初優勝の渡辺倫果、復活の歩みを進める紀平梨花 20歳の二人がスケートカナダで見せた、それぞれの「強さ」

沢田聡子

コロナ禍により去ったカナダで、優勝した渡辺

トリプルアクセルを決めて優勝した渡辺 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 20歳の渡辺倫果にとり、カナダはかつて練習拠点としていた思い出の地だ。中学生だった2017年、当時師事していた関徳武コーチがカナダに渡ったことを機に渡航し、2020年までホームステイをしながらスケートを磨いていた。しかしコロナ禍で帰国せざるを得なくなり、再渡航した際には入国拒否の通告を受けたという。

 帰国当時は濱田美栄コーチの指導を受けていた渡辺は、昨年4月から千葉県船橋市のリンクで練習している。現在はMFアカデミーに所属し中庭健介コーチに師事する渡辺の武器は、トリプルアクセルだ。

 渡辺の躍進が始まったのは、昨季の全日本選手権だった。フリーでトリプルアクセルを成功させて6位に入り、世界ジュニア選手権代表に選出されている。世界ジュニアでは10位だったものの、その悔しさを胸に臨む今季は9月のロンバルディア杯で優勝、幸先のいいスタートを切っていた。

 当初今季グランプリシリーズへの出場予定はなかった渡辺だが、樋口新葉の欠場に伴い、スケートカナダとNHK杯にエントリーしている。出場が決まったのは出発の一週間前という慌ただしさの中で迎える、初めてのグランプリシリーズとなるスケートカナダだった。

 スケートカナダのショート、トリプルアクセルに挑んだもののステップアウトし6位発進となった渡辺は、フリーに臨む。ドラマ『JIN-仁-』の曲を使うフリー冒頭、鋭い回転のトリプルアクセルを鮮やかに成功させた。後半には今季のルール改正で得点が10割入るようになった3回転ルッツ―2回転アクセルのシークエンスも決めており、ジャンプの回転不足はあったものの大きなミスなく演技をまとめる。滑り終えた渡辺は感極まった表情でガッツポーズを見せ、氷上でうずくまった。

「すべての経験が今の私を作っている」

 バーチャルミックスゾーンでの取材対応を終えて立ち去ろうとする時、報道陣にメダル獲得を知らされ「表彰台決まった?」と驚きの声を上げた渡辺は「嬉しいです」と笑っている。そして最終的に決まったメダルの色は、一番輝く金だった。

 真ん中の席に座って臨むメダリスト会見で、渡辺は喜びを語った。

「初めてのグランプリシリーズということで緊張したり、1週間前にスケートカナダへの派遣が決まって本当に調整が難しかったり、いろいろな面で苦労もあったかなというふうに自分の中では思うのですが、その中で今自分のできる最大限の演技ができたかなと」

 この大躍進について分析を求められた渡辺は、次のように答えている。

「ホームステイとはいえ親元を離れてカナダで練習していた経験だったり、コロナ禍で日本に戻らなくてはいけない状況になった中で、ワンシーズンではありますが濱田(美栄)先生にご指導いただいたり。そして今大学生になると同時に中庭(健介)先生にご指導いただいて、すべての経験が今の私を作っていると思いますし、多分どのピースが欠けても今の私はないので、本当にこうして今までかかわって下さった方に感謝しかないです」

「今まで自分に自信がなかったのですが、中庭先生は私以上に私のことを信じて下さるので。本当にその存在があるから今の私があると思いますし、だからこそ『先生に結果で恩返しできるような存在になりたい』という思いがある。先生が信じて下さるのであれば、私はもっともっと上に行きたいと思っていますし、もっともっと恩返しできるように頑張っていきたいなと思っています」

 グランプリ2戦目となるNHK杯では、フリーにトリプルアクセルを2本入れたいと意気込む渡辺は、紆余曲折の中で蓄えてきた力を発揮する時を迎えている。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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