Jリーグ“天日干し”の秘話 ~前チェアマン・村井満回顧録~

なぜJリーグは2ステージ制を2年で終わらせたのか? 村井満氏が今だから語る秘話(3)

宇都宮徹壱
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 連載第3回は、2015年と16年にJ1リーグで導入された2ステージ制について。

 Jリーグでは、開幕した1993年から2004年まで、2ステージ制が採用されてきた。すなわち、ファーストステージとセカンドステージの優勝チームがホーム&アウェイのCS(チャンピオンシップ)を行い、年間チャンピオンを決定するレギュレーションである。その後、両ステージ優勝が2年続いたことに加え、ファンのリテラシーが上がったこともあり、2005年以降は廃止されて「1ステージ制」が定着することとなる。

 2015年に復活した2ステージ制は、正確に言えば「2ステージ+ポストシーズン制」であった。すなわち、ファーストステージとセカンドステージの1位、そして年間勝ち点2位と3位の最大4クラブが参加して、ノックアウト方式のトーナメントを実施。その勝者が、年間勝ち点1位とCSを戦うというものである。

 なぜ、このような複雑なレギュレーションが採用されたのか?

 主な要因は、Jリーグのメディア露出とスポンサー収入の減少である。長い議論を経ての結論は「リーグ戦の山場をいくつも作れば、メディア露出も増えてスポンサー収入増も期待できる」というもの。当時の理事の言葉を借りれば「年間10億円の増収が見込める」とのことだった。その後のDAZNマネーを考えると「たかが10億?」と思われるかもしれない。しかし、導入が決まった2013年当時、Jリーグの財政はそれくらい深刻な状況にあったのである。

 村井満氏が第5代チェアマンに就任した2014年、2ステージ制導入はすでに決まっていた。果たして当時の村井氏は、この2ステージ制にどのような考えを抱いていたのか? そしてなぜ、2ステージ制を2年で終わらせたのだろうか? 今回も村井氏に振り返っていただく。

チェアマン就任直後の2014年、浦和レッズのレジェンドだった小野伸二(札幌)と緊張した面持ちで対談する村井氏 【宇都宮徹壱】

2ステージ制に反対していた理由

 J1リーグでの2ステージ制を再び導入することが決まったのは、2013年9月17日。2015年から、このレギュレーションとなるわけですが、2016年10月12日の理事会では、次のシーズン(17年)から1ステージ制に戻すことを決定しています。

 JリーグがDAZNとの大型契約を発表したのが、この年の9月20日。そうしたタイミングもあって「DAZNマネーが入ってくるから、2ステージ制を2年で終わらせた」と思っている方は多いと思います。

 2ステージ制導入の大きな理由は、リーグ戦の山場を多く作り、地上波などでのメディア露出を増やすことでした。そうすれば、スポンサーも増えて収入も安定するのではないか──。

 実際、私がチェアマンになる前のJリーグは、経営面で厳しい状況に立たされていました。しかしながら、2ステージ制の廃止とDAZNとの契約は、異なるレイヤーの話だったんです。

 廃止を決めた2016年は、ACL(AFCアジアチャンピオンズリーグ)のスケジュールが変更になったことで、J1のレギュラーシーズンを11月3日で終えなければならなくなりました。CS(チャンピオンシップ)に出場できなかったクラブのサポーターは、11月上旬から2月の下旬まで、ずっとサッカーを楽しむことができなくなってしまう。4カ月間ですから、1年の3分の1ですよ。

 Jリーグ実行委員会でも「このレギュレーションを続けていくことは、日本サッカーのために良くないのではないか」という議論となって、それで廃止が決まったんです。

 チェアマンを退任した今だから、明確に申し上げがておきますが、2ステージ制が議論の俎上に上がっていた当時、私は反対の立場でした。もうひとり、私と一緒になって反対していたのが、原博実さん。この当時、私はJリーグの社外理事で、原さんはJFAの技術委員長でした。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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