連載小説:I’m BLUE -蒼きクレド-

[連載小説]I’m BLUE -蒼きクレド- 第26話「ブラジル戦で証明された力」

木崎伸也 協力:F
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舞台は2038年。11月開催のインド・ワールドカップに向けて、日本代表は監督と選手たちの間に溝が生じていた。
日本代表の最大の弱点とは何か?
新世代と旧世代が力を合わせ、衝突の中から真の「ジパングウェイ」を見いだす。
木崎伸也によるサッカー日本代表のフィクション小説。イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
 スタジアムにバスが到着してロッカールームに入ると、玉城迅はすぐにシャワーを浴びた。冷たい水で高ぶる気持ちを落ち着かせる。デビュー戦と同じ過ちを犯すわけにはいかない――。
 これから日本代表は国立競技場でブラジルと対戦する。アルゼンチン、デンマークと同組になった半年後のワールドカップ(W杯)に向けて重要なシミュレーションだ。
 玉城がタオルを頭にかぶってシャワーから出てくると、主務の勝吉進一が壁に3枚の標語を張っていた。
「サッカーの未来を変える」
「碧と蒼」
「サッカーバカ」
 4日前、日本代表は現役選手とOBたちが集結し、オールスターミーティングを行った。そこで各自からクレドが提案され、この3つがブラジル戦に向けて採用された。ただしあくまでこれは暫定的なもので、定期的にオールスターミーティングを開催することも併せて決まった。

 あのミーティングから日本代表の空気は一変した。選手たちが積極的に話し合うようになったのだ。
 新たに始まったのが毎朝15分のタクティカルブリーフィングだ。
 朝食後に食事会場に残り、選手がフォーメーションの形に並んで、テニスボールを使って戦術的な動きを確認する。
「複雑なポジションチェンジを実現するため、毎日ディスカッションしませんか?」
 玉城が提案したところ、キャプテンの高木陽介がすぐに採用してくれたのだった。
 ベテランの「碧」と若手の「蒼」をひとつにするために、食事の席を固定せず、毎日AIを使ってシャッフルする試みも始まった。

 ロッカールームの円陣についても慣習を変えた。これまではキャプテンがスピーチしていたが、先発以外の選手が担当することになった。
 ブラジル戦で秋山大監督から指名されたのは、出場停止中の加藤慈英。
 慈英は肩を組む仲間たちに向かって、声を張り上げた。
「みんなニュースを見ただろう。昨日、ブラジルのやつらは秋葉原の電気街で買い物をしてやがった。開始1分で観光気分のやつらを本気にさせろ。そのうえでたたき潰せ!! カナリア色のユニフォームにびびるんじゃねえぞぉ‼︎」
 玉城は通路でブラジルの選手の横に立つと、慈英の言葉の意味がわかった。
 カナリア色をまとった選手たちは談笑し、これからカーニバルへ行くのかと思うほどリラックスしている。彼らの目の色を変えなければ、W杯の予行演習にはならない。

【(C)ツジトモ】

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載。

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