掲げる、バレーボールで夢を叶える人たちのためのクラブであり、まさにこの機会はそれを体現するチャンスだ、と。運営スタッフだけでなく選手も、全員が他人事ではなく自分事として、知り合いや友達、家族や母校、すべてに呼びかけて集客しました」
東京グレートベアーズに限らず、家族や友人を招待する選手は少なくない。だがそれだけでは会場は埋まらず、チケット収入にもつながらない。そもそも招待する選手に「会場を埋めるために来てほしい」という発想自体がほぼないのが現状だ。だが企業の「社員」ではなく、全員がプロ選手である東京グレートベアーズは違う。宮原氏が続ける。
「運営だけがお客さんを集めればいいというのではなく、選手もプロである以上自分の価値をアピールする場が必要だし、自分のプレーを見てもらってナンボ、という感覚があります。FC東京でいろいろな経験をして、ここにいる選手は心底『バレーボールだけをしていてもダメだ』とわかっています。だから積極的に発信をしたし、選手もチラシを配ったり、全員が本気で取り組んだ。目指した1万人は届かなかったですけど、初年度で歴史をつくりたい、という1つの目標はクリアできたのかな、と思います」
人気YouTube企画スカイピースのバレーボール対決で、始球式や、セット間のハーフタイムショーに人気YouTuberが出場することも大々的に告知した結果、彼ら目当てのファンも多く来場した。加えて販売チケットだけでなく、無料招待の枠も多く設けた。意地の悪い見方をすれば、純粋にチケットを買ってきた人たちばかりではなく、「ただ埋めただけ」という批判もある。だが、なぜそれほどして会場に人を“集める”ことにこだわったのか。宮原氏が語る理由は明確だ。
「今回会場に来て下さった方の半分、もしかしたらそれ以上のたくさんの方々が、バレーボールを見るのは初めて、というライト層の方でした。僕らはそういう初めての方々にもバレーボールという競技、Vリーグというコンテンツがあることを知ってもらわないといけない。今日試合を見て、ジェイテクトのファンになった、という人がたくさんいても構わないし、むしろそれでいいと思うし、好きなユーチューバーが出るからでもいい。どんな入口でもまずはバレーボール、Vリーグがあるということを知ってもらう。これからクラブとしてもっと大きく、強くなっていくことを目指していますが、まずは東京、日本中に“東京グレートベアーズがある”と知ってもらわないといけない。そのためにまずは多くの方に来ていただいて、入場者数で記録をつくった、という発信をすることが絶好の機会だと考えました」