ホーバスHCの秘蔵っ子? バスケ代表で「大ブレーク」を見せる201センチの“隠し玉”シューター
男子バスケ日本代表は今月末のW杯予選、来夏のW杯に向けてチーム作りを進めている 【共同】
男子日本代表の現在地は?
大会後に女子日本代表を銀メダルに導いたトム・ホーバスが男子のヘッドコーチ(HC)に移り、2023年夏のワールドカップ(W杯)、24年夏のパリオリンピックに向けたチーム作りをスタートさせている。男子日本代表のミッションは2023年のW杯で“アジア勢最高”の成績を挙げ、それによりパリ大会の出場権を得ることだ。
まずチームの現在地について簡単に説明をしておこう。日本は23年夏のW杯をフィリピン、インドネシアとともに共催するホストカントリーで、予選の結果と関係なく本大会の出場を保証されている。ただしW杯のアジア予選には参加していて、昨年11月27日の中国戦を皮切りに6試合を戦い、中国、オーストラリアに2敗ずつしたためここまで2勝4敗だ。
また日本代表は7月12日から24日にかけて、インドネシアで開催された「FIBAアジアカップ2002」に出場した。準々決勝でオーストラリアに敗れてベスト8にとどまったが、内容的にはポジティブな5試合だった。なかなか代表に参加できない“海外組”の渡邊雄太、富永啓生を加え、戦術を浸透させられたことはチームの大きな収穫だったはずだ。
選手、組み合わせを試すホーバスHC
イランは37歳の元NBA選手ハメド・ハダディを外し、若手を多く加えたメンバーで来日していた。日本も渡邊、富永が外れた一方でNBA挑戦中の馬場雄大がホーバス体制下の初招集を受けた。なお日本最高のプレーヤーである八村塁(ワシントン・ウィザーズ)は東京五輪からまだ代表でプレーしていない。
日本もいろいろな選手を試し、ホーバスHCのスタイルに対する適応を見ながら、来年のW杯本番でプレーする人材と組み合わせを探っている段階だ。
大ブレークを遂げている井上宗一郎
井上は2021-22シーズンのサンロッカーズ渋谷で、1試合平均4.8分しかプレーしていない。渋谷の伊佐勉HCは「主力と控え」の垣根を作らず、試合中にいろいろなプレーヤーをまんべんなく起用するタイプだが、井上は渋谷が昨シーズンに登録した選手の中でもっとも出場時間が少なかった。
しかし13日、14日のイラン戦ではいずれもチーム最長の出場時間を記録した。さまざまな人材が試されている中で、彼は指揮官の期待に応えてサバイバルを果たし、プレータイムを伸ばしつつある。8月末のW杯予選でも、メンバー入りの可能性が高い。
井上は201センチ・105キロのパワーフォワード(PF)で現在23歳。世田谷区立梅丘中、福岡大附属大濠高、筑波大と超名門でプレーしてきたエリートだ。とはいえ6月に開催された若手中心のディベッロプメントキャンプではホーバスHCに「私はあなたを知らない」と告げられていたという。
指揮官が探し求めていた「ストレッチ4」
「アジアカップの経験が大きかった。オフェンスもディフェンスも、彼は本当にレベルアップした。アジアカップに行く前、彼のディフェンスは足が動いていなかったし、手も使えなかった。でも今日はスイッチング(受け渡し)をして、相手の一番うまい選手にいいディフェンスをしていた」
女子の銀メダルチームもそうだったが、たとえビッグマンでも「3ポイントシュートをしっかり打つ」ことはホーバスHCが選手に課す最低条件だ。井上は3ポイントシュートに定評があり、今回のイラン戦2試合では3ポイントシュートを2本ずつ決めている。13日の試合は第4クォーター残り1分19秒の勝負どころで3ポイントシュートを成功していて、イランを突き放す貴重なシュートだった。
ホーバスHCは井上の働きについてこう述べる。
「W杯予選のウィンドウ2まで、ストレッチ4があまりいなかったんです。私たちのオフェンスではストレッチ4、ストレッチ5が大きな意味を持ちます。彼は絶対にストレッチ4で、3ポイントシュートも入るし、すごく大きい存在かなと思います。英語で言うと『comfortable』です。彼が出るときは全然心配しません。逆に自信があるほどです」
ストレッチ4とは相手の守備を“ストレッチ”して攻撃のスペースを広げられる4番(PF)を意味する表現だ。インサイドの強さと、外からのシュート力を併せ持つタイプが“ストレッチ4”になる。3ポイントの怖さがあるから、マッチアップしている選手は外まで出てくる。ホーバスHCは井上にそんな適性を見いだしている。