「小型化」で修正に成功したB1首位決戦 主力欠場のピンチに千葉ジェッツの守備が“化けた”理由

大島和人

ビッグマンとしては小柄な荒尾岳(左)が守備の立役者に 【©B.LEAGUE】

苦しい状況で迎えた広島戦

 11月19日(土)と20日(日)のB1は、東地区1位と西地区1位 による首位決戦が実現していた。千葉ジェッツと広島ドラゴンフライズは、いずれもこのカードを前にして7勝2敗と好調。そして19日の初戦は、広島が92-77で勝利していた。

 一方の千葉は、首位決戦を万全とは言い難い状態で迎えていた。今季から指揮を執るジョン・パトリックヘッドコーチ(HC)は、日曜の試合後にこう明かしている。

「ナショナルチームの活動とか、covid(新型コロナウイルス感染症)があったから、一緒に練習する時間が少なかった。FIBAブレークの3週間は、フルメンバーで1回しか練習していません」

 男子ワールドカップのアジア予選が開催されていたため、B1は1カ月近く中断していた。トム・ホーバスHCの率いる日本代表は、11月11日にバーレーン、14日はカザフスタンとアウェーで対戦している。代表選出は富樫勇樹のみだったが、指揮官のコメントによれば他にも複数の離脱者が出ていたようだ。FIBAブレークは各チームがチーム作りを進める絶好の期間だが、千葉は実戦形式のメニューをする人数がそろわなかった。

 さらに日曜は攻守の中心で、前日も28分2秒の出場時間を記録している外国籍選手ヴィック・ローが負傷により欠場。千葉にとっては苦しい展開となるだろうと思われた。

日本人ビッグマンが大活躍

 ただ千葉はこの第2戦で、見違えるような戦いを見せる。持ち味とする高い位置からの激しいプレスに加えて、3ポイントシュートへの的確な対応で広島を苦しめた。

 千葉は第1クォーターを26-9の大差で終えると、第2クォーターも広島を圧倒し続ける。第1クォーター残り1分49秒から第2クォーター残り4分37秒までは、7分近くも相手に得点を許さなかった。17-0の強烈なラン(連続得点)で、41-9までリードを広げた。前日から打って変わって、チームが“化けて”いた。

 先述のようにローは不在で、帰化選手で東京五輪代表センターのギャビン・エドワーズも出場を12分8秒にとどめていた。一方で日本人ビッグマンの荒尾岳が際立った活躍を見せ、原修太やクリストファー・スミス、佐藤卓磨といったウイング陣も相手のインサイドにしっかりマッチアップしていた。

 勝利のヒントは、前日の敗戦の中にあった。今季から指揮を執る千葉の指揮官は振り返る。

「(荒尾)岳が昨日出ていたとき、すごく良いディフェンス(DF)をしていました。負け試合だったんですけど、岳と(西村)文男が出ていた時間帯はウチがプラスマイナスで勝っていた。今日はピック&ポップのDFで、チームがボールムーブメントに集中して、昨日と全く違いました」

 3ポイントシュートを強みとする広島のビッグマンが、ハンドラーにピック(スクリーン)をかけたあと外に開く“ポップ”の動きにどう対応するか――。そこが千葉の修正ポイントだった。荒尾岳は35歳のベテランで、198センチ・105キロとバスケットボールのビッグマンにしては小柄だ。しかし良い判断で戦術を遂行し、守備からチームに流れを持ってくる立役者となった。

「スピーディーなラインアップ」を選択

千葉のパトリックHCは日本語が堪能で、通訳なしで会見に出席する 【©B.LEAGUE】

 パトリックHCはスモールな布陣を活用した意図について、こう説明する。

「昨日の反省で、ビッグマン2人を入れるより、スピーディーなラインアップで、フルコートで(相手を)ピックアップしたほうがが良いと判断した。(広島の)エバンスはウイングで、たまに5番(センター)をやるけれど(佐藤)卓磨や原がつけていた。メイヨとブラックシアーはセンターだけど、3ポイントが得意です。自分のチーム(パトリックHCが指揮を執っていたMHPリーゼン・ルートヴィヒスブルク)はブラックシアーと(バスケットボール・チャンピオンズリーグで)去年やっているけれど、188センチの選手が彼を抑えていた」

 広島はドウェイン・エバンス、ニック・メイヨ、ケリー・ブラックシアー・ジュニアの3枚でセンターとパワーフォワードのローテーションを回す。千葉はそのビッグマン2人に対して、あえて“ビッグマン1人”の布陣を引っ張った。

 原やスミスが2メートル超のビッグマンに対応するのは、一般的にミスマッチと言われる状況だ。しかし彼らはメイヨとブラックシアーの3ポイント、エバンスの1オン1といった広島のカギになるプレーを鮮やかに消した。

 相手に高い位置から張り付く、先手を打ってボールを奪いに行く守備は千葉の持ち味だが、日曜はそれが如実に出た展開だった。荒尾が脳震とうで退いた後半は点差を詰められてしまったが、それでも91-77で試合を終えている。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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