指揮官交代で“ポジションレス”のバスケを追求する千葉ジェッツ 新戦力ヴィック・ローは期待大

大島和人

攻撃以上に守備のインパクトが大

跳躍力もヴィック・ローの強み 【(C)CHIBAJETS FUNABASHI/PHOTO:Keisuke Aoyagi】

 攻撃のスタッツも上々だったが、それ以上に守備のインパクトが大きかった。彼は210センチ・138キロのジョシュア・スミスから、170センチ台のガードまで、コート上の全員に対応できるディフェンダーだ。ビッグマンは得てして「自分より小さな選手」への対応に苦しむものだが、彼はそれがまったくない。

 しかもなかなかのナイスガイだった。アメリカ人といっても真面目なキャラ、気難しいキャラと人それぞれだが、彼はとにかく陽気でフレンドリー。会見場に入って一言目は日本で早速覚えた「オッス!」のあいさつだった。

新HCは「ポジションレス」の攻守を目指す

 千葉の外国籍選手はヴィック・ローに加えてクリストファー・スミス、ジョン・ムーニーもハンドラーの務まるタイプ。サイズでなく動き、スキルに振り切った編成だ。

 パトリックHCはこう述べていた。

「私はヨーロッパでも日本でも“ポジションレス・バスケットボール”をやっていました。誰が1番、誰が4番でなく(各選手が)できるだけたくさんのポジションをやります。5アウト(全員がアウトサイドのプレーヤーとして攻める戦術)ができるようなスタイルの中でミスマッチを使おう、相手の弱いところを見つけて突こうという狙いです。ヴィックはオーストラリアやGリーグでも得点を取っていましたけど、今日はオフェンスだけでなくディフェンスもフルコートで相手をピックアップして、他の選手と同じようにやっていました」

ヴィック・ロー自身が語る「強み」は?

 試合後のヴィック・ローはこう口にしていた。

「自分にとって初戦でしたが、速いペースのバスケットボールだったと思います。相手が大きなサイズだったので、ダブルチームを使いました。ミスが起きるとしても、そこを努力やフィジカルでカバーできたところがポイントでした」

 ハードな守備、速攻といった戦術への適性についてはこう説明する。

「そうでなければこのチャンスはもらえなかったと思いますし、速さもプレスも自分の良さが出せる部分です」

 筆者が「攻撃も守備も1番(ポイントガード)から4番(パワーフォワード)まで対応できますよね?」と確認したら、英語と日本語でこう訂正された。

「ワン・トゥ・ファイブ(1 to 5)。イチ・ゴ!」

 5番(センター)としては明らかに細身だが、彼のフィジカルならばある程度はできるだろう。

 攻守両面で多彩なスキルセットを持つ彼だが、「特に自信を持っている部分」を訪ねてみた。答えはプレー以外の要素だった。

「自分の強みは“グッドチームメイト”なこと、そしてコーチャブルな(コーチしやすい/指導の吸収力が高い)こと。ジョン(パトリックHC)が言うことに対しても、素直に努力してみようという気持ちです」

日本になじもうとする姿勢も

 課題について尋ねると、こう返してきた。

「日本語をうまく喋れないこと!1日一つ日本語を覚えています」

 来日直後の彼に日本語力を求めるのは酷だが、ただ「日本語を覚えて使おう」「日本になじもう」という姿勢はよく伝わってきた。プロ野球やJリーグを見てもそうだが、そのような選手はファンに愛され、日本で成功する場合が多い。

 パトリックHCに「シーズン中も守備はこれくらいのインテンシティ(強度)でやるのか?」と尋ねると、答えはこうだった。

「全然これよりもっとインテンシティを上げます。今からステップアップして、もっともっと激しくプレッシャーを掛けたいと思っています」

 チームの変化について、ファンは期待と不安が相半ばする感覚で見守っていることだろう。一取材者が2日の試合と記者会見を取材した素直な感想として、こう言い切れる。今年の千葉ジェッツと、新戦力には、期待していい。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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