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J1月間MVP 横浜FM水沼宏太、変化のワケ「信じてやり続ければ未来は変えられる」

舩木渉

第17節・G大阪戦は、先制されながら逆転勝利。61分、エウベルのラストパスをきれいに足もとに収め、左足でネットを揺らした水沼宏太のゴールが決勝点となった 【写真は共同】

 6月度の「2022明治安田生命Jリーグ KONAMI 月間MVP(J1)」に、横浜F・マリノスの水沼宏太が選出された。昨シーズンは、先発出場がわずか1試合。ピッチ上で思うように自分を表現できないもどかしさを味わった。しかし、横浜FM復帰3年目の今シーズンは、首位を走るチームの中心選手として多くのチャンスに絡み、6月の2試合でも2ゴールをマーク。苦しい時期も自分を信じてやり続けたこと、そして何よりもサッカーの楽しさを再認識したことで、チーム内における立場は大きく変化した。

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まさか開幕スタメンを飾れるとは……

――6月度の明治安田生命J1リーグKONAMI月間MVP受賞、おめでとうございます。まずは初受賞の感想をお聞かせください。

 連絡をいただいてビックリしました。「6月は何試合あったっけ?」と思ったら2試合しかなかったので少し戸惑いましたけど、大変光栄な賞をいただいたのでうれしいです。ありがとうございます。

――6月で印象に残っている試合やプレーはありますか?

 ガンバ大阪戦(第17節/2-1で勝利)ですね。中断明け最初の試合で、自分たちがどれだけいい流れに持っていけるかを考えたときに、非常に大事な試合でした。先制されてしまったので、少し嫌な流れかなとは感じたんですけど、自分たちの力を信じて最後まであきらめなかったことが勝利につながったと思います。僕自身もすごく気持ちのいいゴールを決めることができたので、印象に残っています。あの場面ではコントロールからシュートまで冷静に、いい流れで打てました。パスを出してくれたエウベルも僕をずっと見てくれていたので、彼にも感謝ですね。

――水沼選手と言えば、正確なクロスでのアシストというイメージがありますが、今シーズンはゴールも増えています(7月11日現在4ゴール)。意識して取り組んでいることはありますか?

 F・マリノスの強みは誰でも点が取れるところです。僕自身、F・マリノスに復帰してからの2年間はアシストの方が多くて、もちろんアシストの醍醐味もあるんですけど、ゴールを決めて自分の価値を上げていきたいという考えもあります。最近はゴール前に入り込んでいくことをすごく意識していたので、サイドに張っているだけではないプレーも出せているのではないかと思っています。

――今シーズンは出場機会が大幅に増え、継続的にゴールやアシストという結果も残しています。しかし、昨年の今頃はすごくつらかったのではないですか? リーグ戦の先発出場が1試合もない状況を、選手として受け入れるのは難しいはずです。

 最近もふと思い返すことがあったんですけど、昨年はやっぱりキツかったですね。「サッカーってこんなに面白くなかったかな……」と思う時期もあって、本当に悩んでいました。でも自分の悔しい気持ちを抑えたら、「これにも何か意味がある。自分が活躍したい場所はF・マリノス。とにかくやるぞ!」という思いしかなかったです。

――最終的にはリーグ戦36試合に出場しましたが、スタメンは1試合だけでした。

 昨年の今頃は、まさかその後もずっとベンチスタートが続くとは思っていませんでした。でも、それ以上にまさか次の年に、F・マリノスの選手として開幕スタメンを飾れるとは思ってもいませんでした。この1年で、自分を信じてやり続けることが一番重要で、本当に自分次第で未来は変えられるんだと、あらためて思いましたね。

 そして、サッカーは楽しまなければいけないな、とも。1年前の自分がサッカーを楽しんでいたかというと、そうではなかったと思うので。どうにかして立ち位置を変えなければいけないから、楽しいとか楽しくないとか関係なく、とにかく与えられた役割を全うするだけでした。ただ、そうして全力でやってきたことが、今につながっているのは間違いないと思います。

サッカーには楽しさが散りばめられている

その明るいキャラクターで好調の横浜FMを引っ張る水沼。先発出場1試合に終わった昨シーズンの苦しみも、自らの成長の糧に変えた 【スポーツナビ】

――今年に入ってチーム内での立場が大きく変わった要因は、何だと考えていますか?

 もっと自分を表現したい、ピッチ上でチームのために戦いたい、自分を表現する時間がないのがつらいと昨年からずっと言っていたと思います。でも、2022年に入るタイミングで他のクラブからたくさんオファーをもらって、自分の選手としての価値を評価してくれる人がいるんだと、すごく前向きになれたところがあって。

 20年にF・マリノスへ移籍加入してきたとき、「今の自分だったらF・マリノスに絶対貢献できる、絶対に活躍できる」と思って帰ってきました。なのに「活躍しないで他のクラブに移籍するのか……それは違うだろう」という思いもあって残留を決めたんです。

 その決断をしたことで何かから解放された気がして、自分をのびのびと表現できるようにもなりました。いつもの自分に戻れたというか。開幕前のキャンプから「サッカーが楽しい! よし、F・マリノスのためにやるぞ!」という気持ちだけでやれていましたね。

(ケヴィン・)マスカット監督が調子の良さを見て自分を開幕戦で使ってくれて、そこから少しずつ結果を残せるようになった。自信をなくさずにここまで来られて、今は自分らしさをピッチで表現できています。とにかく芯の部分は譲らずにやってきたので、それが今の自分を作った一番の要因じゃないかと思います。

――変な言い方ではありますが、出場時間が増えたことによって、さらに出場時間が伸びる好循環に入っているということでしょうか?

 間違いなくそんな感じですね。昨年は限られた時間のために集中して、頭と心の整理をして結果を出そうともがいてきて、新たな武器を身につけられた自負があります。結果を残すことが信頼を勝ち取るために最も重要なので、使ってもらった時間内でそれができたことが鍵だったのかなとも思います。

――目標から逆算した準備というのは、水沼選手が大事にされてきたものでもあります。先発出場でも途中出場でも、どこに目標を設定して準備するか。信頼を勝ち取るために何をすべきなのか。当たり前のようで難しいことを徹底してきて、選手としての幅も広がったのではないかと感じます。

 チームを勝たせたい、優勝させたい、日本代表になりたいという夢や目標を持ってやっているのはずっと変わりないんですが、それらを成し遂げるには近場の目標も決めなければいけません。つまり目の前の試合に勝つことが、最も近い目標になります。

 昨年は後半から出ることが多かったのですが、例えば出番が20分しかないのに、最初の5分で息が上がって何もできないのではプロとして絶対にダメですよね。目の前の試合でチームに貢献するためには、何を準備しなければいけないのか冷静に頭で考えて、そのときに何が必要かを整理する能力はすごく洗練されたのではないかと思っています。

 今も「とにかくチームを勝たせたい」という強い思いがありますけど、「そのためには何をしなければいけないのか」と考えたときに、結果に対して前のめりになっていたら絶対にダメだと思っていて。どうやったら結果が出るのか、チームをうまく機能させることができるのかというと、僕自身が単純にサッカーを楽しむ。そこなんですよね。

 昨年はそれができていなくて苦しかったんですけど、「サッカーって楽しいな。やっぱりこれだよね」と思えて、少しでも光が差し込んできたら何事もうまくいくというのを経験できた。今は与えられた時間で思い切り自分を表現して、楽しんでやろうと思いながらプレーできています。これまでの積み重ねのすべてが今の自分を作り上げているんだと、あらためて感じますね。

――サッカーを楽しむというのは、簡単なようで実はすごく難しいのではないですか? 特にプロ選手となると、「楽しい」を自分の中でどう定義していくのかが、より複雑になっていくのではないかと思います。

 自分の中に「楽しみたい!」「楽しもう!」という気持ちはもちろんあるんですけど、最近はそれもちょっと違うなと思っていて。結局のところ、とにかく試合に全力で夢中になっていたら、「楽しいな」と思う瞬間がたくさん出てくる。ゴールを決めたり、アシストをすることだけではなく、地味でも自分の思い描いた通りのプレーがピッチ上で表現できると、「うわ、楽しいな」と思うことがあります。複雑に見えて実はシンプルで、いろいろな「楽しさ」がサッカーには散りばめられているなと、あらためて純粋に感じているところです。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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