負傷の原因・トリプルアクセルを克服した山本草太 7年の時を経て戻った「ファイナルの表彰台」

沢田聡子

前進を続け、ついに本来の実力を発揮し始めた今季

大怪我の原因となったトリプルアクセルを克服し、山本は7年ぶりに「ファイナルの表彰台」に帰ってきた 【AFLO】

 グランプリファイナルのフリー、ラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番』を滑る山本草太は最後のポーズを終えると拳を固く握り、何度も大きく振り下ろして氷を叩いた。

「本当にこれだけ練習をやってきたし、練習でノーミスでできていたからこそ『この場でやらないともったいないな』と思えて演技に臨めたので、“練習通り”がやっと出せた嬉しさがあります」

 2015年ジュニアグランプリファイナルで銅メダルを獲得してから7年、大きな怪我から立ち上がって一歩ずつ進み、ようやく戻ってきたファイナルの表彰台だった。

 2014年ジュニアグランプリファイナル2位、2015年世界ジュニア選手権3位、2016年ユース五輪優勝と、ジュニア時代の山本は輝かしい成績を残している。しかし、優勝候補として臨むはずだった2016年世界ジュニア選手権の開催地であるハンガリー・デブレツェンに向けて発つ直前、右足首を骨折してしまう。練習中にトリプルアクセルを跳んで転倒したためで、その後は疲労骨折も重なり、計3回の手術を受けている。

 2017年の中部選手権で復帰したものの、その際はすべてのジャンプが1回転という構成からスタートしている。ジュニア時代は将来を嘱望された山本が地道にジャンプを取り戻していく過程は、頭が下がるものだった。

 少しずつ、だが着実に前進してきた山本は、今季に入ってからようやく本来の実力を発揮し始める。グランプリシリーズではフランス杯2位、NHK杯2位と続けてメダルを獲得し、ファイナルに戻ってきたのだ。一度観たら忘れられないほど「質が高く伸びやかなスケーティング」という唯一無二の武器を持つ山本には、もとより大舞台に立つだけの力が備わっていたといえる。

 ただ、山本はショートで好発進してもフリーで失速するという試合展開が多かった。11月のNHK杯でも、ショートでは首位発進したもののフリーだけの順位は6位で、ショートの貯金によってメダルを獲得した印象もあった。NHK杯のフリーでは4回転3本を決めた一方で、トリプルアクセルでは2本とも転倒している。怪我の原因でもあるトリプルアクセルを決めてフリーを滑り切ることが、山本が次のステージに進むための課題であるように思われた。

 このファイナルで、山本は苦難を乗り越えてきた競技人生を表現するようなショート『Yesterday』で非の打ち所がない滑りをみせ、2位につける。ショート後の記者会見で、山本は冷静に演技を振り返った。

「今日は、(4回転)サルコウが少し詰まったジャンプになってしまったのですが、とりあえず今回の試合もノーミスで終えられたことはすごく嬉しかったですし、またフリーに向けて自信を持って、思い切ってやっていけたらと思っています」

 さらに山本は「怪我で思うような滑りが出来なかった時期も長かった中で、今シーズン非常に成績が伸びている一番の理由はどんなことだと思われますか」と問われ、次のように答えている。

「自分でも『オフシーズンから練習がすごく変わってきたな』と感じていて。日々充実した練習が出来ているからこそ本番も、緊張はしますけど、どこか自信を持って臨めているかなと思うので。本当に毎日積み重ねてきた練習が試合という場で出ているのかなと思うので、フリーも頑張っていけたら」

 また、フリーの目標を問われると「練習ではノーミスでできるようになってきたので、後はそれをどうやって本番で出せるか、ということが求められてくる」と答えた。

「『どうやってもっていくか』ということをいろいろ考えながら、明日と(フリー本番の)明後日と、練習していけたらと思います」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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