連載コラム「工藤公康の野球ファイル」

工藤公康が2022年パ・リーグ先発投手を振り返る 山本由伸&佐々木朗希の凄さを独自の視点で分析

工藤公康

今シーズンもパ・リーグ投手タイトルを総なめにした山本由伸など、工藤氏がパ・リーグ先発投手についてあらゆる角度から分析する 【写真は共同】

 現役通算224勝。ソフトバンク監督時代にはチームを5度の日本一に導き、2022年から野球評論家として幅広く活躍する工藤公康さん書き下ろしの連載コラム。第3回目は、2022シーズンのパ・リーグ先発投手の傾向を振り返りながら、2年連続で投手4冠を達成したオリックス・山本由伸投手、NPBで28年ぶりに完全試合を達成した千葉ロッテ・佐々木朗希投手について解説。なぜ彼らが圧倒的なパフォーマンスを見せられるのか。主に投球フォームの視点から分析します。

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全体的なレベルアップが見られた今季のパ・リーグ先発投手

メッツ入団が決まった千賀滉大など、今シーズンもスーパーエースたちがパ・リーグを盛り上げた 【写真は共同】

 今シーズンのパ・リーグ先発投手の傾向を振り返ると、全体を通して、各球団が考える投手の育成がうまく実を結んだシーズンだったように思います。パ・リーグの全球団のチーム防御率が3.50以下となり、特に先発投手の防御率で言えば、ほとんどのチームが昨年よりも改善傾向にあります。(私自身すべての試合を見ているわけでないので、数字上の判断の部分もあります)

 今は投手の分業制が進み、先発投手は5回から6回で交代することが多くなりました。そんな中でも先発投手がある程度のイニングを投げ、試合を作ることができるか、できないかがチームの勝敗に大きく影響します。先発投手の投球イニングが多くなれば、リリーフの負担も減り、目の前の試合だけでなく、その先の試合にもつながっていきます。そういった意味でも、先発投手のクオリティ・スタート率や平均投球イニング数なども、そのチームの状態や特徴を分析する上では、面白いかもしれません。

 今回は今シーズンのパ・リーグの先発投手の中で、好成績をおさめた選手のデータや投球フォームを分析し、深掘りしていきたいと思います。

山本由伸はなぜ毎年活躍できるのか?

工藤氏が山本由伸の投球フォームで着目したポイントとは? 【写真は共同】

 昨シーズンに引き続き今シーズンも沢村賞受賞、そしてプロ野球史上初となる2年連続の投手4冠を達成したオリックスの山本由伸投手の活躍は、目を見張るものがあります。データで見ても、多くの項目で他の投手よりも頭ひとつ抜けている印象があります。先発時の平均投球イニングが他の投手よりも1イニング近く多く、登板をすれば毎回、完投に近い投球を見せてくれます。

 1シーズン好成績を残すことができたとしても、2シーズン連続でというのは非常に難しいことです。対戦データも蓄積され、相手も当然、研究を重ねてきます。そんな中でも高いパフォーマンスを発揮できるということは、彼自身のこれまでの取り組み方や努力の賜物でしょう。

 私が山本投手を見ていて感じる部分のひとつとして、彼は自分のピッチングフォームの中で、力の抜きどころと入れどころの使い分けが非常にうまい。そして、自分自身のピッチングフォームや身体の状態を理解した上で、それを最大限に活かすためのフォームで投球ができているように見えます。だからこそ試合中の修正能力が高く、シーズンを通して大きく崩れることがないのだと思います。

 さらに細かいところで言えば、脚を上げて体重移動での力の伝え方が非常にうまい。余計な筋力を使わなくても進行方向に加速する力を生み出し、その力が最終的にリリースでボールに伝わっているように見えます。

 力を抜いた状態、いわゆる“ゼロ”の状態を作り出し、そこから力を発揮することができるのは、投手として非常に大切なことです。力は“抜く”からこそ、いざという時に出力できます。常に力を入れている状態で力を発揮することが難しいことは、ダンスや縄跳びなどをイメージすると理解できるかと思います。力に頼ったフォームや、余計な力を使ってしまうことで、フォームが変わってしまい、ボールの制御が難しくなります。それがコントロールの乱れや、障害のリスクにもつながってしまいます。

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著者プロフィール

1963年5月5日生まれ。愛知県出身。名古屋電気高校(現:愛知名電高校)から1981年、西武ライオンズからドラフト6位指名を受け、入団。西武黄金期を支え、福岡ダイエーホークス、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズに在籍。現役時代は14度のリーグ優勝、11度の日本一に貢献し、優勝請負人と呼ばれた。現役通算で224勝を挙げ、最優秀選手(MVP)2回、最優秀防御率4回、最高勝率4回など数多くのタイトルに輝き、正力松太郎賞は歴代最多に並ぶ5回受賞。2016年には野球殿堂入りを果たした。2011年に現役を引退後、2015年に福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。7年で3度のリーグ優勝と5度の日本一に導いた。現在は野球評論家として活動しながら、筑波大学大学院博士課程に進学。スポーツ医学博士取得に向け研究や検診活動を行っている。

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