指揮官交代で“ポジションレス”のバスケを追求する千葉ジェッツ 新戦力ヴィック・ローは期待大

大島和人

千葉ジェッツの新戦力ヴィック・ロー(右) 【(C)CHIBAJETS FUNABASHI/PHOTO:Keisuke Aoyagi】

 Bリーグの2022−23シーズンが、9月29日に開幕する。今シーズンは優勝争いに絡むようなB1の強豪が相次いでヘッドコーチ(HC)を入れ替えた。例えばB1王者・宇都宮ブレックスの安齋竜三HC、アルバルク東京をチャンピオンシップ(CS)連覇に導いたルカ・パヴィチェヴィッチHCがチームを去っている。

 特に衝撃的だったのは千葉ジェッツ・大野篤史HCの退任だ。彼はBリーグ初年度から千葉のHCを6シーズン任され、天皇杯3連覇や2020-21シーズンのCS制覇など比類なき成果を出した。新興チームを常勝チームに引っ張り上げてファンにも愛された指揮官が、三遠ネオフェニックスに移った。前田浩行アシスタントコーチを筆頭にコーチ、メディカル、アナリスト、通訳、マネジャーといったスタッフも含めて、総勢9名が “移籍”する衝撃的な人事だった。

従来のスタイルがより“過激”に

 後任のHCとして千葉に合流したのがジョン・パトリック氏。1991年の秋に近畿大の留学生として来日して選手やコーチ、通訳として4チームに在籍をしたキャリアを持つ。日本語が堪能で、試合後の記者会見も通訳なしで済ませるレベルだ。近年は妻の出身地・ドイツで指導者のキャリアを積んでおり、17年ぶりの日本だった。

 チームの主力は、富樫勇樹を筆頭におおよそ残留している。新HCは来日会見で「ハードな守備」「速いテンポの試合運び」といった従来のスタイル継続も口にしていた。だから昨季までのベースがそれなりに保たれているだろうと踏んで、2日のプレシーズン初戦を取材した。実際にそこで見た彼らのバスケは、いい意味で予想を上回る“過激”な内容だった。

 守備はフロントコートからかなり近い間合いで相手に迫り、しつこく張り付いてはがされない。千葉はさながら往年の能代工業を彷彿(ほうふつ)とさせるような足を使ったプレスを見せていた。対戦相手の富山グラウジーズは1試合に15個のターンオーバー(※以下のスタッツは千葉が取ったもの)を喫したが、プレッシャーの激しさに苦しんでいた。

タイトなプレスが奏功

千葉ジェッツのジョン・パトリック新HC 【写真は共同】

 パトリックHCは試合後にこう述べていた。

「7日間の練習のあとで、B1のチームを相手に最初から最後まで激しいディフェンスをやれた。オフェンスはリズムが崩れて、ちょっと疲れていたときもあったけれど、いい流れを作れてとても満足しています。結構プレスが成功して、ターンオーバーをさせたときもあったし、ファストブレイク(速攻)から簡単な得点も取れた。もちろん直さなければいけないことはありましたけど、選手たちは非常に頑張ってくれていると思います」

 プレシーズンなので結果は度外視されるし、そもそも各チームの選手もそろわないケースが多い。千葉も直前の代表戦に出場した富樫勇樹、来日直後のギャビン・エドワーズが欠場していた。この試合に至るまでに消化した全体練習は7日で、一度も10人がそろわず、まだ「5対5」のメニューはできていない状態だったという。

 ただ結果や到達度は別にして、千葉のやろうとしているプレーがシーズン最初の40分から明白に伝わってきた。

身体能力抜群でPGもこなせる新戦力

 コート上で衝撃的なパフォーマンスを見せたのが新加入のヴィック・ローだ。NBA DリーグやオーストラリアNBLでキャリアを積んできた26歳で、201センチ・92キロ。ポジションの登録は「スモールフォワード/パワーフォワード」となっている。

 201センチという身長に対して92キロの体重は、バスケ選手としてかなり細い。一方で彼にはそれを補ってあまりあるスピードとしなやかさ、身軽さがあった。

 1日の富山戦では第1クォーターに3ポイントシュートを2本連続で成功させるなど、26分34秒の出場で合計18得点。跳躍力を生かして7リバウンドを奪い、ブロックショットも1つ決めた。富樫不在の中でポイントガード役を任される時間もあり、ドライブやパスのスキルも見せていた。

 Bリーグの中ではジュリアン・マブンガ(宇都宮ブレックス)やドウェイン・エバンス(広島ドラゴンフライズ)と似たスタイルだが、ヴィック・ローはよりクイックで、アスリート性が高い。分かりやすく言えば身体能力が抜群だ。ただ彼からはそれ以上の“プラスアルファ”を感じた。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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