連載コラム「工藤公康の野球ファイル」

勝つためにどのようにオーダーを決めるのか? 監督・工藤公康が考えた現場でのデータ活用法

工藤公康

ソフトバンク監督時代、工藤氏はチームを勝たせるために、データをどのように活用していたのだろうか? 【写真は共同】

 現役通算224 勝。ソフトバンク監督時代にはチームを5度の日本一に導き、2022 年からは野球評論家として幅広く活躍する工藤公康さん書き下ろしの連載コラム。第6回目は、選手の能力を可視化した「セイバーメトリクス」や、「トラックマン」といった弾道計測器などの機器が進歩する昨今で、データをどのように活用すべきか。工藤氏がソフトバンク監督時代に考えていた「データとの向き合い方」について話していきます。

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データやデバイスによってますます進化する野球界

各球団のキャンプでは様々なデータ解析機器などを駆使し、技術の上達に役立てている 【写真は共同】

 近年、科学の発展やデバイスの開発などが進み、スポーツ界や選手の周りの環境も、以前と比べると大きく変わりました。野球界もどんどんと変化しつつあります。

 「セイバーメトリクス」と呼ばれるようなデータサイエンスをはじめ、球場には「トラックマン」と呼ばれるボールを追跡する装置が設置され、近年では「ホークアイ」と呼ばれる映像分析のカメラも導入する球団も増えてきました。

 今年、各地で行われた自主トレでも、「ラプソード」と呼ばれる投球したボールを解析する装置を使用するなど、自分たちでデータを測定してトレーニングを行う選手も増えてきました。投球したボールの回転数や軸、弾道測定、守備時の選手の動きの追跡など、多くの情報を、より簡易的に数値や指標として得られるようになりつつあります。

 選手にとっても、指導者にとっても、このようなデータ指標というのは、大変貴重なものであり、活用の仕方次第でパフォーマンスの向上や、ケガの予防、コンディショニングにも役立てることができます。

 しかし、データを活用していく際には、注意しなければならないことも出てきます。単純に数値やデータだけを見ても、技術や戦術、選手のパフォーマンスに結びつけることはなかなか難しいかと思います。大切なのは、“活用の仕方”です。データや科学を活用すれば、何かしらプラスの影響があると思うかもしれませんが、場合によってはマイナスに働いてしまう可能性があるということも私たちは理解しておく必要があると思います。

データはあくまでも「過去の結果」でしかない

 セイバーメトリクスのデータを見ると、選手の成績や状況が数値として客観的に分かるようになります。打撃成績を細かく見ていった時に、例えば、得点との関係性が高いと言われているOPS(出塁率+長打率)が特出している打者は、チームに1人から2人程度です。平均以下の打者もチーム内にいます。では、「平均以下の打者を外すのか?」というと、そういうことではありません。また、特出している打者を並べても、実際の試合になるとなかなか得点に結びつきません。

 攻撃は「打線」と呼ばれるように、線で考える必要があると私は思います。いかに線として考えるか、打順を回すことができるかを考えて、コーチ陣と話し合い、打順を考えていました。選手個々の四球率、直近の成績や状態、相手投手との対戦成績も含めて、「つなぎの部分に誰を入れるのか?」「どういった状況が起こり得るのか?」考えられるシチュエーションを何度もシミュレーションをして、「線」を考えていきます。

 少しデータの話とは逸れてしまいますが、打順やメンバーを考える時に、私が大切にしていたことがあります。

 それは、試合前のバッティング練習の“打球音”を聞くことです。状態の良い選手というのは、木製のバットで打っているにも関わらず、金属のような非常に高く、乾いた音をしています。逆にあまり状態の良くない選手は、潰れたような低い音になりがちです。打球や打球方向なども見ますが、私自身はそういった打球音も聞いて選手の状態を確認していました。

 データを活用する際に、注意しなければいけないことは、データはあくまで過去の結果であり、今の状態をそのまま表しているわけではないということです。

 これまでの成績や結果の集約がデータとして蓄積されているので、確かに傾向や癖のようなものは分かるかもしれません。しかし、選手はその時のコンディションによって大きく変わります。心理的な要因やちょっとしたきっかけひとつで変わる選手もいます。今の選手の状態をしっかりと把握をした上で、データという要素も含めて考える。そのために、その時その時の選手の動きをしっかりと見ることが大切だと思っています。

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著者プロフィール

1963年5月5日生まれ。愛知県出身。名古屋電気高校(現:愛知名電高校)から1981年、西武ライオンズからドラフト6位指名を受け、入団。西武黄金期を支え、福岡ダイエーホークス、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズに在籍。現役時代は14度のリーグ優勝、11度の日本一に貢献し、優勝請負人と呼ばれた。現役通算で224勝を挙げ、最優秀選手(MVP)2回、最優秀防御率4回、最高勝率4回など数多くのタイトルに輝き、正力松太郎賞は歴代最多に並ぶ5回受賞。2016年には野球殿堂入りを果たした。2011年に現役を引退後、2015年に福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。7年で3度のリーグ優勝と5度の日本一に導いた。現在は野球評論家として活動しながら、筑波大学大学院博士課程に進学。スポーツ医学博士取得に向け研究や検診活動を行っている。

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