横浜FMの闘将・喜田拓也の決意表明 ACL初制覇で「クラブの歴史を変える」

舩木渉

2年ぶりに挑んだACLのグループステージは、厳しい環境の中で首位通過を果たした。チームとしての成長を喜田も実感している 【Photo by Minh Hoang/Getty Images】

 過去のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)は、2020年大会のラウンド16が最高成績という横浜F・マリノス。しかし、J1リーグで首位を走り、好調を維持する今季は、その壁を打ち破る絶好のチャンスだ。日本で開催され、DAZNでもライブ配信されるノックアウトステージに向けて、20年大会の悔しさを知るキャプテン・喜田拓也も「必ずクラブの歴史を変えてみせる」と意気軒高だ。まずは8月18日、日本勢対決となるラウンド16のヴィッセル神戸戦に、全力を傾ける。

チームは苦しい経験をしながら強くなる

――まもなくAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のノックアウトステージが始まりますが、まずはベトナムで行われたグループステージの戦いを振り返っていただけますか? 16日間で6試合をこなす非常に厳しい日程でしたが、横浜F・マリノスは4勝1分け1敗でグループHを首位で突破しましたね。

 日程や環境など、すべてにおいてタフな状況下での6試合でしたけど、文字通り「チーム全員の力で乗り越えた」印象が今でもあります。異国の地で、思い通りにいかないことが多々ある中でも戦い抜けたことで、チームとしてすごく力強くなったと感じています。

――グループステージの結果や内容は、その後の戦いやチームの成長にどうつながっていますか?

 中2日の6連戦だったので、チーム全員で練習できる時間が少なかったんですが、それでもサッカーの内容はグループステージを通して尻上がりに良くなっていったと思います。

 チームというのは、苦しい経験やもがいた経験をしながら強くなっていくと僕は思っていますし、チームの絆は「いいこと」だけでは培えない。試合や練習の時間以外はホテルに缶詰めでしたし、環境や暑さなど自分たちでコントロールできないことも多い中で、サッカー以外の部分でも言い訳せずに戦い抜けたことは、チームとしてのたくましさに間違いなくつながっていると思います。チームの絆も深まりました。

――海外での開催も噂されていましたが、結局ノックアウトステージは日本で行われることになりました。横浜FMにとっても大きなアドバンテージになるのではないでしょうか?

 いわゆるホームという感じで戦えるので、日本のチーム、そしてF・マリノスにとってもアドバンテージになると思います。日本の環境が素晴らしいのは言うまでもありませんし、グループステージよりもスムーズに(試合に)臨めるのではないかという印象を持ちました。ただ、どこで開催されても受け入れる覚悟はできていたので、日本で行われると決まっても特別な感情はなかったですね。

――2020年大会はラウンド16で水原三星ブルーウィングスに敗れました(2-3)。クラブ史上初のノックアウトステージ進出で期待が大きかった分、失望も大きかったはずです。だからこそ、今大会でラウンド16の壁を越えることは、横浜FMの未来にとっても極めて重要な意味を持つのではないですか?

 おっしゃる通りです。僕がACLを初めて経験した14年は、チームとしても個人としても残せたものは何もなかった(喜田は出場機会がなく、チームはグループステージ敗退)。20年は自分たちの力でACLの舞台に戻ってきたのに、内容に手応えがありながらもラウンド16で敗れてしまった。あの日のあの光景や悔しさを、忘れたことはありません。

 チームとして必ずACLの切符をもぎ取って、借りを返すと誓っていたので、今回その舞台を自分たちで用意できたことには自信を持っていいし、何も恐れることなくノックアウトステージに挑んでいきたいです。

 Jリーグやルヴァンカップ、天皇杯などと比べて、大会の価値や重要性に差をつけるつもりはありませんが、アジアのタイトルはチームが大きく変わっていく上で必要な要素の1つになってきます。そういった意味でACLに懸ける気持ちは強いですし、このチームで培ってきたもの、積み上げてきたものでクラブの歴史を変えていく自信もある。失うものは何もないという気持ちで臨むつもりです。必ずF・マリノスの歴史を変えたいと思います。

創設30周年は歴史を変えるタイミング

J1で首位を走る今季のチームを、キャプテンとしてけん引する喜田。ACLでもラウンド16の壁を突破し、“未知の世界”に足を踏み入れたい 【YOJI-GEN】

――あらためて20年大会を振り返って、ラウンド16を突破できなかった要因は何だと考えていますか?

 1つは「キワ」のところですかね。水原三星戦はボールの運び方が良くて、自分たちのチャンスもすごく多かったですし、前半で試合が決まっていてもおかしくない内容でした。ただ、そこで決め切れなかった。「キワ」の部分が足りなかった。ゴール前で攻め切る、守り切る、球際もそうです。相手はそういった勝負所で「キワ」の強さを前面に押し出してくるチームでしたし、最後は彼らのパワーに押されてしまった印象を持ちました。

 結果は帰ってきませんが、あの試合での経験は絶対に無駄にしてはいけない。逆に勝ち切る強さが欲しかった。自分たちが勝ち切ることで、チームやクラブに残るものは絶対にあると思うんですよね。

 僕たちは本当に欲張りなので、内容と結果の両方を求めるところは貫きつつ、やはり最後はどんな手を使ってでも結果をもぎ取る力強さが必要だと、今回は肝に銘じて臨みたい。みんなで意思統一をして戦えば必ず勝てると思うので、全員でしっかり目線をそろえて挑んでいきたいと思います。

――クラブ史上初のベスト8進出を懸けた一戦の相手は、ヴィッセル神戸です。20年大会と同じく一発勝負で、今回は勝手知ったるチームと戦うことになりますが、神戸の印象や勝負のポイントについて聞かせてください。

 神戸がアジアのタイトルに特別な思いを持っているのはすごく感じますが、僕たちは相手ありきで考えたことはありません。もちろん神戸のことはリスペクトしていますけど、いい意味でそれ以上でもそれ以下でもないというか。

 要は自分たちがどうするかでしか結果は変わらないし、どこが相手であっても僕たちの姿勢が大きく変わることはない。準備が変わることもありません。今は神戸との試合が楽しみでしかないですし、思い切り楽しんで、クラブの歴史を変えたいという思いしかありません。意気込みは本当にその1つだけです。

――ACLのタイトルを獲得することは、横浜FMにとってどんな意味を持つのでしょうか?

 やはり、這いつくばってでもそこにたどり着かないと見えない景色は絶対にあると思っています。クラブにとってどんな価値をもたらすのか、どんな意味があるのかというのは、タイトルを獲ってからしか分からない部分もあるので、だからこそどんな手を使ってでもACLのトロフィーをつかみ取りたい。簡単ではないことは重々承知の上ですが、ACLはすべてを懸けてでも獲りに行くだけの価値があるタイトルなんです。

 F・マリノスはACLの決勝の舞台に立ったことはもちろん、タイトルが見える位置にまで勝ち上がったことすらもなくて、ベスト8より先は未知の世界。そこを自分たちが切り開いていきたいし、そこで感じられるものがクラブに大きな成長をもたらしてくれると思います。今年、必ずその道を作りたいです。

――今は自分たちの力を発揮すれば、未知の場所にもたどり着けるという手応えがあるのでは? 今年はクラブ創設30周年という節目の年でもあります。歴史を変える最高のタイミングではないですか。

 まさしく、おっしゃる通りです。自分たちがやってきたことに自信を持っていますし、それだけの取り組みをしてきた自負もある。いいことばかりではなかったですけど、それでもお互いを信じて貫き通してきたので、そこに対するみんなの自信は揺るがない。

 ACLのラウンド16から先は見たことのない景色ですが、必ず自分たちで切り開いていきたいし、クラブ創設30周年ということを考えても、やはり歴史を変えるべきタイミングだと思います。このタイミングでF・マリノスにいられる幸せも感じていますし、各選手が同じ思いを強く持っていると思うので、それをしっかりプレーで表現して、チームに関わるすべての皆さんに最高の景色を見せてあげたい。それをモチベーションに頑張りたいですね。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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