ACLに懸ける神戸のベテラン酒井高徳「たとえ今の力は横浜FMが上でも――」

元川悦子

J1残留に向けて厳しい戦いが続く神戸だが、吉田体制となって「当たり前のことを当たり前にやる」意識が高まったと酒井は話す 【Getty Images】

 今季すでに三度の監督交代を行うなど迷走が続き、J1リーグでは第24節を終えて降格圏に沈むヴィッセル神戸。残留のために厳しい戦いが続くが、それでも彼らにはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)という希望が残されている。日本開催のラウンド16(DAZNでライブ配信)で対戦する相手は、J1で首位を走る横浜F・マリノスだが、ベテランDF酒井高徳はあくまで強気だ。準決勝で敗れた2年前のACLよりも、さらにいい景色を見るために――。まずは、この第一関門を突破したい。

残留のためになりふり構ってはいられない

――AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のノックアウトステージが迫ってきました。まずは今のチーム状況から聞かせてください。

 吉田(孝行)監督の下で戦い始めた7月2日のサガン鳥栖戦(第19節)から、公式戦5戦連続無敗と結果が出るようになりました。ただ、チームはそこまで大きく変わっていないというのが、僕個人の正直な印象ですね。

 今季は守備で言えば、最後の寄せや戻り、球際、戦う部分といった細かいところがあと一歩、出せなかったんですけど、監督交代によって「当たり前のことを当たり前にやる」という意識が高まり、90分間継続できるようになった。それで結果が出始めたのかなと。簡単な試合は1つもないですけど、ハードワークの重要性をみんなが再認識して戦えているのはいいことかなと思いますね。

――ただ、ボージャン・クルキッチ、武藤嘉紀、菊池流帆といった主力選手の負傷離脱が相次ぎ、戦力的には厳しい状況が続いています。

 確かにヨッチ(武藤)や流帆が出られないのは、チームにとって痛いところではあります。ただ、今の僕らはJ1残留を目指さなければいけないので、なりふり構ってはいられない。「誰かがいないからできません」なんて言ってる暇はないんです。

 これまで出られなかった選手にチャンスが回ってくるので、代わったメンバーは「自分が結果を出してチームに貢献するんだ」という気持ちでプレーしなきゃいけない。いずれにしても、「苦しい思いをしないで勝てる試合なんてない」ってことを全員が今一度、理解して取り組まなくてはいけないと思っています。

――大迫勇也選手も途中出場が続いていますが(8月6日のセレッソ大阪戦でスタメン復帰)、ケガの具合はどうなんでしょう?

 ケガに関しては、僕の口から言えることはないんですけど、サコが途中から入ってきた時の迫力、「自分が試合を決めてやるんだ」という勢いは毎試合毎試合、すさまじいものがある。それを僕も常にピッチ上で感じています。サコは思いを行動に移せる選手だし、実際にゴールも取っている。ホントに助かっています。自分も天皇杯などで途中出場するケースがありますけど、交代選手の勢いや心意気でチームはガラリと変わる。それをもっと全員で共有しなきゃいけないんです。

 7月16日の鹿島アントラーズ戦(第22節)なんかは、(途中出場の)サコが先制点を取って、(相手が退場者を出して)人数もこちらが1人多かったのに、後ろに重心が行ってしまった。「前へ前へ」っていうところはもっとサコから見習わないといけないし、そのスイッチにみんなが連動して出て行かなきゃいけない。僕ら後ろの選手はしっかり応えていくことが大事ですよね。

――確かにその通りですね。一方でこの夏には飯野七聖選手、ステファン・ムゴシャ選手、小林祐希選手といった新戦力も加わりました。彼らの加入効果はいかがですか?

 まだヴィッセルで公式戦に出ている時間が少ないので、何かを求めるのはどうしても難しいところがあります。それでも、練習を通して日に日にチームにフィットしてきている。それぞれの良さを思い切り出してほしいと強く願っています。

 ヴィッセルというのは、いい意味で個がすごく強い集団。そこに合わせてプレーすることだけを考えると、自分の良さが消えてしまう恐れがある。だからこそ、彼らには自分らしさをどんどん発揮しながら、チームに貢献してほしいんです。ムゴだったらターゲットになれるし、ナナ(飯野)だったら個で打開できるし、チームに新たな活力をもたらせる。祐希にしても、ヨッチや流帆がいない不安をかき消すような仕事を見せてもらいたいですね。

ケガ人が相次ぐ状況にも、「誰かがいないからできないなどと言っている暇はない」と前を向く酒井。横浜FMとのACLラウンド16を浮上のきっかけにしたい 【YOJI-GEN】

いかにサイド攻撃を単体で終わらせるか

――チーム状態を最大限まで引き上げて、8月18日のACLラウンド16の横浜F・マリノス戦に向かいたいところです。

 ホントにそうです。F・マリノスはJ1で首位を走っているチームで、(A代表として)7月のE-1選手権に参加した選手も多い。単純に今の力を比べたら、彼らの方が上だなと個人的には感じています。でも、ACLは一発勝負。プレッシャーの感じ方なんかはリーグ戦とまったく違うし、F・マリノスもどこか消極的になったりする部分があるかもしれない。ここ一番の力強さはヴィッセルも持ち合わせているので、(勝負は)どっちに転ぶかは分かりません。

 もちろん難しい試合になるだろうし、苦しい時間帯も絶対にあるだろうけど、そこでしっかり耐えられれば、必ず勝機は見出せる。僕らの方がいろいろと悔しい思いをしてきた分、「(ACL準決勝で敗れた2年前と)同じ場所に辿り着きたい」という意欲も強い。F・マリノスをしっかり叩いて、2年前よりもいい景色を見るんだという強い意気込みで向かっていきたいですね。

――酒井選手は左右のサイドバック(SB)を担っていますが、対峙する横浜FMのサイドアタッカーは誰が来ても手強いですね。

(水沼)宏太君とはロンドン五輪代表で一緒にやってますし、(先日の代表戦でケガをしてしまった宮市)亮とはA代表や海外で接点があります。特に亮がドイツのザンクトパウリにいた頃は、僕も同じハンブルクに住んでいてよく一緒にいたんで、お互いのことを深く知っている関係ですね。

 彼らサイドの選手はそれぞれ特徴が違いますけど、僕はF・マリノスの個というより、チーム力の方がすごく脅威です。宏太君などを単体で見たらそんなに怖くはないけど、そこに絡んでくる選手が多く、各々が確実に自分の役割を果たすところが、F・マリノスの強みなんです。

――水沼選手が出てきた場合だと?

 宏太君だったら、フリーランとかアシスト、ゴールに関わる部分のクオリティが、最近はすごく高いなと感じます。彼がいいクロスを上げることをチームメイトも分かったうえで、複数の選手が中に入ってくる。そのどちらが欠けても良い攻撃は成り立たないし、それをしっかりと90分間やり続けられるのが、今のF・マリノスなんです。

 だからこそ、いかにしてサイド攻撃を単体で終わらせるかが勝負のカギになってくる。早めに相手SBにプレッシャーをかけに行くとか、自分が早い段階でウイングの選手にプレスに行ったりして、F・マリノスのトップ下やFWに前向きにパスを出せる選手を抑えられれば、そこまで怖さは出せなくなると思います。

 もちろん完成度の高いチームですから、危ないシーンは数多く作られるとは思いますけど、最後の部分をしっかり寄せるとか、クロスを上げさせないとかを徹底すれば、チャンスはあるのかなと感じますね。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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